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第458話 人類最強の教え

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 クロード、レア、ドゥーエの三人が、領都レーフォンの中央病院で、呪いの吹雪を撒き散らす半人半竜の怪物と交戦する中――

 第五位級契約神器ルーンビースト。ガルムを連れて現れた白髪の入院患者オズバルト・ダールマンは、二体を瞬く間に切り捨てた。


「イーヴォ・ブルックリン。紛い物といえ彼の魔剣システム・レーヴァテインを使ったな? ファヴニルともども、我が祖国に仇なす脅威と認識した。私も助太刀しよう」


 過去に西部連邦人民共和国軍に所属し、今やファヴニルの走狗に堕ちた元提督イーヴォ・ブルックリンは、交叉髑髏こうさどくろ刺繍ししゅうされた三角帽を揺らしながら高笑いをあげた。


「ヒッヒヒッ、ヒャーッハッハ」


 彼らはひとしきり笑ったあと、腕や足の肉と骨を盛りあげて無数の触手を生み出した。

 更にオズバルトの鋳造魔術を真似るかのように、触手の先端を鉈や鋸といった刃物へ変化させる。

 そうしてイーヴォは二体の部下と共に、四方八方に伸ばした触手を、三六〇度全方向から嵐のように叩きつけた。


「いまさら良い子ぶるんじゃねーぞ、オズバルト・ダールマン。お前も俺と同じ穴のムジナだろう。昔は俺と一緒に虐殺をやらかした仲じゃないか、この薄汚い人殺しがあっ」

「そうとも、私は罪深い人殺しだっ」


 オズバルトは槍で三体分の一〇〇を超える触手をさばきつつ、頬に刻まれた傷を一瞬だけ撫でた。


「オズバルトさん……」


 クロードは、オズバルトの契約神器である、銀色の大犬ガルムが民間人を避難させるのを援護していた。

 新式顔なし竜(ニーズヘッグ)のうち、サボテンに似た個体が連続で放つ鱗を雷で叩きおとし、広範囲に爆発する弾頭を炎で焼いて処理、二刀で手足を斬りつけて牽制する。

 そんな激戦を繰り広げながらも、過去に戦った強敵から目が離せなかった。


(僕が、召喚される約一〇年前。マラヤディヴァ国の隣にある、西部連邦人民共和国で政変が起こった)


 佞臣ねいしんホナー・バルムスら〝四奸六賊しかんろくぞく〟と呼ばれる派閥が教主をないがしろに専横せんおうを極め、目障りな先代教主の支持者らを虐殺したのだ。

 しかし、悪臣達の蛮行は、先代教主の盟友だったエーエマリッヒ・シュターレンが率いた中小派閥連合に阻止され、〝バルムスの氷獄〟と恐れられた圧政も瓦解した。


(政変の際に、エーエマリッヒの懐刀として活躍したのが、ニーダル・ゲレーゲンハイトを名乗っている、演劇部の高城部長だ)


 虐殺現場でニーダルに敗れた一人の兵卒は、彼と彼の使う〝最初の魔剣システム・レーヴァテイン〟を超える為に心身を鍛え、やがて共和国を代表する英雄として名を馳せることになる。


(その兵卒こそ、オズバルト・ダールマン。目の前にいるあの人だ)


 オズバルトは、クロードやレアと同じ鋳造魔術を使い、剣や槍、槌といった得物を瞬時に切り替えつつ、イーヴォをはじめとする三体の怪物と互角に切り結んでいる。


「私は確かにひとでなしだが、それでも譲れないオモイがある。忠義を尽くして国に報いる――その為だけに戦い続けよう」

尽忠報国じんちゅうほうこくと言えば聞こえは良いが、イカれた国の腐った上層部に媚びを売って、あがないのつもりかよ。この偽善者があっ」

「私は、己の罪を贖えるとは思っていない」


 イーヴォら三体の怪物は、白兵戦ではオズバルトに叶わぬと見たか、彼を包囲しつつもやや距離を取った。


「オズバルト。いくらお前でもシステム・ニーズヘッグは防げまい。死ねえっ」


 しゃれこうべが如き目鼻の欠けた半人半竜の怪物三体は、異形の翼から生命力と魔力を奪う吹雪を一斉に噴出させた。


「イーヴォ、勘違いしていないか? 私は、ニーダル・ゲレーゲンハイトを倒す為に技を磨いたのだぞ? システム・レーヴァテインの二番煎じなど通じるものか」


 しかし、オズバルトは身一つで吹雪を潜り抜け、また一体の心臓をサーベルで貫いた。

 動きの基本はクロードと共通している。代えがきく鋳造魔術で吹雪を相殺しつつ、カウンターで急所を狙うのだ。

 しかし驚くべきは、神域に達する技量だろう。

 はたきのような囮を大量に用意したり、魔法の火力で薙ぎ倒すのでない。

 ただ一本のサーベルを補修するだけで、顔のない竜を滅ぼしている。


「クローディアス・レーベンヒェルム。聞こえているかい? 僭越せんえつながら、この魔剣システム・ニーズヘッグを破るコツを教授しよう」

「ええっ、本当に?」


 クロードは、オズバルトの意外な呼びかけに驚いた。

 彼は西部連邦人民共和国そのものと敵対したことはないが、オズバルトとも関係浅からぬ〝四奸六賊しかんろくぞく〟とは何度もやり合ってきたからだ。


「ウウウーッ、バウっ」


 けれど、ガルムは構わないと言わんばかりに、前足で彼のズボンの裾を引き――、


「御主人さま、オズバルト様から目を離さないでください」


 レアも盾で吹雪を防ぎつつ助言し――、


「クロード。オズバルトが命を賭けて得た教訓だ。耳を傾ける価値はあるだろうよ」


 ドゥーエも右腕一本で奮戦しつつ、そう促した――。


「良いかな? 私の知る記録によれば、最古の魔剣システム・レーヴァテインを振るった使い手は、その多くが一太刀と引き換えに、命を使い果たしたそうだ」

「ひひっ、ヒャハッハッ。そりゃあ旧式だからだろうがっ。俺達は欠点を克服した最新型だ。モノが違うんだよっ!」


 イーヴォは触手で逃げ場を奪いつつ、再び呪いの吹雪を放ったが、オズバルトは得物をサーベルから大太刀に作り替えて囮に使い、身をかがめて切り抜けた。


「いいや、同じだとも。炎にせよ吹雪にせよ、出力が高すぎるが故にコントロールが乱れて揺らぐ瞬間がある。その一瞬が勝機だ」


 オズバルトの手から折れた太刀が消えて、鋭利なナイフへと変化する。

 彼は吹雪の狭間を貫くように腕を差し入れて、怪物一体の首を刎ねた。


「有り得ない。あってたまるか。人間が、こうも容易く竜をほふるのかよ?」

「人間だから、出来るのさ」


 霜雪となって崩れる半人半竜の肉体を盾に、オズバルトはナイフからサーベルへと切り替えた。

 閃光のような一撃がイーヴォの胸板を貫くも、僅かに急所が逸れたらしい。

 顔の無い竜は肉体そのものをアギトに変えて、白髪の英雄に食らいついた。


「くそがっ、今の俺は人間を超えたっ。ファヴニルから無敵の肉体を与えられたんだ」

「イーヴォ。お前はただ邪竜に屈して、その力に縋っただけだ」


 オズバルトは槍を作って肉塊を切り落とし、鉄杖に変えて乱撃で竜歯を砕き、二刀で短冊を裂くように怪物となったイーヴォを千切った。


「そこにいる彼。クローディアス・レーベンヒェルムを名乗る青年は、私を倒したぞ」


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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[良い点]  おはようございます、上野文様。  三体分の百近くあるニーズベックの触手を簡単にいなし、苦戦するどころが圧倒するオズバルドさん。  長い間ニーダル・ゲレーゲンハイト(部長)に対抗するため…
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