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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第七部/第三章 恐怖! 毒尸鬼隊
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第473話 クロードと血の湖(ブラッディ・スライム)対策

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 アリスとイザボー隊が、ヴァリン公爵領南部で〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟から民間人を救出した頃――。

 クロードもまた公爵から、この恐るべき怪物の名を聞きだしていた。


「辺境伯、心して聞いてくれ。信じられないかもしれぬが、あの〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟が復活したのじゃ」


 〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟こそは、過去にレーベンヒェルム領南部の山岳地帯を壊滅寸前まで追い詰めた、天災にも匹敵するモンスターだった。


(マズい。アリスとイザボーさん達だけじゃアレを討つのは無理だ。僕とレアが参加しても果たして倒せるか)


 クロードの顔がサッと青ざめた。

 ファヴニルがアルフォンス・ラインマイヤーを復活させたのか、それとも別個体を用意したのかは不明だが、いずれにせよ驚異的な生命力を誇る怪物に違いない。


(何がマズいって、〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟は、人間と契約神器が混じった〝融合体ゆうごうたい〟で、極めて不安定なんだ)


 中途半端に傷つけても放置しても、体内の魔力が暴走し、領を巻き込むほど広大な規模で自爆する。――そんな厄介な性質があった。

 ヴァリン公爵が〝あの怪物〟と言い渋ったのも無理はなく、一度は葬ったレーベンヒェルム領を頼りにするのも当然だろう。


(〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟を倒すには、揺らいだ存在を安定させて、その上で膨大な生命力を削りとる必要がある。〝毒尸鬼コープス隊〟を相手にしつつ不死身の怪物を殺すなんて、まるで人手が足りないぞ)


 クロードの動揺を感じ取ったのか、青髪の侍女レアが彼の頬に触れた。

 隣のソファから伸びた温かな手が、青ざめた彼の頬に赤い血の色を取り戻す。


御主人クロードさま、僭越せんえつながら、私にお任せください」


 青髪の侍女は、ここがパートナーの見せ場とばかりに身を乗り出した。


「公爵様は、〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟と交戦する前に、パダル市にキャンプを築かれたと仰いました。あの街であれば……」


 レアが一瞬、クロードに視線を向ける。


御主人クロードさまが敷かれた、レーベンヒェルム領まで続く鉄道が通っているのではありませんか?」


 侍女の真剣な面差しに引きずられるように、公爵も対面のソファから身を起こす。


「確かに駅はある。しかし、魔力を喰らう雪システム・ニーズヘッグの影響下では、肝心の機関車が動かぬのじゃ」

御主人クロードさまは、植物ガスを使ったオボログルマでヴァリン領まで来ました。魔法以外の燃料を使えば、汽車だって走ります。トーシュ教授のお力さえ借りられたなら、私がすぐに改良して見せましょう」

「無謀なことを言う。いや、侍女殿は契……辺境伯のパートナーで、鋳造魔術の使い手じゃったか」


 ヴァリン公爵とレアが問答する中。

 クロードもまた、脳内をミキサーのように高速で回転させていた。


(そうだ。人数が足りなければ集めよう。技術が足りないなら専門家を招こう)


 クロードは、ファヴニルに領主の影武者を押しつけられた頃、ただ一人で空回っては、何度も失敗した過去を思い出した。

 どうしようもなく詰んでいたレーベンヒェルム領に、最初に手を差し伸べてくれたのがヴァリン領だったではないか。

 

(僕はもう一人じゃない。僕達は、力を合わせて戦うんだ)


 クロードはマラヤディヴァ国と共に、邪竜に挑むのだ。

 だからこそ、ヴァリン領をむざむざと滅ぼさせるわけにはいかなかった。


「ヴァリン公爵。レアに任せてください。敵の正体が〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟なら、レーベンヒェルム領には一度倒した時のノウハウがあります。機関車さえ動かせば、必ずヴァリン領を守ってみせる!」


 クロードが断言すると、ヴァリン公爵は穏やかな顔で頷いた。

 老公爵はどうやら治癒薬ポーションで無理やり傷を塞いでいたようで、着込んだスーツの白シャツが赤く染まっていた。


「わかった。辺境伯、お主達に託す。どうか我々を、我々の故郷を救って欲しい」

「お任せ下さい。公爵は、どうか傷を癒やしてください」


 クロードは医師の元へ公爵を送り届け、レアと別行動を取ることに決めた。


「レア、トーシュ教授と機関車を頼むよ」

御主人クロードさま。アリスちゃんをお願いします。必ずソフィを助け出しましょう。私もあの子達が大好きだから」


 レアは別れ際、クロードの頬にそっとキスした。

 青髪の侍女にとって、赤い髪の女執事も狸猫娘も恋敵ライバルだ。

 それでもかけがえのない友人で、大切な存在となっていた。


「ああ、必ず!」

「はいっ」


 クロードもまたレアの頬に口づけ、ついばむようなキスを交わす。そうして大学の正門へ向かうと……。


「ウウ、バウウ」


 ガルムは、すでに〝毒尸鬼コープス隊〟攻略の準備を終えたのか、サンタクロースが背負うような袋の上に乗って爪を立てつつ、銀色の尻尾を振っていた。


「ガルムちゃん。南で〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟が復活したらしい。レアが援軍を呼んでくれるけど、まず〝毒尸鬼コープス隊〟を討つ必要があるんだ」


 カミルら人型ニーズヘッグが暴れていては、〝禍津の塔〟を攻略することも、〝血の湖(ブラッディ・スライム)〟を退治することも困難だろう。


「だから、アリスやイザボーさん達と合流して一緒にぶっ飛ばそう」

「バウワウ!」


 ガルムは尻尾を大きく振って巨大化し、クロードと大きなトン袋を背中に乗せた。


「ひとまず目標はパダル市だ。行こう!」

「アオーン!」


 一人と一匹は、音の速度に匹敵する速度で、銀色の流星が如く疾走した。

 クロード、アリス、ガルム、イザボー隊、毒尸鬼コープス隊、血の湖(ブラッディ・スライム)

 過去より紡がれた因縁は集い、ヴァリン領パダル市にて一大決戦が始まる。



 

あとがき


お読みいただきありがとうございました。

応援や励ましのコメントなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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[良い点]  こんばんは、上野文様。  ヴァリン公爵から血の湖が復活した事を知らされたクロードは、その危険性を身をもって知っているため、顔面蒼白。  初めて血の湖が出現した時は、本当に酷い被害が出て…
[一言] >毒尸鬼隊〟を相手にしつつ不死身の怪物を殺すなんて、まるで人手が足りないぞ つ セイ&アリス手作り料理にクロードの音楽、ショーコ画伯の一枚を添えて
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