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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第六部/第五章 〝万人敵〟ゴルト・トイフェル
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第428話 龍虎相搏つ

428


 マラヤディヴァ内戦の幕引きとなる、マーヤ河の戦い。

 そのはじまりは、ゴルト・トイフェル率いるネオジェネシス残党軍の圧勝だった。

 大同盟軍は要塞化した陣地ごと前衛部隊を粉砕され、中衛部隊や伏兵もことごとく打ち破られた。


「友軍を救出する。皆、死ぬんじゃないぞ」


 薄墨色の髪と葡萄色の瞳を持つ、凜々しい少女。大同盟の司令官セイは、窮地にも怯むこと無く馬を駆り、最前線で軍配を振った。


「突撃、うてええええっ」


 彼女の合図に従って、訓練上がりの新兵達や病院帰りの負傷兵達が、敵部隊の横腹に食らいついた。

 レーベンヒェルム領式魔銃――この世界の技術で量産されたライフル――が火を吹いて、弾丸が嵐のように放たれる。


「指揮は上々。とはいえ、かしらが良くても、手足が萎えていてわなあっ」


 しかし、辛子色の髪をもつ牛の如き巨漢。ゴルトが鍛え上げた百戦錬磨ひゃくせんれんまのネオジェネシス兵達は、腕を丸太のように硬く太く変化させて弾丸を叩き落とした。

 大同盟軍は最良のタイミングで奇襲をかけてなお、戦況を覆すにはいたらなかった。

 セイ達は戦術で上回ってなお、個々の戦闘力でゴルト隊に押し負けてしまう。


姫将軍ひしょうぐんセイ!」


 ゴルトはまさかりで同盟兵を薙ぎ倒しながら、宿敵と定めた少女に向かって吼えた。


「お主の手腕は、国士無双こくしむそうと呼ぶに相応しい。じゃが、このような弱兵では、おいの仲間達(ネオジェネシス)を止めるに不足!」

「我が軍に弱兵などいないっ」


 セイが指揮する新兵達や負傷兵は劣勢をものともせず、ゴルト麾下の精兵達に挑んだが……。経験と種族の差が残酷な壁となって立ちはだかっていた。

 大同盟が敵を倒す数よりも、ネオジェネシスに倒される仲間の方が遙かに多い。


「フハハっ、この有り様を見てよく強がれる。もはや立てる者も……なにぃっ!?」


 けれど、ゴルトもまた日焼けした指で髪をかきあげて驚愕する。

 大同盟兵達は、徹底的に打ちのめされてなお、むくりと起き上がったからだ。


「セイ様がいるかぎり、この命が尽きるまで、おれたちは戦う」

「辺境伯様とセイ司令は、俺たちの故郷と家族を救ってくれたんだ!」


 人間である彼らには、ネオジェネシス兵のような鬼神めいた怪力も、獣の如き速度も強大な再生能力もなかった。

 只人に過ぎない兵士達は、それでも傷だらけの手で武器を掴み、守るべきものの為に強敵へ挑み続ける。


「このマルク・ナンド。どれだけ泥を舐めようとも、土の意味すら知らぬ、鉄だけの男に負けはしない。うおおおおおっ!」


 特に奮戦が目覚ましかったのは、ナンド侯爵家の当主マルクが率いる部隊だろう。

 マルク隊は、マーヤ河の決戦で一〇たび散り散りになるも、すぐさま集結して復帰。

 司令官セイと共に一一度にもわたってゴルト隊を押し返すことになる。


「ふはははははっ。素晴らしいぞっ、この鉄火場こそ、我が望み、我が生きる目的よ。土の上で畑を耕そうなどとは思わんなっ」


 ゴルトは、そうマルクにうそぶいたが……。

 天から光の砲弾が降り注ぎ、地上も真っ暗な闇に閉ざされた。


「ちっ、アンセルの砲撃とヨアヒムの幻影か。そちらの作戦はあくまで持久戦か」

「応とも。なあ、ゴルト。墨汁インクを白紙にこぼしたことはあるか? 一枚や二枚なら黒く染まるが、数十枚、数百枚ならどうかな? 根比べといこうじゃないか」


 マーヤ河の決戦は、旗手となった将帥二人の個性が、如実に出た戦いとなった。

 姫将軍セイは、徹底した役割分担と地形利用で鉄壁の防御を実現し――。

 万人敵ゴルトは、鍛えに鍛えあげた強兵で暴れに暴れて戦場を混沌に陥れる――。

 両軍は一進一退の攻防を続けたが、やがて決定的な転機が訪れる。


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 暖陽の月(五月)三〇日。


「セイ、助けに来たぞ」

「みんな、もう戦いは終わりたぬ」


 クロードとアリスが、援軍を連れて到着したのだ。

 大同盟は、レベッカがマラヤ半島にばら撒いた顔なし竜(ニーズヘッグ)を殲滅したことで海上の安全を確保。

 クロードは艦隊を駆使して、ヴォルノー島、ユーツ領、メーレンブルク領といった他の戦線から増援を送り込んだのだ。

 瀕死だった首都防衛隊は、三〇〇〇〇人を超える大軍となって息を吹き返した。

 

「ゴルト・トイフェル、ブロルさんと、ネオジェネシスとは和解した。僕たちが争う理由はなくなったんだ」

「違うぞ、クローディアス・レーベンヒェルム。ブロル・ハリアンは納得して逝っただろう? 理屈では無いのだよ、おいどもは戦いたいから戦っている!」


 一方、ゴルトらネオジェネシス残党軍は本拠地を失ったことで、武器や食糧が欠乏。やがて五〇〇〇人まで数を減らすことになる。けれど――。


「憧れの辺境伯様と直接戦える。これほどの栄誉が他にあるか!」

「アリス様、貴女と刃を交わす日をずっと夢見ていました」


 ゴルト達もまた、窮地に陥るほど闘志を燃やした。

 彼らはくしの歯が欠けるように数を減らしながらも、首都クランを目指して遮二無二しゃにむに突撃を敢行する。


「この、大馬鹿野郎どもっ」

「たぬたぬっ、たぬぬうっ」


 マーヤ河の決戦は、クロードとアリスの参戦という転機を迎え、更に激しさを増すことになる。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様ですっ! ゴルトさんって、戦こそ喜びみたいな相手に刺さる、すごいカリスマがあるんですよね。 カリスマ武将と意地とプライドで食い下がる兵。 しかも攻守が噛み合っちゃってるんで、ほ…
感想一覧
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