表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第六部/第四章 〝創造者〟ブロル・ハリアン
434/569

第423話 領都ユテスの奪回

423


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 花咲の月(四月)二〇日。

 クロードは港町ツェアにて、エングホルム領から北上する一万の軍勢と合流、ブロルの仇を討つべく領都ユテスへ進軍を開始した。

 ブロル亡き後のユーツ領は、彼を弑逆しいぎゃくしたレベッカ・エングホルムが実権を握っており……。


「ひゃっはあ、獲物が来たぜぇっ」

「オレたちは無敵だあ。命を置いてけやあ」


 道中では、彼女の私兵と思しき外国人の傭兵部隊や、顔なし竜(ニーズヘッグ)が幾度となく攻撃を仕掛けてきた。


「うおおおっ、負けるかあ」

「こっちへ引きこめ、潰すぞっ」


 クロードと肩を並べる大同盟軍は、怪物の威をかる傭兵達を鎧袖一触がいしゅういっしょくとばかりに一蹴、泥水を跳ねながら街道へと迫り来る巨竜にも猛然と挑みかかった。


「どれほど強力な怪物だろうと、攻略手段はある」

「弾幕を張れ、相殺にもちこめば十分だ」


 ニーズヘッグは、全長二〇mに達する巨体も勿論だが――。

 物理も魔法も破壊する吹雪の翼や、広範囲を凍てつかせる吐息ブレス、自由に動かせる盾矛兼用の竜鱗りゅうりんといった、多種多様な戦闘能力を有している。


「GA?」


 だが大同盟と交戦した蛇竜は、投入されて間もないのか、恵まれた固有能力をまるで使いこなせていなかった。


「ベックやシュテンに比べれば怖くない」

「辺境伯様だけが、お前達の敵と思うなっ」

「今回は頼れる友軍もいるからねっ」


 イヌヴェが先導する騎馬隊とネオジェネシスのスキー部隊が、怪物を撹乱かくらん、誘導し――

 サムエルら歩兵部隊とネオジェネシス弓隊が、待ち伏せからの十字砲火で足を止め――

 キジーが差配する飛行自転車隊と、ネオジェネシス魔砲隊が飽和攻撃で粉砕する――

 人間とネオジェネシス、異なる種族の力を結集した連携攻撃が、ニーズヘッグの巨体をも打ち倒した。


「「GAAA!」」


 無論、襲撃をかけてくる巨竜は一体にとどまらない。二体、三体と、山のような威容を轟かせながらわらわらと集まってくる。


「ハハハ。オレも負けられないでゲスね」


 大同盟軍が交戦中の街道から離れた森では、勇者の末裔たるドゥーエが、バッタのように木の枝を飛び回りながら暴れていた。

 彼の相棒たる妖刀ムラマサは、第三位級契約神器レギンこと、レアが修復中だ。

 けれど、ドゥーエは左義手の仕込刃しこみやいばで一撃離脱を繰り返し、顔のない蛇を物言わぬ肉塊へと容赦なく変えてゆく。


「ああいう風に死ねないのはむしろ地獄よ? 私なら楽に殺してあげる。並行世界の〝四奸六賊しかんろくぞく〟が生み出した呪いは、ひとつ残さず断ち切るわ」

「GAAAA!」


 ドゥーエの師匠たるシュテンは、相変わらずのスネ毛がチャーミングな女性用ビキニアーマーを身につけ、肉肉しい肢体で泥をはねながら、街道はずれの湿原で蛇竜ニーズヘッグと斬り合っていた。

 シュテンの愛刀〝物干し竿〟も修復中のため、今はブロルが特別に用意した大剣を振り回している。

 新しい得物も全長三m(メルカ)と大きく分厚く、際立った異形の姿だった。


「我が友が残した遺品。日本刀の横綱と名高い大太刀、大包平だいかねひらにあやかって、こう名付けましょうか。大包丁だいほうちょうと!」

「「そのままじゃないかっ」」


 大同盟やネオジェネシスの兵士達が飛び道具で援護しつつも、ツッコミを入れる。

 何のことはない。シュテンが振り回すのは、とてつもなく大きい出刃包丁である。


「燕返しも、出来るわねっ」

「「どうやって!?」」


 シュテンはV字にジグザグといった複雑な軌跡を描きながら、全長二〇mもある怪物の鱗を削いで肉を断ち割る。


「ああいうのを見ると、俺達の銃が豆粒のように感じられるな」

「いや、そうでもないよ。アッチを見ろ」


 一般兵達が撃つ弾幕は、その多くがニーズヘッグの吹雪によって中空に縫いとめられ、やがて雪に変えられて消されてしまう。

 しかし、薄桃色がかった金髪の少女ミズキは、そのように止められた弾丸や魔法矢のかたまりに向けて、豊かな胸を揺らしながらマスケット銃を撃ち放った。


「やったね。狙い通りっ!」


 ミズキが撃ち込んだ弾丸は、あたかも玉突き遊び(ビリヤード)のブレイクショットのように固定された矢玉を弾き飛ばし、蛇竜の爪元や喉首といった脆い箇所を蜂の巣にした。

 彼女は兵士達の視線が集中しているのを知ると、照れ臭そうに手を振った。


「ほら、アタシはあの二人みたいなびっくり人間じゃないし」

「「むしろ一番ヤバいんじゃっ!?」」


 ドゥーエやシュテンが常人には理解できない武器を振るう分、ミズキがありふれたマスケット銃で神業を繰り出すのが目立つのだ。


「それに、ヤバいといえばあっちでしょ?」


 ミズキがウィンクする先では、三白眼の細身青年クロードがいた。

 彼はわずかに背が焼け焦げた愛刀、八丁念仏団子刺はっちょうねんぶつだんごさしを手に、大同盟軍の背後へ回り込もうとするニーズヘッグの群れに突撃した。

 

「来い、蛇ども。クローディアス・レーベンヒェルムはここにいるぞ」

「「GYAAA!」」


 クロードは、あたかも空を飛ぶような跳躍ちょうやくで射出された鱗や唸りをあげる爪を避け、厚い装甲に守られた首を真っ二つに切り落とす。


「望まれぬ怪物よ、大地にかえれっ」


 クロードは、直後に愛刀を雷をまとった打刀と火を吹く脇差に切り替えて、続く蛇竜を十文字に斬り伏せた。

 弱かった少年は幾度の激戦を越えて、両翼たるレアとソフィが傍にいなくとも、単騎で蛇竜を滅ぼすほどの成長を遂げていた。


「「やだなあミズキさん。あれはヤバいんじゃなくて、俺たち自慢のリーダーですよ」」

「そっか。そっかあ……」


 上司からクロードの監視を命じられ、彼の孤独な戦いを見続けてきた少女にとって、大同盟軍兵士達の言葉は尊かった。

 クロード達、大同盟軍は――彼らには知る由もないことだが――型落ちしたニーズヘッグと用済みとなった戦闘員を一掃し、一〇日後には領都ユテスへと至った。


「ネオジェネシスは、こちらの戦力だったのよ! それをブロルが裏切った挙句、クロード、クロードとやかましい。あんなに弱かった偽善者が調子にのってぇ」

「我が身を縛る十のくさびは、すでに八つを破壊した。もうこの場に要はない。愛するクローディアス、次に会う時は決戦だよ。我が巫女よ、騒いでないでついてこい」


 レベッカ・エングホルムは歯噛みするも、ファヴニルの命に従って領都ユテスを脱出。

 同月の三一日。クロード達は、ネオジェネシス本拠地領都ユテスを制圧した。


「謀反人レベッカは打倒した。この戦いは僕たちとネオジェネシスの勝利だ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ