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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第六部/第四章 〝創造者〟ブロル・ハリアン
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第418話 邪竜への反逆

418


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 花咲の月(四月)一八日。

 東の海から昇る太陽の下で、ネオジェネシスの総大将ブロル・ハリアンは、遂に邪竜ファヴニルと決別した。


「第一位級契約神器イドゥンの林檎が盟約者、ブロル・ハリアン。我が一族と友のため、邪竜ファヴニルを討つ!」


 ブロルがアルファの変身した黄金の林檎を手に宣戦を布告するや、レベッカは唇を三日月のように歪めた。


「そうですの。ファヴニル様が食らった神器の搾りかすを回復させて、ネオジェネシスの一体アルファに偽装していたワケですか。おぞましい、残飯から湧いたウジ虫なんて消毒してあげますわっ」


 レベッカは燃える炎のような赤髪につけた、レギンの半身たる桜貝の髪飾りをゆらして、指をパチンと鳴らした。

 彼女の黒い瞳が、人工宝石のように青く染まり輝く。

 レベッカの暗い殺意に背を押されるように一〇〇体の兵士達が進み出て、マスケット銃を斉射し、炎や氷の槍を発射した。


「レベッカ。巫覡ふげきの力を使うのか」


 ブロルもまたレベッカ同様に青く輝く瞳を細めるも、恰幅の良い身体を押し上げるように、足を止めずに走り続ける。

 巫覡ふげきの力とは、血か因縁か、ごくごく稀に目覚める特殊な異能だ。

 ある女執事(ソフィ)は魔術道具から力を引き出し、ある隻腕傭兵(ドゥーエ)は身体の耐久性が増し、ブロルは生命エネルギーを視認する。

 そしてレベッカの場合、平行世界を覗き見ることで、事実上の未来予知が可能となるのだ。

 故に、彼女の手勢が放つ弾丸は必中。未来を見ているのだから、避けることなど絶対に叶わない。


「敢えて言わせてもらおう。他人に寄生するだけの悪女が、私とアルファをなめるなあっ」


 ブロルは白衣をはためかせながら、黄金の林檎をかざした。

 彼の影法師から、死神の鎌めいた無数の透明な刃が伸びて、迫る弾丸と魔法の槍を砂のように消しとばした。


「アハハ、ガラクタを手にしたロートルの癖に、ずいぶん威勢がいいことね」


 ブロルの前方を遮ろうと、二〇の兵士が立ちはだかる。


「そのロートルを必要としたのは、お前たちだろう?」


 ブロルが手を一閃させるや、兵士達の肌が泡立ち、ミイラのように乾燥してチリとなった。


「そうね。貴方も、貴方の子供達も良い実験対象だった。ハインツも愚かなりに役立ってくれた。でもね、ウジ風情が人間の真似をするんじゃない。気持ち悪いのよ!」


 レベッカの合図に応えるように、残る八〇の兵が姿を変える。


狂いし(クレイジー) 顔のない竜(ニーズヘッグ)よ 審判の日はここに(オーバードーム)!」


 それらは、人間でなくネオジェネシスでもない、新たなる邪竜の玩具。

 蛇の下半身と人間の上半身を持ち、胸には獣のような機械のような壺を埋め込み、背からは雪の吹く翼が生えた、人型竜兵とでも言うべき怪物だった。


「これこそ完成したニーズヘッグ。ファヴニル様の思うままに生き、望むままに死ぬ最強の兵器ですわ!」


 狂える巫女は首飾りを抱きしめながら、ときめくように艶然と微笑んだ。

 人型竜兵ニーズヘッグ達が翼をはためかせ、万物を喰らう白い雪の結晶がブロルと領都ユテスを覆う。

 教会の鐘塔が真っ二つに折れ、住宅街や市場が泥水のように溶け、港は虫食いチーズのように崩れた。


「ブロル、この素晴らしさが理解できるかしら? 意思を奪ったことで、暴走の危険性もなくなった。ワタシ達は無敵の軍団を率いて、マラヤディヴァ国を手始めに、大陸を清め、世界すべてを浄化します」

「戯言だよ、レベッカ」

「なん、ですって?」


 ブロルは、そんな滅びをもたらす雪中を、黄金の林檎を抱いて平然と突っ切った。


「その様子だと、異界からきた狂魔科学者マッドサイエンティストドクター・ビーストが、なぜ脳改造に慎重だったか理解していないな?」


 彼は手刀で最新型ニーズヘッグの首をはね、剣を折って銃を踏み砕いた。


「魂のこもらない魔法なんて、書き割りにも劣る」


 ブロルは生命エネルギーを視認する異能と引き換えに、この世界で生まれた人間が虫に見えるという精神的疾患を抱えていた。

 だからこそ、例外的に〝人間として見える〟異界からの来訪者に興味をいだき、彼らの苦闘に心を寄せた。


「ファヴニルに確認したまえ。たかが異界の知識や技術で揺らぐほど、我々の世界は軽くない!」


 ササクラ・シンジロウやカリヤ・シュテンが強いのは、異界の知識を持つ以上に、謎かけや剣術への興味から、この世界へ積極的に馴染んだからに他ならない。

 

「レベッカ、最初から平行世界観測カンニングに頼るお前にはわかるまい。膨大な試行錯誤と挫折が生む力というものを」


 クロードもまた同じ。憧れる青年が辿った軌跡が、ブロルの背を力強く押してくれる。


「術式――〝生命流転〟――起動!」


 ブロルが左手で抱く第一位級契約神器イドゥンの林檎が、膨大な光を発した。

 黄金の輝きは滅びの吹雪を吹き飛ばし、人型竜兵、新しいニーズヘッグを灼いた。


「う、噓よ。ワタシの目は勝利を見ていた。運命は決まっている!」

「愛を知らないお前にわかるまいっ」


 ブロルの右手が伸びて――


「ワタシだってお姉さまを愛しているっ」

「身勝手な妄執は、愛ではないっ」


 ――レベッカの首を落とす。しかし!


『悪いね。レベッカが観測した勝利は正しい。未来は収束する。術式――〝抱擁者〟――起動!』


 ブロル・ハリアンは、レベッカ・エングホルムに勝利したが、ファヴニルによって二人を取り巻く時間は逆回しにされる。


「ぐはっ、がっ……」

「ま、マスタァ!」


 ブロルの手刀は届くことなく、復活したニーズヘッグの群れに背中から斬られた。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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