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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第六部/第三章 師が巫女に遺した謎かけ
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第413話 ササクラ師匠が遺した謎かけ

413


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 花咲の月(四月)一六日。

 クロードとソフィは休暇中に領都エンガの図書館に向かい、灰色のカワウソに化けたテルこと、第三位級契約神器オッテルから不可思議な日本語の封筒を受け取った。


「キュィキュイ。今は亡きエングホルム侯爵夫妻が、図書館に預けた遺品ダ。緋色革命軍マラヤ・エカルラートが街を制圧シた時モ、ネオジェネシスが奪取した時モ、詳細がわカラず放置されてイタらしい」


 差出人欄にはシンジロウ・ササクラと署名され、宛名には〝我が弟子ソフィへ〟と記されている。

 問題は中身だ。正方形の白布が三枚と、わずか五行だけ書かれた便せんが入っていた。


「時 を しら せ る 天 の 大 塔

 人 々 が 踊 る 珊 瑚(さんご) の 山

 芙 蓉(ふよう) が 祝 う 青 き 宝 石

 空 水 地 の 祠 に 布 折 り

 鶴 と 亀 と 兜 を 納 め よ」


 クロードとソフィは、中身を見て顔を見合わせた。


「これは、ただの詩じゃあないね。ルンダールの時と同じ、謎解きか?」

「うん。〝布折り〟とか〝納めよ〟って書いているから、仕掛けを動かす為の手順だと思うけど……」


 二人には、天の大塔やら青き宝石やら珊瑚の山と言われても、想像がつかなかった。


「キュッ。ササクラはアレで悪戯を好ンダし、何かしらの意味が隠されているノは間違いナイ」


 テルもまた、己の頭を前足の肉球でぺしぺしと叩きながら頭を抱えている。


「オレが見たところ、緋色革命軍もネオジェネシスも検閲しタ痕跡こんせきがあっタ。ケレド、最後は弟子へ残した詩と解釈したヨウだ。戦禍で消失しナかったのは幸運ダっタ」


 クロードはテルの報告を聞いて頷き、ふと首をかしげた。

 案外、ソフィに懸想けそうするレベッカや、義理人情に厚いシュテンが気を利かせてくれたのかも知れないが……。


「ファヴニルはササクラさんを警戒していた。だから他の奴に謎を解かせようと、わざと残した可能性もあるんじゃないか? あいつ、解ける能力があっても解かないだろう」

「キュキュキュッ。あの馬鹿蛇は、昔から自分が興味のあること以外、トコトン面倒くさがりだからナ!」


 クロードとテルは意見が一致して、右手と右前足をポンと打ちつけた。


「そ、そんなことは無いんじゃ。ううん、そうかも」


 ソフィは、ファヴニルが邪竜に堕落するより以前、善良だった頃の〝グリタヘイズの龍神〟を祀る巫女の末裔まつえいである。

 彼女はフォローを試みたものの、邪竜のことは顔も見たくないほど苦手なので諦めた。


「クロオド。ガルムが先に領都エンガを走り回って、この布と同じ魔力の匂いを感じ取っテいる。仕掛けがあるとすれば、この街で間違いナイ。兵士達を動かすカ?」


 クロードは探偵でなく領主だ。人海戦術も立派な解決手段のひとつに違いない。


「いいや、これはササクラさんがソフィに宛てた手紙だよ」

「だから、クロードくんと二人で解きたいな」

「……ミャウミャウッ。その方が、きっとササクラも喜ぶダロウ」


 満足そうに鳴くササクラの旧友に見送られ、クロードとソフィは封筒を手に図書館を出た。

 領都エンガは広い。手がかり無しに謎解きに挑むのは無謀かも知れないが、二人には確かな勝算があった。


「ソフィ、〝空水地の祠に布折り、鶴と亀と兜を納めよ〟の意味はわかるかい?」

「クロードくん、折り紙だね。まかせて、鶴も亀も兜も折れるよ。先に祠を探そうよっ」


 そう、日本から来たクロードと、ササクラの弟子たるソフィならば、五行のうち後半部二行はすでに解けているのだ。

 あとは前半部三行を解読して、布を納める場所さえ掴めば解決だ。


「よし。まずは繁華街にある、時計塔に向かおう」

「えへへ、お出かけ楽しいねっ」


 三白眼の細身青年と、赤いおかっぱ髪の女執事は指を絡めて馬車に乗り、時計塔へと向かった。

 二人は人々で賑わう街並みを歩き、やがて絶景に言葉を失うことになる。


「……いち、じゅう、ひゃく、多いなあ」

豊穣神フレイ様に愛情神フレイヤ様。山岳神スカジ様に港湾神ニョルズ様。珍しい、軍神テュール様もいるよ。祖先や英雄を祀った祠もたくさんあるね」


 二人は時計塔周辺に建てられた、膨大な数の祠に思わず見入っていた。

 繁華街の名所だろうか。木を組み合わせた小堂、石を掘り込んだ記念碑、ひとつひとつが様々な工夫を凝らされている。


「マラヤディヴァ国はヴァン神教信仰が盛んだけど、アース神教や地元宗教も負けていないんだなあ」


 緋色革命軍マラヤ・エカルラートのダヴィッド・リードホルムは、教会や神殿を接収し、己一人を崇めさせようとあらゆる宗教儀式や先祖供養を弾圧した。

 独裁者の横暴に、敬虔な人々が怒りを爆発させたのは言うまでもない。

 信仰への共感が、クロードら大同盟やブロル達ネオジェネシスを後押しする力となったことは、祠の数からも伺い知れる。


「クロードくん、次を当たろうよ。ひとつでも見つければ、きっとヒントになるよ」

「宝石なら美術館とか、博物館かな? 行ってみよう」


 かくして二人は、繁華街から観光リゾート区域へと移動した。

 しかし美術館にも博物館にも、それらしい珊瑚も青い宝石も発見できなかった。


「クロードくん。こっちの区画だと観光名所ばかりで、祠も見当たらないね」

「ササクラさんは、ソフィに伝えるつもりで謎掛けを作ったんだ。高価で持ち運びやすい宝物を目印にするのは、不自然だったか」


 クロードは、領都エンガの地図を広げながら渋面で呟いた。


(解読不能な暗号じゃ、意味がない。僕たちは何かを読み違えている。〝珊瑚の山〟や〝青い宝石〟は、なにかのたとえなのか?)

 

 赤いおかっぱ髪の女執事は、張り詰めた主人の頬をちょちょいとつついた。


「クロードくん、難しい顔をしちゃダメ。あっちを見て、海が青くて宝石みたいだよ」


 ソフィが指さした海岸は、透き通るように青かった。


「海岸線の岩も白くてすっごく綺麗。もうお昼だし、ちょっと早いけどあっちでお弁当食べようよ」


 クロードはソフィに手を引かれながら、まるで稲妻のように天啓が閃いた。


「――水辺は青い宝石にたとえられる。――珊瑚はいずれ石灰岩に変わる。――時を報せるのは針とは限らない」


 ちょうど正午になったのだろう。

 下町の方角から、ゴーンという鐘の音が聞こえてきた。

 クロードは、ソフィの手を取って走り出した。


「わかったぞ、これが答えだっ」

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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