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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第六部/第三章 師が巫女に遺した謎かけ
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第414話 クロードとソフィの謎解きデート

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 三白眼の青年領主クロードと赤いおかっぱ髪の女執事ソフィは、川獺かわうそのテルから、不可思議な手紙と三枚の白布を受け取った。

 それは、クロードと同じ日本から転移した異世界人であり、ソフィの師でもあるササクラ・シンジロウが、弟子へとのこした謎掛けだった。


「時 を しら せ る 天 の 大 塔

 人 々 が 踊 る 珊 瑚(さんご) の 山

 芙 蓉(ふよう) が 祝 う 青 き 宝 石

 空 水 地 の 祠 に 布 折 り

 鶴 と 亀 と 兜 を 納 め よ」


 クロードはソフィと共に領都エンガを奔走ほんそうしていたが、ふとしたきっかけから謎を解く手がかりを掴んだ。

 正午を告げる鐘の音が、ゴーンゴーンと響き渡ったからだ。


「ソフィ、〝時を報せる天の大塔〟は時計塔じゃない。きっと鐘楼しょうろう鐘塔しょうとうのことだ」


 寺社や教会は多くの場合、鐘を鳴らす為の設備が存在する。


「でもクロードくん。領都エンガの下町には、お寺や神殿がいっぱいあるよ」


 逆に言えば、ありとあらゆる宗教施設が候補となるため、見つけるのは極めて困難だ。しかし――。

 忘れてはいけない。ササクラの手紙は、弟子たるソフィが解けるように託されたのだ。


「ソフィ、探すのは〝天の〟大塔だ。天空神として有名な神様は誰だ?」

「クロードくん。それなら雷神トール様か、軍神テュール様だと思う。商業が盛んなマラヤディヴァ国じゃあまり見かけない神様だから……、地図のここ!」

「よし、行こう」


 かくして二人は、馬車に乗って下町へと向かった。目指すは領都エンガで一番古いアース神教の教会だ。

 無骨な門構えの教会で降りて、鐘塔へと走った。

 アース神族。特に天空に縁深い二柱の神は武神という側面が強く、ササクラ翁にとっても親しみやすかったのかも知れない。


「片手に剣をもった隻腕の神様、あれか!」

「うん、あれが軍神テュール様。今、鶴を折るね」


 クロード達は鐘塔の傍で、遂に探し求めたテュールの祠を発見した。

 ソフィが手早く白布で折った鶴を供えると、ぽうと光に包まれて赤く染まった。


「「やったあ」」


 クロードとソフィは抱き合いながら、その場で踊るようにぐるぐると回った。

 二人の腕が絡みあい、薄い胸板と豊かな乳房がわずかに触れる。互いの鼓動を感じて、重ねた手は燃えるように熱かった。


「い、一行目の謎はやり遂げた。次に行こう」

「え、えへへ。でも、次の謎はもう解けたの?」


 ソフィの問いに、クロードは白い歯を見せて親指を立てた。


「ああ、エングホルム領には白い岩、〝石灰岩〟でできた海岸があっただろう? あれらは大昔の珊瑚礁さんごしょうが変化したものなんだ」

「じゃあ、〝人々が踊る珊瑚(さんご)の山〟って……」

「たぶん、石灰岩の平地じゃないかなあ?」


 クロードの見立ては正しかった。

 先程訪ねたリゾート地区の隣には、新しく造られた港湾と新興の住宅地区があり、かつては祭りに利用された広場があったという。


「役所に確認したら、元あった祠はこの公園へ移されたらしい。別の場所に移転したり、廃されていたりすると、厄介なことになりそうだ」


 クロードは、ソフィと共に新興住宅街外れの公園を訪ねた。海鳥がニャーニャーと鳴いて、磯臭い潮風が吹き付けてくる。

 人の居ない寂れた光景に、不安が芽生えた。本命の祠が行方不明になっていては、目もあてられない。


「ソフィ、珊瑚に関係ありそうな神様は?」

「海神エーギル様か、港湾神ニョルズ様だと思う。ほら、この釣具を持った足が綺麗な神様がニョルズ様だよ。早速試してみるね」


 ソフィは慎重に白布へ折り目をつけて亀を折ってゆく。クロードの知るやり方ではハサミを入れるが、彼女は何度も折り返すことで、見事に膨らんだ甲羅と頭手足を表現してみせた。

 折った亀を祠に供えると、再び光に包まれて青く染まる。


「やるじゃないか、ソフィ。いきなり的中したのか?」

「クロードくん。先生の仕掛けは祠じゃなくて、この白布にあるんじゃないかなあ」

「なるほど、大事なのは手順を踏むことで、正解に幅を持たせているのか」


 どこまで融通が効くかは不明だが……。

 神々には様々な側面があるし、折り紙も一つの作り方だけが正解というわけではない。

 ササクラ翁は、そこまで考えた上で謎解きを準備したらしい。


「テルが悪戯好きって言ったのもわかる気がするなあ」

「わたしは、先生が謎を遺してくれて嬉しいよ。だって、クロードくんと解いてゆくの、楽しいもの」


 柔らかな視線を交わした時、ほぼ同時に二人のお腹が小さく鳴った。


「あとひとつだけど、その前にお弁当を食べようか?」

「えへへ。お弁当はオニギリだよ。クロードくんが大好きな梅干しも、たくさん入ってるよ」

「そいつは、楽しみだ。お、あっちに屋台が出てる。付け合わせにスープを買って来ようか」


 クロードとソフィは、静かな公園で肩を並べ、賑やかな街の様子を見ながらオニギリを頬張った。

 カレーに似た野菜スープを、お互いにふーふーと冷ましながら食べ合いっこする。

 忙しくなく行き来する街の人並み、南国らしい草木の匂い、海鳥の声と潮風……。

 彼らがずっと求めた平穏が、ここにはあった。


「クロードくん、ぎゅっとしてくれる」

「うん。ソフィ、大好きだよ……」

「わたしも愛してる」


 二人は互いの体温を確かめ合うようにして、唇を重ねた。


(幸せだなあ)


 クロードもソフィも知っている。

 もうすぐ最終決戦の幕が上がる。

 そして、ササクラ翁が厳重に隠した謎の正体こそ、開演を告げるベルになるのではと……二人は勘づいていたのだ。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] キスシーンですか…………私も結構な数書いているはずなのに、ほかの作品で目にするとなんか甘酸っぱくてこっぱずかしいですね(*ノ∀ノ) 不思議なことに、七鍵の恋愛ってなぜか「ハーレム」って気が…
[良い点]  こんばんは、上野文様。  前回のソフィの何気ない一言が、ササクラさんが残した謎かけを解くきっかけになり、一気に進みましたね。  青い海が青い宝石に例えられるように、時を報せる天の大塔は…
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