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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第六部/第二章 決戦! エングフレート要塞
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第403話 エングフレート要塞激戦

403


 クロード達は、難攻不落のエングフレート要塞内部へと侵入を果たし、ネオジェネシス守備隊をおおいに混乱させた。

 大同盟遠征部隊は、内側と外側からの挟撃で要塞を攻め立て、降伏を勧告するも……。


「お断りだ、悪徳貴族。この要塞を落としたきゃあ、アタイを討ってからにするんだね」


 守将であるイザボー・カルネウスと、彼女を慕う兵士達は拒絶した。


「術式――〝鬼蜻蜓おにやんま〟――起動!」


 イザボーは、第六位級契約神器ルーンファンと、ドクター・ビーストの遺産である理性の鎧(パワードスーツ)の力を重ね合わせ、虫と人型が入り混じった異形へと変身を果たす。

 長い触角と丸い複眼を備えたヘルメットをかぶり、まだら模様のバイオスーツを着て、半透明の翼を広げた外見は、確かにオニヤンマを連想させた。

 そして、変身を遂げたのは、彼女一人に留まらない。


「「もはや我々に後はない。出し惜しみはなしだ!」」


 クロード達を取り巻く白髪白眼の守備隊兵のうち、およそ一〇〇名の精兵もまた、アリのような甲冑装束かっちゅうしょうぞくへ姿を変えて、剣や槍を手に斬りかかってきた。


「クロード。こうなったら交戦は避けられない。ひとまず切り抜けるぞ」


 ネオジェネシスの長兄たる巨漢ベータは、友たるクロードの背中を守ろうと、今や敵となった同胞へ豪腕を叩きつける。

 ベータの鉄拳が黒金の装甲を砕き、背後から迫る守備隊兵を吹き飛ばす。しかし――。


「ベータ兄上。貴方の剛拳こそ、我らの憧れ。ならばこそ、乗り越えて見せようっ」


 薙ぎ倒された黒い装甲兵達は、後方の一般兵達によって集団で受け止められ、すぐさま治癒と修復の魔法を施されて復帰した。

 ベータの弟妹達は、互いに庇いあうことで隊列を維持し、一糸乱れぬ連携で攻め寄せる。


「ベータっ、無理はいけない!」


 クロードは、背後へ突出するベータを諌めようと手を伸ばした。

 ネオジェネシスは、ただでさえ人間以上の身体能力を誇るのだ。

 パワードスーツで更に力を増し、チームプレイで戦えば、その脅威は計り知れない。


「心配無用だ。これが兄弟で切磋琢磨せっさたくまするということかっ。いいぞ、お前達の覇気は、我が筋肉で受け止める」


 ベータはクロードを制止し、力こぶひとつ見せると、白い歯を爽やかに輝かせた。

 彼は鍛え抜いた鉄塊のような肉体で、剣を受けては折り、槍で刺されては砕きと、八面六臂はちめんろっぴの活躍を見せた。

 さすがに衆寡敵しゅうかてきせず、アリ兵の群れと乱戦状態に陥るも……。


「クロード、こちらは任せてくれ。今の内にイザボーを抑えるんだ」

「そういうことか。ベータ、恩にきる」


 この結果こそ、ベータの誘導に他ならない。

 彼の目的は、クロードがイザボーと十全に戦えるよう、血路を切り開くことだったのだ。


「私も御主人クロードさまの道を開きましょう。鋳造――はたき」


 人形のように小さくなった青髪の侍女レアもまた、ベータがこじ開けた隙を広げようと、包囲する兵士達へ無数のはたきを投げつけた。


御主人クロードさま。イヌヴェ様達、外の部隊が到着するまでは、私達が御守りします。どうか思うままに戦ってください」


 レアはクロードの肩から跳躍ちょうやくし、はたきの一本に飛び乗って、あたかもほうきで飛ぶ魔女のように空を駆けた。

 彼女は、ネオジェネシス兵の隙間をくぐり抜けながら、更にはたきやバケツをばらまいて、守備隊を撹乱かくらんする。


「「うおおおっ、レア様に続け。辺境伯様に寄せ付けるな」」


 クロードが率いてきた奇襲部隊も、横転させた投石機や、要塞内に積まれた土嚢どのうを盾にして、少しでも敵を押し留めようと銃や魔法で応戦する。

 彼らの活躍で、イザボーが擁する敵兵の厚い壁がわずかに崩れた。


「ソフィ様。どうか辺境伯様をお願いします」

「うん、彼のことは任せて」


 赤髪の女執事ソフィが片目を閉じて、仲間たちへ手を振った。

 クロードは、彼女のチャーミングな横顔に思わず見惚れそうになったが、そんな余裕はなかった。

 イザボーは待ち受けるのではなく、むしろ積極的に切りかかってきたからだ。


「クローディアス・レーベンヒェルム。ブロル・ハリアンが認め、ヨハンネス・カルネウスを倒したという力、見せてもらおうか!」


 イザボーは異形の鎧から生えた毒々しい爪を振るい、クロードの愛刀、八丁念仏団子刺はっちょうねんぶつだんござしと激しい火花を散らした。

 加えてイザボーに付き従うアリ型装甲兵の群れが、手の離せないクロードの背を狙って槍を手に駆けてくる。


遺憾いかんながら、お生命頂戴ちょうだいするっ」

「くっ、数が多いっ」

「クロードくん、わたしが傍にいるよっ」


 クロードは足先で魔術文字を綴って、土で作られた柱を次々と隆起させ……。

 ソフィが柱と柱の間を舞うように駆けながら、水の刃が伸びた杖を手に薙刀術と魔術を駆使して、要塞兵の突進を食い止めた。


「クロードくん、前の戦いで鹵獲ろかくした鎧を調べたんだ。イザボーさん達の装備は改良されているけど、時間制限がある。ここを耐え切れば大丈夫だよっ」

「ソフィ、そいつはグッドニュースだ。希望が持てる」


 クロードの顔色に血色が戻り、愛刀を握る力が増す。

 彼は、装甲服から伸びた半透明の翼で低空浮遊ホバリングするイザボーへ果敢に斬りつけるが……。


「はっ、元より外の援軍が到着すれば、アタイ達の負けさ。その前にアンタを潰せば大同盟は終わる!」


 イザボーも、長い爪を使って負けじとばかりに応戦する。

 また彼女の手には、巨大な扇子めいた凶器が握られていて、器用に開閉を繰り返しながら剣を受け流すため、思うように決定打を与えられない。


「イザボーさん。僕と戦うのは、僕がヨハンネス・カルネウス提督の仇だからか?」


 サムエルが調査を始めてわかったのだが、イザボーは不自然なほどに、過去の記録が抹消されていた。

 とっかかりとなった手掛かりは、緋色革命軍マラヤ・エカルラートに所属していた頃に、ヨハンネス提督によって姪御と呼ばれ、『まるで実の娘のように可愛がられていた』という証言だった。


「いいや辺境伯、それは違う。叔父貴は満足だったろうさ。ネオジェネシスに誘った時も、アンタやロロンと戦いたいから、って断られたんだ」


 クロード達大同盟は、ユングヴィ領沖の一大会戦でヨハンネス提督と戦い、旗艦が撃沈される寸前まで追い込まれながら、辛くも勝利を収めた。


「アタイも実の所、恨みなんてない。アンタをぶちのめすのは、ダチと家族のためだ。野郎ども、息を合わせなっ」


 イザボーが巨大な扇子を広げながら浮遊し、合図を送る。アリ型装甲兵達の準備が整ったらしい。再び攻勢が来る。

 クロードは、傍で杖を振るう少女の手を強く握った。


「ソフィ、ワガママに付き合わせてすまない。一緒に戦ってくれ」

「もちろんだよ。あのイザボーさんって女性、クロードくんに似てるんだ。放っておけないよ」


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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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