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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第五部/第七章 無敵要塞線の攻防
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第352話 秘密兵器はパンジャンドラム?

352


 クロードの呼びかけに応えて……。

 国主グスタフ・ユングヴィ大公と、彼の懐刀であるオクセンシュルナ議員。

 領の治安維持と防衛を担当するエリック。

 大同盟の中でも随一の折衝役として存在間を見せるブリギッタ・カーン。

 公安情報部の重鎮にして、諜報の指揮者たるハサネ・イスマイール。

 大同盟海軍の大将たる白髪の提督ロロン。

 他にも契約神器・魔術道具研究所の非常勤顧問ショーコや、財界を束ねるパウルに、部隊長クラスの将官といったメンバーが、領役所の二階会議室に集まった。


「辺境伯、全員揃ったよ。会議を始めてくれ」


 上座に座った国主グスタフは、期待を込めてクロードに微笑みかけた。

 大同盟の指導者たる青年は、先日の枯れ枝のごとく憔悴しょうすいした様子はどこへやら、情熱の炎に燃えていた。


「国主様、ありがとうございます。今日は、ネオジェネシスへの方針を決めたいと思う。みんな、手元の資料と地図を見てほしい」

御主人クロードさま。投影します」


 レアは小さな身体ながら、畳まれていた地図をよいせよいせとセットして、白壁に現状の戦力配置図を映し出す。

 各々三万の兵士を擁して迫るネオジェネシス北軍と南軍を知って、会議室はどよめいた。

 部門を統括する代表者達の反応も、先程までのクロードと似たりよったりだった。


「おいおい、北のメーレンブルク領はなんとかなりそうだが、南のユーツ領はまったく兵士が足りてないじゃないか」

「もしもセイさんが討たれたり、首都クランが奪われたりでもしたら、とんでもないことになるわ」

「最悪、他の国が出兵してくる可能性も考えておくべきでしょう」

「あり得ないことだ。セイ司令の強さは誰もが理解している。むしろ危険なのは北の方でだろう?」

「同感です。オットー・アルテアンは、ブロル・ハリアンの旧友だそうです。そういった意味でもリスクを検討すべきだ」


 喧々諤々(けんけんがくがく)の議論が続き、出席者達の論争は加熱する。

 そうして行き詰まる瞬間を見計らって、クロードは口を開いた。


「みんな、僕の話を聞いてほしい」


 会議室が、しわぶき一つなく静まった。

 クロードは自身に、視線が吸い寄せられるのを自覚した。

 かつては怖いと感じたことがある。仮面を被ろうとしたこともある。けれど、今は堂々と、自然体で振る舞うことができた。


「攻め寄せてくるネオジェネシスの将帥は手強く、兵も大軍だ。けれど逆に言うならば、それだけの戦力が彼らの勢力地から離れたということに他ならない」


 必要だったのは、逆転の発想だ。

 仮に、万人敵ゴルトが指揮する六万の軍勢と敵地で戦えば、どれだけの被害が出るかわかったものではない。

 これはピンチではなく、セイとアリスがクロードに与えてくれた唯一無二の勝機チャンスだった。


「だから、僕は艦隊を率いて西側から侵入し、港町ビズヒルに上陸しようと思う」


 手薄になっているネオジェネシスの勢力圏を急襲し、本拠地であるエングホルム領エンガとユーツ領ユテスを落とす。

 あるいは、代表であるブロル・ハリアンとの結着をつける。

 そうすれば、もはやゴルトとて何もできずに、マラヤディヴァ内戦は終結する。

 

「なるほど艦隊で迎撃に向かうのではなく、敵本拠地へ攻め入るというのですか?」


 ハサネが手元資料に羽ペンで書き込みながら、眉をしかめる。


「クロード。やりたいことはわかるが、港町ビズヒルの周辺は、緋色革命軍マラヤ・エカルラートの頃から塹壕ざんごうと砦が作られて要塞化されているぞ。簡単には抜けられない」

「待ってよ、エリック。今エングホルム領には、あのゴルトがいないのよ。こんなチャンスは、滅多にない」


 エリックが慎重論を唱えるも、ブリギッタが積極策を支持した。


「辺境伯。娘はああ言っているが、レーベンヒェルム領は以前にベナクレー丘で敗北を喫したはずだ。危険な賭けに出るよりも、防戦に徹して負傷兵の回復を待った方がいいのではないかね?」

「パウル殿、あの時とは事情が違います。まず敵にアンドルー・チョーカーはおらず、我らの艦隊が砲撃で支援できる。そして、ネオジェネシスは短期間のうちに戦術に習熟している。時間は我々の味方とは限りませんぞ」


 会議の参加者は、それぞれの立場でメリットとデメリットを論じた。

 どんな物事にも、良い面と悪い面がある。

 ネオジェネシスのように意識の共有で塗りつぶすのではなく、複数の視点から検証できることこそ、大同盟の強みだろう。


(僕達は、チームだからこそ支えあえる。セイが直接言わなかったのは、この為だったのかも)


 議論の結果、クロードのネオジェネシス本拠地侵攻作戦の問題点は二つに集約された。


・セイが支える戦線の守りが薄い

・敵要塞地帯を破るには火力が足りない


 ここで、国主グスタフ・ユングヴィが声をあげた。


「セイ司令の後方支援は、私とオクセンシュルナが請け負おう。そもそもユングヴィ領は私の故郷であり、領民達は家族も同然だ」


 国主様に何かあってはいけないと、止める声が相継いだが、グスタフは制した。


「国主だからこそ、為さねばならんよ。戦の経験も、メーレンブルク領で積んだ。やってみせるさ」


 セイの目的は、元よりゴルトの足止めだ。

 彼女にとっての最大の懸念は、奇襲部隊を迂回させての首都クランの陥落だろうが……。

 メーレンブルク領で、圧倒的不利な戦況で粘りに粘ったグスタフ大公とオクセンシュルナ議員がいれば、そうそう落ちることはないだろう。


「あとは、エングホルム領の要塞地帯を突破するための打撃力か。遠縁のドゥーエも参加させるが、それでも難しいかい?」


 ドゥーエは、本人が盛大に反対したものの押し切られて、国主グスタフ・ユングヴィの親戚という新しい戸籍が与えられていた。


「国主様の御親戚は、顔なし竜(ニーズヘッグ)の要塞を、薄紙でも裂くように壊していました。ですが、あのような戦い方をすれば、魔力の消耗も絶大です。無茶を繰り返すわけにもいかんでしょう」

「遠距離からの砲撃と、飛行自転車を使った爆撃が一番だろうけど、敵も矢除けの結界や対空設備を整えているだろうし……」


 ああでもないこうでもないと、議論が煮詰まった頃、会議室のドアがノックされて赤い髪の女執事、ソフィが姿を現した。


「お待たせっ。話は聞かせてもらったよ。こんなこともあろうかと、ヨアヒムが以前から開発していた秘密兵器が完成したんだ!」


 ソフィに促され、クロード達が視線を窓の外に向けると、外の広場にはとてつもなく大きい糸巻きのオバケが鎮座していた。


(秘密兵器って、アレ、パンジャンドラムじゃないか!)


 第二次世界大戦中に、某国が開発した有名な失敗兵器である。


「あれを使えば、どんな要塞も塹壕も一飲みだよ」

「おおーっ、何という偉容だ」

「契魔研究所の新兵器、これは期待できますねっ」

 

 クロードは、周囲の歓声とは裏腹に冷や汗をかいていた。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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