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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第五部/第七章 無敵要塞線の攻防
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第364話 システム・ヘルヘイム

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 ドゥーエから、冬に閉ざされた並行世界の顛末てんまつを聞いて、大同盟の有力者達は張り詰めた表情で議論を始めた。

 〝融合体〟が引き起こす終末が、ただの絵空事ではなくなった以上、彼らも尻に火がついたのだろう。


(ゲンキン、とは言わんさ。明日は我が身となれば、黙っちゃいられまい。腹をくくれよ、問題はここからだぜ)


 クロードを横目で見たが、彼は特に動揺したそぶりもない。

 ドゥーエは、それでこそ自分が見込んだ男と胸を撫で下ろした。

 国主グスタフ・ユングヴィは血の気が引いた顔ながらも周囲をなだめ、ドゥーエに話の続きを促した。


「ドゥーエ君。四奸六賊しかんろくぞくは、対神器用決戦魔術――〝システム・レーヴァテイン〟と、制御用の気象兵器、見出された被験者、で〝融合体・システム・ヘルヘイム〟を作ろうとしたが、失敗したと言ったね。しかし、君はニーズヘッグとの戦いで、実際に我々の前で使ってみせたじゃないか?」


 ドゥーエは、国主に痛いところを突かれて言葉に詰まった。

 そうなのだ。失敗したはずのシステム・ヘルヘイムを、ドゥーエは何故か使える(・・・・・)のだ。


「それが、よくわからんのでゲス。終末の雪が降り始めた後、オレは共和国の大都市で冬を呼ぶ〝融合体〟の一体と交戦しました」


 ちょうど、幼馴染みの少女とは別行動を取っていた時だ。

 ドゥーエは、まるで定められた宿命のように、探し求めていた末妹と再会した。

 愛しい家族は四肢を失い、機械にも獣にも似た壺めいた気象兵器に閉じ込められて、操られるがままに死を振り撒いた。


「ニーズヘッグと実際に刃を交えた皆様にゃあ、言うまでもないことでしょうが、アレは生きた災害だった。高位神器の盟約者や、一騎当千の益荒男ますらおどもが阻もうと挑んで、鎧袖一触がいしゅういっしょくとばかりに蹴散らされた。どうして生き延びたのやらさっぱりでゲス」


 大嘘だ。

 理由のひとつは、ドゥーエが目覚めた巫覡ふげきの力が、死中に活路を見出す、生存に特化した異能だったから。

 そして、もうひとつの大きな理由は、機械に動かされるがままだった末妹が、ドゥーエを手にかけようとした瞬間に、正気を取り戻したからだ。


(今でも夢に見る。アイツの緋色に染まった瞳が、ほんの一瞬だけ生来の青灰色に戻ったんだ……)


 ドゥーエは、背負った愛刀ムラマサの鞘を掴んだ。


「オレはその戦いの後、師匠から譲り受けた刀、ムラマサを抜いている時に限り、システム・ヘルヘイムを使えるようになったでゲス」


 おそらくは、末妹が何らかの形で能力を分け与えてくれたのだろう。

 ドゥーエも、元は融合体の被験者候補として選ばれていたのだ。適性はあったはずだ。


(力を振るえば代償はあるし、普段から体のあちこちが痛むようになったがな……)


 今も、まるで蹴りでも入れられているように、背中や腰が痛んでいる。


「……クロードくん、幽霊が汗をかいた手で触るんじゃないって怒りながら、ドゥーエさんを蹴ってるように見えるよ」

「ソフィには、魔術道具に干渉する巫覡ふげきの力がありますから、刀に憑いている何かが見えるのでしょう。私もうすぼんやりですが、見ることができます」

「二人とも、静かにしよう、ね」


 クロードと、女執事、侍女の三人がなにやらひそひそと話していたが、ドゥーエはどう説明したものかと悩んでいたため、耳に届かなかった。


「オレも向こうでシステム・ヘルヘイムについて調べました。後で再会したガングニールや、刀を修理してくれたレギンが色々と教えてくれたんですが……」


 青髪の侍女レアが、ほうと息を呑んだ。

 彼女が刀に憑いている幽霊を視認できる理由は、どうやらそういった縁らしい。


「システム・ヘルヘイムは、大本のレプリカ・レーヴァテインの目的を改ざんし、 

 ――四奸六賊の統治のもと、正義と平等、博愛を世に示す。

 ――恒久平和を樹立するため、争いの元凶となる盟約者と契約神器を根絶する。

 この二つの目的へとねじ曲げたようです」


 ドゥーエが明かした真実に、広間に集った誰もが憤怒の表情で静まりかえった。

 国主グスタフも絶句して、机に拳を叩きつけた。


「驕った真似を……!」


 ドゥーエに実感はないが、先祖の残した技術を悪用されたのだ、無理もあるまい。

 先祖と面識があったらしい元第三位級契約神器オッテルもまた、カワウソ姿ながらも全身の毛を怒りで逆立てている。


「牙なき者の牙となれ。アイツの祈りをそうまでねじ曲げたかよ、クソどもめ」


 残されていた資料によれば、悪党どもの実験は、シミュレーションでは上手くいっていた。しかし――。


「皆様もご存じの通り〝融合体〟は非常に危険でゲス。他の国々が開発しなかったのは、兵器として運用するには、あまりに不安定すぎたからでしょう」


 レアとソフィ、ショーコは、彼の言葉を肯定するように深々と頷いた。

 非人道的というのも勿論だが、いつ起爆するかわからない爆弾など、危なっかしくて使えたものではない。


「残念ながら、四奸六賊れんちゅうは現実を見ていなかった。勝てばいい、先んじて使えば優位に立てる。そんな妄執をキメていたようでゲス」


 ドゥーエの独白に、エリックとブリギッタは、苦虫を噛みつぶしたような顔で互いの手を握りしめた。

 彼らの幼なじみであるダヴィッド・リードホルムもまた、ファヴニルの甘言にのせられて、悪い夢でも見るかのように虐殺者と成り果てたのだ。

 正気の隣には、いつだって狂気が潜んでいるのかも知れない。


「……術式をねじ曲げて、侵略目的の兵器を作り、被験者を生贄に捧げた」


 目的は、正義と平等、博愛を世に示し、恒久平和を樹立すること。その為に根絶すべき争いの元凶とは、いったい何なのか?


「システム・ヘルヘイムは、自らを作り出した四奸六賊こそが、討つべき敵と見定めたのでしょう。融合体が起動実験で暴走した理由、連中と戦い続けたオレが使える理由は、そうじゃないかと考えているでゲス」


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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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