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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第七部/第四章 ひと と ひとならざるモノの絆
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第485話 現世と冥界を守る門

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 レアとトーシュ教授、彼の弟子達が乗り込んだ黒鉄くろがねの機関車は、先端部に出現したドリルをフル回転させながら、カミル・シャハトが乗っ取った〝毒の湖(ポイズン・スライム)〟へと突撃した。


「お、お前達は、諦めると言うことを知らないのかあああ」


 全長一〇〇〇mに及ぶドス黒いスライムは、山のような肉体をぶるぶると震わせながら街を踏み砕き、四つ足の馬に変化して逃亡を試みる。


「「気づくのが遅い!」」


 しかし、クロードが鋳造魔術で敷いた線路を走り、レアの操る機関車はどこまでも追い続けた。


「悪徳貴族の愛人があ、ならば毒にまみれて死ね」


 カミルは逃げられないと観念したか、スライムのぶよぶよした体表から、大気を焦がし大地を焼く毒液を吐きだすも――。


「たぬこそが愛人、じゃなかった正妻たぬ。だから、クロードもレアちゃんもバッチリ守るたぬっ」

「バウバウッ!」


 アリスとガルムが、契約神器を最大出力で展開。

 二人は都市パダルを縦断するように創りあげた術式防御結界――〝門神もんじん〟――で広がる毒素を無力化する。


「ガルム、なぜだ。なぜ俺の邪魔をする。ええい、この体格差だ。ムシケラと戦って負けるものかよ!」


 カミルはヤケになったか、何万という触手を振り回し、膨大な質量を誇るゼリー状の肉塊で機関車を押しつぶそうと試みた。


「カミル・シャハト。毒使いが何を言う? 鮮血兜鎧ブラッドアーマー展開!」

「蜂の一刺しでも、人間は死んじゃうたぬ。壊れやすいからこそ、生命は大切たぬ」

「アオーン」


 されど、クロードが己が肉体を粘液状の鎧で包み込んで盾となり、アリスとガルムも術式の城門で受け止め、膨大な触手の群れは大きくたわんだ。


「レア、この馬鹿に見せてやろう。世界も、生きる命も、お前がさげすむほどに軽くない。鋳造――八丁念仏団子刺はっちょうねんぶつだんござし――!」


 クロードは愛刀で麻糸の如く乱れた触手を切り裂いて、レアと機関車が進む道を開ける。


「はい。御主人クロードさまが半年間、準備を重ねた抗原体ワクチンの力。〝毒の湖(ポイズン・スライム)〟に示します」


 レアの操縦する光に包まれた機関車こそは、オボログルマと飛行自転車の製造で研鑽けんさんされ、〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟研究の全てが盛り込まれた、対抗技術の集大成だ。

 車体を覆う光そのものが封印術式であり、前面の大型ドリルは特効兵装。臨界に達したエンジンが限界を超える速度を発揮して、汽車は遂に巨大怪物を中央からぶち抜いた。


「あ、あ、AAAAAAA!?」


 カミル・シャハトは、全長一〇〇〇mを超える山の如き巨体にトンネルめいた大穴を開けられ、断末魔の悲鳴をあげた。

 ドス黒かったスライムの体組織がねじれ、毒が抜けるかのように赤い血の色に戻る。

 〝毒の湖(ポイズン・スライム)〟は〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟へと戻ろうとしているのだ。


「レ、レヴォリューション!」 

「Revolution!」


 カミルによって無理矢理支配されたゼリーの集合体は、肉体を乗っ取っていたウィルスが無力化されたことで――。

 それぞれ小さな肉塊となって、蜘蛛の子を散らすように逃亡をはじめた。


「どこへ行こうというんだ。人殺しども」

「この街にも、南にも、友や親戚がいた」

「彼らの未来を返せ!」


 しかし、ヴァリン領南部で数えきれない生命を喰らった罪人達に、逃亡など許されない。

 機関車から切り離された二〇両の客車から、一〇〇〇人を超える冒険者の集団が降り立った。


「レ、レヴォリューション!?」 

「Revolution!?」


 北欧神話において――。

 番犬ガルムが守る冥界から、死者が生者の世界に逃亡した例はない。

 〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟の細胞達もまた、犯した罪にふさわしい裁きの間へと閉じ込められた。


「うおおおっ、追いスライムが来たぞぉ!」

「ひゃっはあ、貴重な素材がお代わりだ!」

「いやっふう、金を寄越せ、飯を寄越せ!」


 冒険者達は、この半年間研究された〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟対策の魔術道具を用いて、地獄の獄卒もかくやという鬼気迫る表情で素材スライム狩りを始めた。


「あぎゃぎゃ、もうめちゃくちゃだ。〝華〟よ、カミル隊長は無事なのか?」

「花と蔦で探っているけど、この狂騒の中じゃ見つけ出せないわ」


 カミルの部下たる毒尸鬼コープス隊は、巨大怪物を街まで誘導したものの、予想もしなかった逆転劇に仰天した。


「あぎゃぎゃっ。こうなったら血の湖(ブラッディ・スライム)に仕込んだ毒を暴走させて、心中するかいっ」

「あのデカブツからは、もう毒が抜けているわ。制御不能よっ」


 古参隊員で幹部格でもあった〝蜘蛛〟と〝華〟は、難しい対応を迫られた。

 カミルという統率者を欠き、二m程度の小さな細胞に分裂してしまった〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟では、歴戦の冒険者に太刀打ちできない。

 しかし、毒尸鬼隊もまた佞臣軍閥ねいしんぐんばつ四奸六賊しかんろくぞく〟に組織された、一揆殲滅いっきせんめつのプロフェッショナルなのだ。


「あぎゃぎゃっ。オレ達は対人戦闘なら、一〇〇〇人が相手でも負けねえよっ」

「そうね。何度も命令されて、やってきたことだもの。皆殺しにして前に進みましょう。すべては、生と死の境界なき世界のために」

「「現世と冥界を守る門は、ここで潰す!」」


 〝蜘蛛〟と〝華〟は、血気にはやる毒尸鬼隊の残党を煽り、冒険者を皆殺しにすべく襲いかかった。

 けれど、彼らの振るう剣や槍は、銃剣をつけた小銃によって阻まれた。


「いいや、アンタ達の相手はアタシ達さね」


 蜻蛉に似た兜を被った女傑イザボー・カルネウスと、彼女が率いる白髪白眼の元ネオジェネシス兵が、冒険者達を守ろうと立ち塞がったからだ。


「あぎゃぎゃっ。ネオジェネシス、お前たちのやらかしたことを知っているぞ。オレ達、毒尸鬼コープス隊と何が違うというんだ?」

「今ある世界は滅び、生と死を分かつ門も砕け散る。そうなれば、貴方達の盟主だって戻ってくるの!」


 〝蜘蛛〟と〝華〟は必死で誘惑したが、イザボー達の心は既に決まっていた。


「ブロルが復活なんて望むものか。そして、世界は滅びない。あの子が、クロードが集めた仲間はアタシ達だけじゃない。空を見なっ、第四と、第五の塔が砕けたよ!」


 イザボーが天を指差す。

 暗雲から二筋の光が差し込み、マラヤ半島とヴォルノー島に轟音を響かせながら、二基の塔が崩壊した。

あとがき


お読みいただきありがとうございました。

応援や励ましのコメントなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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[一言] 冒険者達「「殺したかっただけで死んでほしくはなかった」」
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