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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第七部/第四章 ひと と ひとならざるモノの絆
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第480話 知恵と武技、過去と現在

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 カミル・シャハトは、人間ひとから邪竜かいぶつへと堕落し――。


「我が魔力の瞳はお前を見逃さず、我が死の翼はいかなる盾も貫き通す!」


 背ではためく四枚の翼で腐臭漂う吹雪を引き起こし、風と大地を瞬く間に腐らせて、クロード諸共に街の一角をドロドロの毒沼へと溶解させた。


「勝っタ。勝ったゾ。今度こそ俺ノ勝利だぁあああ!」


 カミルは蛍光色の菌類にびっしりと覆われ、獣のように艶めいた両腕をかかげて、勝利の余韻よいんに酔った。


「そうかい、カミル。お前は勝ちたかったのか?」


 その直後――。

 クロードは打刀〝雷切〟と脇差し〝火車切〟で、無防備なカミルの背を十文字に切り裂いた。

 青い雷と赤い炎に包まれた二振りのヤイバが、ドス黒い毒雪を撒く四枚翼を引き裂き、肉体を保護する緋色の鱗を砕く。


「だったら、邪竜の力なんて借りずに、自分の力で戦うべきだよ」


 しかし、裂傷から流れるのは赤い血ではなく、毒鳥の色鮮やかな羽根だ。


「クローディアスだと。馬鹿ナ、たった今殺したばかりナノに!」


 カミル・シャハトは、周囲の毒を取り込みながら、裂けた肉体を修復。

 再生した毒雪の翼を広げて、パダル市郊外にある田園を薙ぎ払った。

 陸稲や麦が腐り落ち、三白眼の細身青年も、全身を沸騰ふっとうさせて焼け果てる。


「ハハハ、やっタ!」


 カミルはしゃれこうべの如き顔を歪め、満面の笑みを浮かべたが……。


「横腹がガラ空きだっ」


 クロードは、そんなカミルの死角から横殴りの二連撃をぶち当てた。

 

「グハッ、そうか。悪徳貴族め、時間を巻き戻していルのだナ? 力の在処に意味はない。大切なのは正義か、邪悪かだ!」


 カミルは雷と炎を毒で消火しつつ、手のひらを突き出した。

 毒沼を操り、あたかも大地から怨念を呼び起こすように、直線一〇〇〇mを貫く毒柱の群れを作りあげる。

 二刀を持った青年は、丘陵に建てられた大型風車一〇基を巻き込みながら吹き飛び、四肢をもがれるようにして腐り落ちた。


「思い知ったか!」

「そうかい。でもオズバルトさんなら、違う答えを言うんじゃないか?」


 次の刹那。

 クロードは勝利の誤認すら許さず、カミルの頭上に青く輝く雷撃と赤く燃える炎弾を落とし、二刀を斬り下ろす。


「お前が、アイツの名前を口にするナ!」


 さすがのカミルも、何度も引っかかれば、学習するらしい。

 ニーズヘッグの肉体から伸びる毒蔦や毒糸で雷と炎を防ぎつつ、右手に毒羽根を固めた槍を、左手に同様の剣を握って受け止める。


「クローディアス、お前に何がわかる? 俺とオズバルトは、同じ西部連邦人民共和国くにの、同じ村で生まれたんだ」


 クロードは眼窩がんかに赤い火の灯るしゃれこうべを覗き込み、カミルもまたクロードの三白眼を睨みつける。二人は無数の雷火らいかと毒雪をぶつけ合いながら、一進一退で切り結ぶ。


「オズバルトは良いヤツだ、親友だと思っていた。だから幼馴染がアイツと交際を始めた時も、俺は幸せを願って身をひいた……」


 カミルは剣戟けんげきの最中、地面より無数の毒キノコを湧き上がらせて、石畳の道路を砕いた。


「ガルムちゃんから、彼女の盟約者だった女性を、お前が想っていたことは聞いているよ」


 しかし、クロードは慌てず騒がず、中空に鎖で足場を作って斬り合いを続行する。


「そうダ。俺もオズバルトも、彼女を幸せにしたかった。だから、一旗揚げようと一緒に軍へ入ったんだ。なのに、なのに、アイツは彼女を殺しやがった!」


 カミルの伽藍堂の瞳から涙がこぼれるように赤い火花が散る。


(共和国の佞臣ねいしん軍閥〝四奸六賊しかんろくぞく〟が、邪魔だった先代教主の支持者達を虐殺し、カミルの幼馴染は民衆を庇って、オズバルトさんに斬られた)


 クロードとカミルが振るう、四振りの得物が噛み合って……。

 青い雷と赤い炎、白い雪と黒い毒が、町外れの丘で幻想的に舞い踊る。


「俺は悪くない、彼女も悪くない。オズバルトだって悪くない。この旧く腐った世界が間違っている。だから俺は、ファヴニルと共に新世界を創造し、彼女を蘇らせるんだ。そうすれば、今度こそ今度こそ俺を選んでくれる。愛してくれる」


 それが、カミル・シャハトの真なる祈り。

 親友を、恋人を、憎めなかったからこそ、世界を呪った。


「カミル。お前は、お前の想い人が……。パダルの民衆を皆殺しにするような男を、本気で愛すると思っているのか?」


 クロードの問いに、カミルは沈黙した。


「お前は〝四奸六賊しかんろくぞく〟の命じるままに、イザボーさんの家族や多くの罪なき人々を手にかけた。過ちを繰り返し続けて、幼馴染が認めると思っているのか?」

「認めさせるさ。誰が正しいのか、誰が一番愛しているのか、今度こそわからせてやるのだ。過ちなどないっ、俺が正義だ!」


 クロードはカミルの返答に浅く息を吐き、二刀を握る両腕に力をこめた。


「カミル・シャハト、この悪党め。そんな男だから、ガルムちゃんに愛想を尽かされるんだよ!」

「うる、せえええええっ。俺は超越者だ。脆弱なニンゲンが、くだらんモノサシではかるなああっ」


 カミルの四枚翼がはためき、再び周囲一帯を毒で腐敗させる。

 農家が崩れ、馬屋が壊れ、水場も食料庫も何もかもが腐り落ちて、三白眼の細身青年も一〇度を超えて毒に呑まれた。が!


「そういうことかあ。悪徳貴族め、お前は時を巻き戻していたんじゃない。こんな、こんな単純な手段でひっかけた」


 カミルも一〇度繰り返せば、クロードが仕組んだカラクリに気づいたらしい。

 人型邪竜は広範囲攻撃をやめて、三白眼の青年を自らの手で握りつぶした。

 そこにあったのは肉骨ではなく、はたきを組み合わせて偽装した身代わり人形だった。


「カミル、知っているかい? 蛇にはピット器官って、熱を感じる部位があるんだ。ベータやシュテンさんから聞き出したんだけど、お前が誇る魔力の瞳、顔なし竜(ニーズヘッグ)のセンサーも、類似の能力みたいでね。目鼻が無くても見える理由さ」


 蛇は夜、眼が見えずとも熱感知の感覚器官で獲物を把握する。

 しかし、焚き火のような熱源を用意するだけで、特異な感知能力は幻惑されるのだ。


「だから、鋳造魔術で〝魔力を帯びた囮〟を作り、俺の目を欺いたというのか!」


 クロードはニヤリと笑った。


「最初に言っただろう? 勝ちたいのなら、邪竜の力なんて借りずに、自分の力で戦うべきだって」


あとがき

お読みいただきありがとうございました。

応援や励ましのコメントなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)


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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] >焚き火のような熱源を用意するだけで、特異な感知能力は幻惑されるのだ ファブニル「クローディアスを見失うなんて、カミルもまだまだだね」
[良い点]  おはようございます、上野文様。  クロードが毒沼に沈んだ時はどうなるかと思いましたが、まさか鋳造魔法のハタキを組み合わせていくつもの囮を作り出すとは驚きです。  蛇に備わっているピット…
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