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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第五部/第七章 無敵要塞線の攻防
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第355話 レアの隠し札

355


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 芽吹の月(一月)一四日午後。

 クロード達大同盟と、ブロル・ハリアンを創造主とするネオジェネシスは、港町ビズヒルの北に築かれた〝無敵要塞線〟を巡り、激しい戦闘を繰り広げていた。

 クロード達は、見た目こそ巨大糸車パンジャンドラムながら、優秀だった新兵器ワニュウドウの活躍により、敵塹壕網てきざんごうもうの一角を切り崩すことに成功する。

 しかし、裏切り者のハインツ・リンデンベルク元国立大学学長が、領都レーフォンに多大な被害をもたらした決戦兵器、顔なし竜(ニーズヘッグ)を投入したことで、戦場は一変した。


「クロードくんや、レアちゃんはあんなのと戦ったの?」


 赤いおかっぱ髪の女執事、ソフィが黒い瞳を大きく広げて、眼前の光景に身体を震わせた。


「ああ。少し大きいが、あんな感じだった。だから、レアは……」


 クロードは、刀を握る手に知らず力を込めていた。

 かつてネオジェネシスの長兄ベータや、エカルド・ベックが変貌したように――。

 目と鼻、耳のない蛇竜じゃりゅうが三体、東の塹壕さんごう、西の砦、そして北の補給キャンプから全長二〇mにも達する小山の如き体を持ち上げた。

 巨大な蛇竜は翼をはためかせるように、背から雪と霧を噴出させる。


 塹壕は、スプーンでかき回したかき氷のように崩れおち――

 砦は床に投げつけられたガラス細工のように散り散りになり――

 キャンプは中で支度していた白眼白髪のネオジェネシス達諸共に氷の屑となって――

 朽ち果てた。


「……アリスや、ショーコさんがいなくて良かった。こんな光景は見せたくない」


 三体の蛇竜は、先達であるベータやベックとは違い、まるで己の力を制御できていなかった。

 大同盟にこそ被害はなかったものの、巻き込まれたネオジェネシス達はたまったものではないだろう。

 なにせ巨体が巨体だ。三匹が動くだけで、ありとあらゆるものがペシャンコになってしまう。

 ハインツ・リンデンベルク元国立大学学長は、西部連邦人民共和国研究の第一人者であり、さまざまな学問に長じたスペシャリストという触れ込みだったが……、この自爆めいた戦術を見る限り、兵法に関してはズブの素人にすら及ばないだろう。


「ニーズヘッグは放ってはおけない。さっきも言ったように、レアとソフィは、ここで援護を頼む」


 クロードは鋳造魔術で作り上げた打刀と脇差しを腰に差すと、てのひらほどの大きさになってしまったレアを抱きしめた。

 別れを惜しむように、ついばむように接吻せっぷんを交わす。


「行ってきます」

御主人クロード様……」


 青い髪と緋色の瞳の侍女の、仮初めの人形めいた体が光に包まれて、一枚だけの桜貝の髪飾りに変わる。

 クロードは、レアの正体である髪飾りを両の手で包み込んだ。


「じゃあ、クロードくん。レアちゃんはわたしが預かるね」

「ああ。ソフィ、よろしく頼むよ」

「うん、任せて」


 クロードの頼みに、ソフィは豊かな胸を張った。

 

(今のレアは弱ってしまって、自分の身さえ満足に守れない。でも、契約神器や魔術道具の力を引き出せるソフィの近くなら、安全なはずだ)


 クロードが女執事のおかっぱ髪につけると、髪飾りがぼうと光を発した。そして。


「ごめんなさい。ソフィ・〝ファフナー〟。貴方の体を貸してください」

「え、レアちゃん? なに、どうしたの?」


 一瞬の後。

 クロードの目の前で、貝飾りをつけた女執事ソフィの赤い髪は左半分が侍女レアと同じ青に染まり、黒かった左の瞳も緋色に変わっていた。


「鋳造――手鏡。ソフィ、どうですか?」

「すっごーい! なにこれ、どうなってるの。わたしもレアちゃんの力が使えるの?」

「はい。今の私達なら、御主人クロード様のお役に立てます。体が小さくなってから、ずっとやり方を模索していたんです。成功して良かった……」


 クロードがあまりの展開に呆然としていると――

 ソフィ? の口がレアと二人分の台詞を喋り、手で身体のあちこちをひとつひとつ確認しながらまさぐっている。

 ソフィとレアの入り混じった雰囲気で、胸や太ももが揺れるのは、目に毒だった。


「うん、身体は動くし、魔法も使えるみたい。レアちゃんは問題ない?」

「……胸が重いです。肩がこります」

「いいじゃない。だってクロードくん、喜んでくれるよ?」


 レアと一体化したソフィが腕を掴んで胸に抱き寄せると、クロードは焚き火にでもあたったかのように顔が真っ赤になった。


「むむむむ、良いんです。私は御主人クロード様と、もっと凄いことやったんですから」

「え、なにやったの。教えてよ、クロードくん、レアちゃん」

「ま、待ってくれ二人とも、そんなことをしている場合じゃない!」


 クロードが、レアと一体化したソフィとくんずほぐれつ揉み合っている間にも、三体の量産型ニーズヘッグは暴れ回っている。

 特に東側の一体が大同盟の最前線へ近づいてきて、川獺のテルと白銀の犬ガルムが、兵士達の援護を受けながら防戦していた。


「フッ、妹の為に体を張るなンて、まさに兄貴のカガミ。くっそ、今だけはデカい体に戻りタイ」

「ワオーン」


 テルが吹雪を掻い潜りながらアゴを殴りつけ、ガルムが空中で一回転して渾身の飛び蹴りを額に放つも、巨大蛇竜はぴくりとも動じない。


「テル様とガルム様を守れ!」

「お二人に負けるな」

「モフりたいなあ」


 大同盟の兵士達もまたレ式魔銃ことライフルを一斉発射するも、全長二〇mもの怪獣を相手取るには豆鉄砲もいいところだ。

 

「行こう。クロードくんがみんなを守ってくれるように、わたし達が貴方を守るよ。レアちゃんも手伝ってくれる」

「はい。これもメイドの務めですから」

「……うん。レア、ソフィ。一緒に行こう!」


 クロードはレアと一体化したソフィの手を引いて、迫るニーズヘッグの前に躍り出た。

 蛇竜は羽の吹雪で迎撃するも、半赤半青髪の少女達が繰り出す無数のはたきがすべて叩き落とす。


刮目かつもくしろ、ネオジェネシス。俺たちは、こんなものには負けない!」


 クロードが天を衝く塔の如き雷と炎の大剣でX字に切りつけて、レアとソフィが滝のような水の薙刀を一閃させる。

 巨竜が三つに断ち割れて消滅すると、われるような歓声が上がった。

 それは、大同盟だけでなく、ネオジェネシスの陣地からも聞こえてきた。


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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] サイクロン! ジョーカー! 仮面ライダー思い出しました(笑) レアさん、なかなか凄い技使いますね。 ワニュウドウも有能ですし、一気呵成な感じですっ!
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