表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第七部/第四章 ひと と ひとならざるモノの絆
490/569

第479話 悪鬼の逆襲

479


 三白眼の細身青年クロードは、恋人のアリスと戦友ガルム、イザボー隊、そして彼女達が救出した民間人を逃がすため、単騎で〝毒尸鬼コープス隊〟を押しとどめていた。


「〝蜘蛛〟よ、〝華〟よ。俺が一騎討ちで時間を稼ぐ間に、残存部隊を再編して〝血の湖(ブラッディスライム)〟を誘導しろ。予定より早いが、アレを使ってねじ伏せる」


 敵隊長のカミル・シャハトは、膠着こうちゃくした戦況に業を煮やしたか、そう部下に命じたのだが……。


「カミル隊長、一人で辺境伯を相手するのは無茶ですぜ」

「あのファヴニルが手を焼く強敵よ。ヤケにならないで」


 八つの手足を持つ蜘蛛めいた異形の男〝蜘蛛〟と、色鮮やかな植物に寄生された奇怪な女〝華〟は、命令に二の足を踏んだ。


「信じろ、俺はお前達の隊長だぞ」


 カミルは目鼻の欠けたしゃれこうべめいた顔の口元を緩めて、部下二人に微笑みかける。


「それに、俺がクローディアス・レーベンヒェルムを一騎討ちで倒せば、ガルムもきっと目が醒めることだろう」


 カミルがあいも変わらぬ妄言を口にしたことで、〝蜘蛛〟と〝華〟は渋々ながら頷いた。


「あぎゃぎゃっ、わかりやした。あのデカくて愉快な騎兵隊を連れて来ますよ」

「そうね。辺境伯は、邪竜ファヴニルだけでなく、我々〝毒尸鬼コープス隊〟にとっても不倶戴天ふぐたいてんの敵みたい。ここで仕留めましょう」

「隊長の命令なら仕方ない」

「無念だが、一度仕切り直すか」


 クロードに叩きのめされながらも、生き残った毒尸鬼コープス隊の兵士達は〝蜘蛛〟と〝華〟に率いられ、半死半生の身体を庇いながら後退する。


「意外だな、カミル。お前に一人残る漢気があるとは思わなかった」


 クロードは、右手に握る打刀〝雷切らいきり〟から雷の矢を飛ばし、左手で掴んだ脇差し〝火車切かしゃぎり〟から火球を射出しつつ、十文字を描くようにカミルへ斬りかかった。


「当然だ、クローディアス。俺をみくびってもらっては困る。ガルムを洗脳した下劣な貴様とは器が違うのだ」


 一方、カミルも異形の肉体から毒鳥を飛ばして雷火を受けとめ、毒羽根を固めた剣と槍で二刀と真っ向から切り結ぶ。


「言いがかりはやめろ、カミル・シャハト。お前は、ガルムちゃんに振られたんだ」

「ほざけ。ガルムが俺を見放すはずがないっ」


 二人が切り結ぶたびに、毒で穢れた鳥が落ち、羽根が散ってはメラメラと燃えた。


「なぜなら俺には大義がある。ファヴニルが生死のなくなった新世界を作れば、オズバルトに殺された〝彼女〟だって蘇るんだ。ガルムもきっと賛同してくれる!」


 カミルは剣戟の中を敢えて踏み込み、クロードに向かって魔力喰らいの雪システム・ニーズヘッグを吹き付ける。


「馬鹿なことを言うな、ファヴニルが作る世界はアイツの玩具箱だ」


 クロードは足先で魔術文字を綴り、地面を隆起させてカミルの体勢を崩し、技の隙を突くように二刀を刺しこんだ。


「過去のレーベンヒェルム領が、どんなおぞましい惨状だったのか、お前は知らないのか?」


 クロードの刃がカミルの肉体を臓腑ぞうふまで切り裂き、青い雷と赤い炎がほとばしる。


「かはっ、むしろ望むところではないか!」


 されど、カミルはもはや人間を外れた〝顔のない蛇竜(ニーズヘッグ)〟の幼体だ。

 傷口から色とりどりの羽根があふれて、焼けただれた傷口を埋めてゆく。


「俺が新世界を導く管理人となろう。愚かな民衆は何度でも殺し、何度でも生き返らせて矯正きょうせいしよう。さすれば、必ずや楽園が生まれるだろう」

「そんな地獄、お前以外の誰が喜ぶんだっ」


 クロードは怯むことなく、小円、大円を描きながら、雷と炎の刃で斬りつけた。


「地獄とは、この世界のことだ。彼女が俺を選ばず、オズバルトに殺された。だから断罪するんだよ!」


 カミルの肉体は傷が増えるたびに、羽根を撒き散らしながら再生を繰り返す。

 あたかも幼虫がさなぎとなって羽化するように、蛇が何度も脱皮を繰り返すように……。

 

「おのれクローディアス。痛い。苦しい。吐き気がする。こんな世界はあっちゃいけない。だから、創り変えるんだ。我が正義、我が栄光はここにあり!」


 そうして彼の狂った精神は壊れた肉体を凌駕して、土壇場で新たなステージへ進化を遂げた。


毒正機構ポイゾナス |はじまりにしておわりの蛇雪ニーズヘッグ ――変転トランスフォーム――!」


 カミルのしゃれこうべめいた空洞の瞳に、赤い光が灯る。

 手足の表面を菌類がびっしりと覆いつくして、獣のように変わる。

 胴体は蛇の鱗に覆われ、全身を守るように毒蔦や毒糸が絡んでゆく。

 カミル・シャハトは、人間ひとから邪竜かいぶつへと完全なる堕落を遂げたのだ。


「ああ、ようやくやり方がわかってきたぞ。俺が、毒尸鬼(コープス)隊こそ正義だ。悪徳貴族よ、死ねええええっ!」

「くっ、相手がニーズヘッグなら、鋳造ちゅうぞう――!」


 クロードは対抗すべく、魔術文字を綴るが……。


「無駄だ。我が魔力の瞳はお前を見逃さず、我が死の翼はいかなる盾も貫き通す!」


 人型邪竜は四枚の翼をはためかせ、風と大地を瞬く間に腐らせる。

 そうして、三白眼の青年の抵抗を鎧袖一触と薙ぎ払うと、腐臭漂う吹雪で街の一角諸共にドロドロの毒沼へと溶解させた。


「勝っタ。勝ったゾ。今度こそ俺ノ勝利だぁあああ!」


あとがき


お読みいただきありがとうございました。

応援や励ましのコメントなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[一言] カミル「勝った!第7部完!」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ