表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第七部/第一章 邪悪なる竜の復活
457/569

第446話 兄弟喧嘩

446


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 晩樹の月(一二月)一一日夜。

 クロードは始まりの浜辺で、遂にファヴニル打倒に成功する。しかし、宿敵の肉体は無数の呪符となって散った。


「認めるよ、一騎討ちはキミの勝ちだ。だから次は、戦争を始めよう。ボク達の終末戦争ラグナロクをさ!」


 ファヴニルは宣戦布告と共に、国中に伏せていた決戦兵器ニーズヘッグを起動。

 生命を喰らう純白の吹雪が渦を巻いて、虫が歌う森を、花々が香る山を、人々の灯火が宿る街を飲み込んでゆく。

 神話に唄われる世界の終末が如く、マラヤディヴァ国の未来は失われたかに見えた。


「負けない。邪悪な竜には屈しない。みんなが帰る場所は、わたしが守るんだ」


 クロードの恋人の一人である、赤いおかっぱ髪の女執事ソフィは契約神器・魔術道具研究所の中心塔で通報を受けるや、最上階に準備した祭壇の上で舞い始めた。


「龍神様、どうかお力をお貸しください」


 ソフィは一〇〇〇年前、ヴォルノー島に住む人々を救った龍神を敬い、祀ってきた〝ファフナーの一族〟の末裔だ。

 信仰の対象だったファヴニルは、外国の陰謀と身内の裏切りで、災厄の邪竜へ堕ちてしまったが……。


「わたしは祈る。矛盾だなんて思わない」


 ソフィの意思は、柔らかな風となってマラヤディヴァの大地を渡った。

 クロード達が各街に設置した碑石が光を発し、破邪の結界を最大出力で展開する。

 不可視の障壁がドーム状に空を覆い、降りそそぐ命を喰らう雪を浄化して、無害な水の結晶として大地に還した。


「カリヤ・シュテンより通達、メーレンブルク領で結界の発動を確認したわ」

「マルグリットです。ラーシュくんと一緒にいます。グェンロック方伯領、起動を確認」

「マルクだ。ナンド領も無事起動した」


 通信魔法が飛び交い、防衛作戦は無事成功したかに見えた、が――。

 時を置かず、契魔研究所の敷地内で戦闘音が生じた。斥候兵が喉も裂けよと叫びをあげて、邪竜の襲来を知らせる。


「ファ、ファヴニルが来たぞ。総員、踏ん張れ。ここが命のかけどころだ」

「ファヴニルが来た? クロードくんとレアちゃんは無事なの!?」


 ソフィは想い人と好敵手の身を案じて、ソ思わず足を止めてしまう。

 そんな彼女の背を、灰色のカワウソが水かきのついた前足でぱんと叩いた。


「キュッ、止まるナ嬢ちゃン。クロオドとヘタレ妹は勝っテいる。でなきゃ、負けヘビがこっちへ来るハズないカラな」


 カワウソのテル。彼の正体は邪竜ファヴニルと鍛治レギンの兄貴分であり、一〇〇〇年前の終末戦争を生き残った契約神器だ。

 豊富な戦闘経験がなせる技か、実際に目で見てきたかのように戦況を把握していた。


「結界をフルパワーで安定させるマデ、もうチィと頑張れ。出かけに言ったように、兄弟喧嘩の始末はオレがつけてヤる」

「テルさん、ぜったい生きて帰って来てね」

「キュキュッ、勿論ダ。アンタ達と泣虫妹の結婚式を見ルまで、オレは死ネない!」


 テルは尻尾を振って跳躍し、塔の最上階から勢いよく飛び降りた。

 灰色の小動物は、真っ逆さまに落ちながら霧のように溶けて姿を変える。

 柔らかな毛皮が裂けて肉体が全長五mまで膨張、背からはコウモリに似た翼が生え、爬虫類の鱗が全身を覆ってゆく。

 テルは、かつてルンダールの遺跡を騒がせた〝火竜オッテル〟の姿を取り戻していた。


「ファヴニル、この陰険蛇め!」


 テルは守備隊が壊滅したのを見るや、喉から灼熱の吐息を放射した。

 白い雪が舞う空と、灯火の消えた黒い大地を切り裂くように、真っ赤な炎の閃光がほとばしる。


「オッテル、死に損ない兄貴か!」


 奇襲を受けたファヴニルは、避けられないと判断し、球状の魔法陣で全身を覆った。

 テルが放った灼熱の吐息は、魔術文字で作られた球体の守りを粉砕するも……。

 ファヴニルもまた、ニンゲンの体から尻尾と翼の生えた半人半竜の姿へと変身し、ブレスを受け止めていた。

 さすがに消耗が大きいのか息を荒げ、体からは湯気が立ちのぼっている。


「こノ悪ガキめ。よクもオレの名前を騙ってくれタな、折檻せっかんの時間だ!」


 オッテルは即座に追撃し、前足のワンツーから繋げたストレートパンチで、動きの鈍ったファヴニルを大地へ叩きつけた。


「誰が、誰に折檻するだって?」


 半人半竜の少年はいくつかの倉庫を巻き添えに吹き飛ぶも、着地の瞬間にお返しとばかりに熱閃を発して、空を駆ける兄貴分の顔を焼いた。


「熱チッ。器用な真似ヲっ」

「恥知らずのカワウソめ、ボクが名前を使ってやっただけありがたいと思え」


 ファヴニルは魔法陣から火球を放ちつつ距離を詰め、火竜姿のテルと戦闘機のドッグファイトが如く殴り合う。

 契魔研究所の屋根が吹き飛び、資材置き場がひしゃげる。熱を帯びた拳が互いの鱗を砕き、肉を焼いて骨を軋ませた。


「ありがたいもクソもあるカ。テメエのせいで、オッテルの名前は〝イカれた革命家気取りの黒幕〟扱いダゾ? 風評被害もハナハダしいワ。この低品質海賊版野郎!」

「強さを盛ってやったんだから、有情と思え。オマエが立っていられるのも、ボクから信仰を横取りしたからだろうがっ」


 契約神器と呼ばれる存在は、その名の通り神の器としての側面がある。

 盟約を結んだ契約者に留まらず、自身に向けられた感情の揺らぎ、魂の震え、すなわち信仰を糧とするのだ。


「仕返しのつもりだったのに、こうも生き汚いなんてとんだ誤算だったよ」


 ファヴニルはテロリスト団体〝緋色革命軍マラヤ・エカルラート〟の指導者ダヴィッド・リードホルムに手を貸した際、自らの手で葬った〝第三位級契約神器オッテル〟の名前を騙った。

 しかし、テルは辛くも海底で生きのびていた為、民衆がファヴニルに向ける感情エネルギーの一部が流れたのだ。

 

「ハッ、生き汚いはオマエだろうガ。おおかた、クロオドと重量級ヘヴィ妹にやられてコッチへ来たんだろウ。負けへびナラ、らしく尻尾巻いてクタばってろ」

「言ったな!」


 ファヴニルは魔眼に力をこめて、変化の大魔術を行使しようとして、違和感に気づいた。

 彼とテルは互角の兄弟喧嘩を演じていた。それが、そもそもおかしいのだ。

 第二位級契約神器であるファヴニルと、第三位級契約神器のオッテルには、埋めがたい差があるはずだ。

 だとすれば、可能性はひとつ――!

 新たな盟約者あいぼうを得たに違いない。


「クローディアスはあり得ない。オッテル、このエセキツネめ。どこのチンピラと盟約を結んだ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[一言] >「ファ、ファヴニルが来たぞ。総員、踏ん張れ。ここが命のかけどころだ」 守備隊「みんな、この後の戦勝会の事を思うんだ!それに比べればファブニルなんて大した相手ではない(脅威度的な意味で)」
[良い点]  こんにちは、上野文様。  所変わって舞台は対怪物災害専用結界の要になっている契魔研究所。  予備の肉体に魂を移したファブニルが対怪物災害専用結界を無力化するために襲撃。  対怪物災害専…
[一言] 更新お疲れ様でありますっ! いや一騎打ちも見応えありましたけど、これもまた魅力的なカードで、出し惜しみ無しな感じですね。 実際問題、ファヴニル側に部隊として運用できる手駒が残っているのかど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ