表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第五部/第九章 妖刀ムラマサと異界剣鬼シュテン
389/569

第379話 選び取った道

379


 カリヤ・シュテンは、ダイダイ色の細いブラジャーめいた胸当てと、股間を守る際どいV字のガードから伸びる手足をぶるぶると震わせて――。


『弟子たるドゥーエは、ハインツ・リンデンベルク以上に国家へ仇を為すだろう』


 と、雷鳴の如く言い放った。

 クロードは、咄嗟とっさに抗議の声をあげた。


「待ってくれ、シュテンさん。いくらなんでも言い過ぎだ。ドゥーエさんにそんな野望なんてない」

「〝ない〟からこそ厄介なのよ。辺境伯サマ達は、国主の遠縁って立場を与えて、守ろうとしているみたいだけど……。元〝赤い導家士どうけし〟のイヌヴェやキジーのような、こいつの部下が邪心を抱いたら? 官吏や参謀の中に、第二のハインツが生まれたら? その時、この馬鹿弟子が担ぎあげられることがないって、どうして信じられるのかしら?」


 シュテンは、的確にドゥーエの危険性を指摘した。


「この世界は、ワタシ達が生まれた日本と違って、個人の力が強すぎる。こいつが協力した与太者よたものども、〝赤い導家士どうけし〟が、どれだけ他人様に迷惑をかけたかを、知らないとは言わせない」


 クロードは反論しようとしたが、返す言葉もなかった。ドゥーエが、ロジオン・ドロフェーエフを名乗る敵であった時、彼とまともに戦えたのはアリスだけなのだ。

 シュテンの背後では、ミズキがマスケットの銃口をドゥーエに向けて、ソフィとレアが必死でなだめている。


「だめだよ、ミズキちゃん。危ないよっ」

「落ち着いてください。御主人クロードさまが必ず何とかしますから」

「ソフィさん、レアさん。こればっかりは、他人任せには出来ないんだよ。並行世界とか知ったことか。アイツは絶対に許せない!」


 ミズキの斬りつけるような台詞に、ドゥーエの顔から血の気がひく。

 彼は愛刀を鞘から抜こうとするものの、手が震えて上手くいかないようだ。


「ドゥーエさん、なにをやって……」


 クロードは、ドゥーエが手こずるムラマサ見て頭を抱えた。


(手が震えているだけじゃない。アレじゃあ無理だ)


 クロードには、ムラマサに宿る幽霊姉弟が三番目ドライを縛り上げ、残る全員でプラカードを立てているのが見えた。


『もうあきらめよう』


 彼女達は全員、ドゥーエによって命を落としている。協力しろとは言えないだろう。


「師匠は、オレが恩人に刃を向けると言いたいのか!」

「そうよ、馬鹿弟子。姉弟を手にかけたあの日から、アンタは芯がなくなった。だから容易く流される」


 クロードは、幽霊姉弟との会話を思い出す。

 長姉たる一番目の女の子も言っていた。愛する家族を己が手で喪ったその日から、ドゥーエは選択から逃げるようになった、と。


「ドゥーエ。子供の頃は分別もつかなかっただろうし、間が悪かったこともあるでしょう。でも、この世界に来てからは別。どんな理想があろうと、どんな夢があろうと、アナタは、絶対に選んではいけない道を進んでしまったの」


 クロードは、ドゥーエが口をつぐみ項垂うなだれるのを見た。

 最初は、あくまで世界を救う為に革命を志したのだろう。

 けれど大義に狂い、多くの過激派を招き入れた赤い導家士は、殺戮に略奪、人身売買、薬物密売と、ありとあらゆる悪業に手を染めた。

 遂には、敵対していたはずの佞臣ねいしん、〝四奸六賊しかんろくぞく〟からの招安しょうあんを受け、傘下になる始末だ。

 ドゥーエことロジオン・ドロフェーエフは外部協力員だったといえ、無関係とは口が裂けても言えない。


「ワタシは、ガングニールからアナタを頼むと後事を託された。だから、ここで殺す。もう楽になりなさい」


 シュテンの刃渡り二mを超える刀が、断罪の裁きとなって振り下ろされる。

 ドゥーエは動かない。否、動けない。彼の踏みしだいてきた過去が、重ねた罪が、ついに追いついてしまった。

 しかし、物干し竿がドレッドロックスヘアごと咎人の首を絶つ直前――。


「鋳造――雷切らいきり! 火車切かしゃぎり!」


 クロードが握る、雷を帯びる刀と火を吹く脇差が阻んだ。同時にシュテンも地を蹴り、物干し竿の軌跡が変わる。

 あたかも宙を舞う燕のように……。

 一八〇度方向転換するのは当たり前、小円に大円、ジグザグと、およそ人間離れした剣閃が雨あられと降り注ぐ。


(一刀じゃ無理。二刀でも足りないじゃないか)


 クロードは必死でくらいつくも、シュテンの攻勢は激しさを増すばかりだ。


「……辺境伯サマ、退いてちょうだい」

「退くわけにはいかない。僕はドゥーエさんと一緒に戦うと決めた」

「わからない人ね。赤い導家士だけの問題じゃないのヨ」


 シュテンが何を言いたいか、クロードにはわかっていた。

 彼は、大同盟が変質することを危惧きぐしているのだろう。


「辺境伯サマ。貴方は優しいけれど、正しくはないわ。邪竜ファヴニルと戦うと決めながら、その妹レギンと兄オッテル、巫女ソフィを側に置く。流血を避けようとして、更なる流血の種を蒔いてどうするの? アナタは間違っているワ」


 シュテンが振るう嵐の如き剣を受けながら、クロードは這うようにして前進を続けた。

 

(そんなことは、悪徳貴族の影武者になった夜――。ソフィを助けに来たエリック達を受け入れると決めてから、レアと共に生きると誓ったこの時まで、ずっと承知していることだ)


 正しくなかろうが、悪とそしられようが、これがクロードの選び取った道だ。


「シュテンさん、僕はたとえ百万人に間違っていると言われても、好きな女の子を守る!」

「ハッ、青いわね」


 次の瞬間、ビキニアーマーを着た偉丈夫が跳躍し、砲弾もかくやという膝蹴りが、もやし青年の胸板へ突き刺さった。


「……そして」


 クロードは揺るがない。皮膚を覆う血のような粘液、鮮血兜鎧ブラッドアーマーで致命的な衝撃を散らしつつ、飛び込むようにして頭突きを見舞う。


「同じくらい、友達が大切だ!」


 さしものシュテンも、非常識極まりない一撃は避けられず、クロードの石頭をまともに受けた。


「アハッ、ハハッ。イイわ。折れようと砕けようと貫く魂。惚れちゃいそう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点]  クロードの「好きな人を絶対守る」と「それと同じくらいに友達が大切だ」というセリフ、感動しました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ