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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第七部/第一章 邪悪なる竜の復活
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第449話 ファヴニルの鬼札(ジョーカー)

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 クロードはファヴニルと一騎討ちを始めるより前に、契約神器・魔術道具研究所が襲撃されると予測していた。


「ソフィが結界を最大出力で起動すれば――、ファヴニルは封印に縛られて全力を発揮できなくなる。攻めるにせよ守るにせよ、結界の維持が僕たちの作戦の要になるんだ」


 マラヤディヴァ国を荒らすニーズヘッグの対策だけに留まらない。ソフィと研究所自体が、決戦の勝敗を左右する重要拠点なのだ。


「だからファヴニルは絶対に狙ってくる。一番重要な場所だからこそ、アイツは人任せにはしないし〝できない〟だろう」


 クロードは研究所に決死隊のみを残し、周辺一帯から職員民間人問わず避難させた。


「ここで仕留めよう。必殺の布陣を敷く」


 クロードが間に合えば、挟撃してファヴニルを討ち果たし……。

 間に合わぬ時は、人類の守護者ショーコと第三位級契約神器オッテルが囮となって、暗殺者としても名高いドゥーエが闇討ちする。

 最高戦力を惜しげも無く注ぎ込んだ、これ以上無いほどに苛烈な作戦だった。


「妖刀に宿りし――姉弟達よ。今、お前達の同胞が呼びかける」


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 晩樹の月(一二月)一一日。

 正午〇時まであと少しという闇夜に紛れて、左目と左手を失った隻眼隻腕の傭兵が、金髪赤眼の美少年を愛刀で貫いた。


「吼えろムラマサ! オレ達の世界と同じように、この世界まで滅ぼすわけにはいかないだろうっ」


 ファヴニルが作りだした、生命と魔力を喰らう蛇雪の禁呪システム・ニーズヘッグ。ドゥーエが振るう技こそは、その原型であり、並行世界を滅ぼした冥雪の禁呪(システム・ヘルヘイム)だ。


『降臨せよ。救済の氷雪。世界樹のうろ。地を覆う天恵てんけいの光よ!

 贖罪機構システム |はじまりにしておわりの氷雪ヘルヘイム ――接続アクセス――!』


 並列する世界の氷原で、赤と青のオッドアイを持つ少女が終末を唄う。

 ドレッドロックスヘアの剣客は、ムラマサの冷気で邪竜の心臓を凍てつかせ、魂をもすり潰した。別の肉体に逃がれることも許さない、袋小路のデッドエンドだ。


「き、奇襲を探知できなかったのは、その技で気配を殺したからか。徹底してるね」


 されど邪悪なる竜は、絶体絶命の窮地にないてなお、歓喜の笑みを浮かべていた。


「ああ、クローディアス。キミの英知、キミの執念、なんて素晴らしい。よくぞ、よくぞボクを二度も葬った」


 人々を苦しめ続けた悪魔にも、とうとう最期の時が訪れる。

 星の河を連想させる金髪が、ルビーのごとき赤い瞳が、彫刻にも似た美しい肉を巡る血が、紅い蓮花のように凍てついて散った。


「だからこそ、キミと並ぶ為にボクも逆転と行こうか。本当のジョーカーを見せてあげる」


 ファヴニルは半ば以上凍りつきながらも、自らの勝利を確信するかのように高々と飛翔した。

 次の瞬間。雪が降りそそぐ夜の空から、燃えるホウキ星のような〝何か大きいもの〟が研究所に向かって落ちてくる。


「アレは星落トシの術か。イヤ、まさか!?」


 火竜オッテルは、口と九門の砲塔から炎と閃光を発して迎撃し――、


「奥義、水鏡ミラーモード


 スライム娘ショーコは、不定形生命体の姿となって反射に集中し――、


「このオレに、斬れないものは無いっ」

『ムチャいうな、あほおおおおおっ』


 ドゥーエは、愛刀ムラマサにいた幽霊姉弟の抗議を聞き流しながら、隕石を取り巻く空間をまるごと斬り捨てた――。


「エセキツネ、異界の戦士、魔剣の後継者。惜しかった、実に惜しかったよ。鬼札を先に切ったそちらの負けだ。秘術――魂魄奪取こんぱくだっしゅ


 超音速の流星は、ファヴニルの肉体が崩壊する直前に、彼を飲み込んだ。

 否、それは隕石などではなく、全長三〇mにも及ぶ機械混じりの巨竜だった。

 おおまかには生物的なトカゲに似ているが、背には姿勢制御用の六枚翼が生え、尾や脚部にロケットエンジンめいた噴射口がついている。

 視覚素子らしき緋色の瞳は人工宝石のように冷ややかに輝いて、全身を覆う鱗は銀と緑の二重装甲だ。


「クソっ。チンドン勇者が封じタ、性悪弟ノ本体だとオ!? 」

「ボクはもう対応を学んだよ。術式――〝抱擁者ファフナー〟――起動!」


 機械竜は、重厚な装甲で熱量砲撃を真っ向から受け止め、はちゃめちゃな空中機動で反射を無力化し、時間干渉で斬られた事実を無かったことにした。

 

「祝福の時間だ。新しいカミサマの誕生をたたえ、生贄となれ」

「グオオッ、ろくでナシのカルト野郎ガア」

「あ、マントが足りない。まずいっ」


 機械神竜ファヴニルは、巨大な爪で火竜オッテルの上半身と下半身を両断し、灼熱の吐息でスライム化したショーコの肉体を八割方焼き尽くした。


「デカくなったのが、どうしたあ!?」


 ただドゥーエだけが左義手を粉砕されつつも、右手に握ったムラマサで衝撃波を切り、熱を斬り、重力を断ち、物理も魔法も引き裂いて機械竜へ突撃する。


「カミサマ気取りのヘビヤロウ。結界の封印は効いていたはずだ。盟約者のいないテメエがどうして本体を動かせた?」

「それなら、紹介しよう。この娘はレベッカ・エングホルム」

「過去と未来を見通す、ファヴニル様の巫女ですわ」


あとがき


 WEB版では、ファヴニル完全体が書籍版より一〇m大きくなっています。

 これは、三年間で修理と改造を施したからです。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] >これは、三年間で修理と改造を施したからです ファブニル(Web版)「書籍版のボクはクローディアスへの愛が小さかったようだね」
[良い点]  おはようございます、上野文様。  これで終わりか思いきや、とんでもない展開になりましたね。  隕石が降ってきたかと思いきや、ファブニルの本体登場。  更には抱擁者で受けたダメージを回復…
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