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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第五部/第九章 妖刀ムラマサと異界剣鬼シュテン
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第380話 積みあげた業、紡いだ絆

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「……友達が大切だ!」


 クロードはドゥーエを守るため、シュテンに頭突きを見舞い、戦闘が始まった。

 とはいえ、ラッキーヒットは一度だけだ。

 ビキニアーマーを身につけた筋肉ダルマは、ゴムボールのように跳ね回り、容易に組みつかせない。


「辺境伯サマ、このどうしようもない男を友と呼ぶの?」

「どうしようもなくなんてない。ドゥーエさんは、領都レーフォンの皆を守ってくれた」

「それも感情に流されたからよ!」


 クロードは皮膚を覆う赤い粘液、鮮血兜鎧ブラッドアーマーを使って斬撃を受け流し、接近を試みるも……。


「民間人を守ろうと、必死になったオモイのどこが悪いんだっ」

佞臣ねいしんや外道と共に悪行三昧だったチンピラが、一度改心したフリをしたからって信じられるものか!」


 圧倒的なリーチ差によって、手も足も出ずに吹き飛ばされた。

 クロードの握る打刀が刃渡りおよそ七〇cm、脇差がおよそ五〇cm程度に対し、シュテンが振るう物干し竿は二mを超えており……。

 燕を返すが如き変幻自在の剣は、軌跡を読むことさえ許してくれない。


「狙うならオレを狙えよクソ師匠。黙っていりゃあ言いたい放題言いやがる!」

「言われずとも両方潰すワ。日頃の悪事を反省なさい」


 ドゥーエは、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、クロードを庇って割り入った。

 隻眼隻腕の剣客は、義手から鋼糸を網のように放って筋肉ダルマの動きを止め、手首から伸ばした仕込み刃で切りかかったが……。

 シュテンは快刀乱麻かいとうらんまを断つとばかりに物干し竿で一閃、続く膝蹴りでドゥーエを跳ね飛ばした。


「ドゥーエさんっ。鋳造――」


 クロードは受け身を取りながらバク転、魔術で無数の鎖を作り出してシュテンの追撃を阻もうとするも、一呼吸も保たずに切り散らされた。


(ネオジェネシスが経験を積んだら危ないとは思っていたよ。でも、さすがにシュテンさんは反則だろう……)


 クロード達人間が、常人の数倍の力を誇るネオジェネシスと互角以上に戦えていたのは、実戦経験の差があったからだ。

 しかし、シュテンは人間として生きた時代に確かな術理と技術を磨き、ネオジェネシスという第二の生と共に怪力乱神かいりきらんしんの力を得た。

 かの人類最強、オズバルト・ダールマンに匹敵ししかねない〝完成型〟なのだ。

 

「レア、ソフィ、テル、ガルム、ミズキちゃん! 力を貸してくれ。なんとか取り押さえよう」

「辺境伯サマ。残念だけど、会話で時間を稼いだのはコチラも同じよ」


 シュテンはドゥーエを蹴り飛ばした後、丸太のような腕を掲げて、赤子の頭ほどもある力瘤ちからこぶを見せつける。

 それが合図となったか、筋肉の鎧をまとった豪快なネオジェネシス兵が一〇名、丘陵の森中から飛び出してきた。


「シュテン師父。我ら弟子一〇名、援軍として馳せ参じました!」


 クロードは、先頭に立つ白髪白眼の美丈夫が叫ぶのを見て、心底驚いた。

 彼の横顔と、暑苦しくも爽やかさを感じさせる気配に覚えがあったからだ。


「……ベータ、復活したのか!」

「そうか、貴方はそう呼んでくれるのか。ならば、迷いはなくなった。このベータ、恩も義理もあれど、我が父と師父の為、再び貴方と試合いたい!」


 クロードは再会の嬉しさはあったものの、最悪の展開に膝が震えた。

 シュテンは鬼札ジョーカーたるニーズヘッグを温存したまま、強力な援軍を手札に加えた。

 一方のクロードは、レアの半身が奪われたことから、時間遡行や決戦兵装といった切りエースを失っていて……。

 ドゥーエもシステム・ヘルヘイムを発動するどころか、ムラマサを抜刀できずにいる。


「形成逆転ね。馬鹿弟子の首を渡すなら、見逃してもいいわヨ?」

「……クロー」

「断ると言った!」


 ドゥーエが諦めの言葉を挟む前に、クロードは啖呵たんかを切った。


(考えろ、考えろ。何でもいい。何かきっかけを見つけて、勝算を掴むんだ……)


 けれど、どんなに頭を巡らせても、そんな都合のいい勝ち筋はなかった。

 これまでもそうだったように、たった一人で乗り越えられるほど、人間や国家の大事は軽くない。


「大丈夫だよ、クロードくん」


 その時、ソフィがベータに向かって一歩を踏み出した。

 背を向けているので顔は見えなかったが、確信できた。きっといつものように、朗らかに微笑んでいるはずだ。


「シュテンさんを説得するんだよね。全力でお手伝いするよ!」


 ソフィという少女は、戦いを好まない。

 けれど、そんな彼女だからこそ、今、立つべき戦場を得た。


「執事殿、貴女はクロ……辺境伯様を好いているのか?」

「うん、大好きだよ」


 ベータは、そして彼と共に馳せ参じた九体のネオジェネシスは、からからと笑った。


「好敵手の恋人と拳を交える機会を得るとは、光栄だ。一手指南をお願いしたい」

「うん!」


 ソフィはベータと頷きあった。

 一方、女執事の肩に乗ったレアは、ぷるぷると震えていた。


「……ソフィなら構いませんけど、あとで家族会議ですっ」

「侍女よ、お前はもう少し器を大きくだナア」

「バウ、ワフン」


 ソフィとレアに寄りそうように、川獺のテルと銀犬ガルムがベータ達と向かい合う。


「術式――〝展迷てんめい〟――起動!」


 ネオジェネシスの長男は、契約神器の力で森と川の一部を迷宮化させて、自ら戦場を分けた。


「ソフィ、ベータ……」


 どうやらソフィとベータは、クロードの意を汲んでくれたらしい。

 何が何でもドゥーエを逃がすわけにはいかない、というシュテンの意向も勿論あるだろうが……。

 これで戦場に残されたのは、敵であるシュテン一人に対し、クロードとドゥーエ。そして。


「悪いね、クロード。三体一は卑怯だし、何よりそいつは、あたしのダーリンの敵で、命の恩人(ニーダルさん)の仇でもあるんだ。生かしてはおけない」


 ミズキがマスケット銃を手に、ゆっくりとシュテンの側へ歩いて行った。


「あら、数の差なんて気にしないわヨ?」

「クロードを裏切る気はないよ。悪いけど、その男を始末したら、次はアンタを殺す。いいや、殺しちゃダメなんだっけ?」

「好きになさい。変則勝負もどんと来い、相手してあげるワ。辺境伯サマを倒し、馬鹿弟子に引導をわたす!」


 かくしてクロードにとって厳しく、ドゥーエとっては地獄めいた、二対二のタッグ戦がはじまった。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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