第478話 毒尸鬼隊の天敵?
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三白眼の細身青年クロードと銀色の大犬ガルムは、中継都市パダル北部の制圧に成功。退路を塞いでいた〝毒尸鬼隊〟の完全撃破に成功した。
「アリス、イザボーさん、退路は確保した。こっちに来てくれ!」
撤退の呼びかけに、黒い髪から金色の虎耳が生えた少女アリス・ヤツフサと、蜻蛉に似せた鎧を身につけた女隊長イザボーは即座に呼応する。
「たぬっ。クロードとガッちゃんが仲良くて複雑な乙女心だけど、今は走るたぬ」
「魚鱗の陣で行くよっ。民間人が乗った機体を真ん中に置いて最優先で守る。殿はアタシとアリスちゃんがやるから、突っ切れ!」
イザボー隊は三輪駆動人形車オボログルマに分乗し、▲を描く隊列を組んだ。
三つのタイヤが唸りをあげて、毒で操られた死者の軍勢を跳ね飛ばし、南から北へと爆走する。
「あぎゃぎゃ、やるじゃないか。だが、そうは問屋がおろさない」
「殺してあげる。皆、死んじゃえっ」
〝毒尸鬼隊〟幹部である複数の手足を持つ異形の男〝蜘蛛〟と、植物に寄生された女〝華〟は、イザボー隊の逃亡に感づき、パダル南部に残された部下を率いて追撃を開始した。
「そんなに重たい荷物を抱えてちゃなあ」
「舐めた真似をしやがって、ぶっ殺す」
イザボー隊は民間人を荷台に乗せているため、最大速度を発揮することはできない。
分乗したオボログマ数台は、キノコ兵が吹く毒胞子や、爬虫類兵が吐く毒液がかすめ、三輪とフレームが腐って異臭を放ち始めた。
「しつこいたぬ。たぬううハリケーン」
「ストーカーは嫌われるよ。炎よ!」
「「手の空いた者は応戦しろお」」
アリスが拳から風を放ち、イザボーは魔法の扇子から炎を吹かせ、白髪白眼の元ネオジェネシス兵達も銃で迎撃するが、撤退は困難を極めた。
「たぬう、こうなったら降りて足止めするたぬ」
「アリスちゃんは先に行け。残るのはアタシの役目だ」
アリスとイザボーは、それぞれ囮となって残ろうとしたが――。
「大丈夫だ、アリスは僕が守る」
「ワウっ。(イザボーさんも逃げて)」
クロードが雷を帯びた刀と燃える脇差しを手に、銀色の大犬ガルムに跨って飛んできた。
「きゅーん。む、胸がドキドキするたぬ!」
「アリスちゃんっ、降りちゃダメだよっ」
アリスはウキウキとオボログルマの外へ飛び出そうとしたが、イザボーにがっちり腕を掴まれて連れ戻された。
「そんなせっしょうな、たぬー」
「いちゃつくなら後にしな!」
クロードはアリスの無事にホッと胸を撫で下ろし――
「ガルムちゃんも、アリスと一緒に行ってくれ。ここは僕が引き受ける」
「バウ……」
契約を促すように、ガルムをアリスに同行させた。
「さあ、クライマックスと行こうかっ」
クロードは、一人で毒尸鬼隊の前に立ちふさがった。
絶え間なく降り注ぐ毒糸や毒花を焼き、迂回しようとする兵士を斬る。
中には得意の毒技を捨てて、使い慣れないシステム・ニーズヘッグに頼る者もいたが、クロードにとってはむしろカモだ。
「あぎゃぎゃ。これが辺境伯の本気かよ」
「あの邪竜ファヴニルが執着するワケね」
クロードの一歩も退かない奮戦に、毒尸鬼隊を束ねる〝蜘蛛〟と〝華〟は愕然とした。
「カミル隊長の恋敵と同じ鋳造魔術を使うばかりか、強さまでそっくりだぜ?」
「技はオズバルトに似ているけど、戦闘の身体さばきは、私たちが何度か敗れたニーダル・ゲレーゲンハイトに近いわ」
「おまけに武器は、〝赤い導家士〟のロジオン・ドロフェーエフにそっくりと来た。まるでオレ達の天敵じゃないか」
〝蜘蛛〟と〝華〟の見立ては正しい。
クロードは魔力喰らいの蛇雪を破るコツを、オズバルトから伝授されていて……。
演劇部部長と共に地球日本の出身であり、ドゥーエと同じ日本刀を得意武器としていた。
クロードは、〝毒尸鬼隊〟や、彼らのスポンサーであった佞臣軍閥〝四奸六賊〟と因縁深い三人から、それぞれの技と意志を継いでいるのだ。
「カミル・シャハト。とっとと降りてこい、ストーカー野郎」
「悪徳貴族め。安い挑発だが、乗ってやる」
クロードが千切っては投げ千切っては投げと部下達をぶちのめすのを見て、隊長カミルもたまらず空から降りてきた。
「〝蜘蛛〟よ、〝華〟よ。俺が奴との一騎討ちで時間を稼ぐ間に、残存部隊を再編して〝血の湖〟を誘導しろ。予定より早いが、アレを使ってねじ伏せる」
「上等だっ。ファヴニルの玩具は、僕達がまとめて片付けてやる!」
かくして攻守は入れ替わり、クロードとカミルは死の都となったパダルで刃を交えた。
あとがき
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