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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第五部/第六章 ネオジェネシス戦争
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第348話 崖上の死闘

348


 大同盟の総司令官、姫将軍セイはネオジェネシスの補給キャンプを、天幕から天幕へ無人の野を行くが如く疾走していた。

 朝の日射しを浴びて、彼女の薄墨色をした髪が銀色に輝いた。

 

「一から五班は東の天幕へ、六から一〇班は西の倉庫へ向かえ。あとは、私についてこい。北面に突破口を開く!」


 セイは敵を斬り散らしながら、通信貝に向かって叫ぶ。

 ネオジェネシスの大半は恐慌状態に陥っていたが、抵抗を諦めたわけではなかった。

 一体の白髪白眼の男は食物庫らしい天幕に陣取って、全身を二(メルカ)ほどに膨張ぼうちょうさせ、身の丈ほどもある大鉈を振り回した。


「ぐっ、ぬおおおっ。怖れるなっ、我らの力は人間の数倍ぃいいっ」

「だが、それだけだ」


 セイは大ぶりな一撃を横っ飛びに避け、鉈をかわす。

 大きな刃物は、穀物粉が詰められた袋に当たり、噴き出した中身で部屋が白く煙った。

 視界が閉ざされた一呼吸の時間で、銀髪の少女は月の弧を描くように太刀を振るい、巨漢の首を落としていた。

 遺体が崩れ落ちる。その瞬間、彼女はふと床下から奇妙な音と振動を感じた。


「おかしい。下にいるのか?」


 セイは、かすかな違和感に気づいて太刀で床を貫く。

 肉を貫く、確かな手応えを感じた。

 一体のネオジェネシスが地中を掘り進み、死角からの攻撃を試みようとしたのだ。

 襲撃者は、床を砕きながら飛び上がったものの致命傷を負い、白い体液をまき散らしながら崩れ落ちた。


「……これが姫将軍ひしょうぐんセイか。つ、強すぎる」

「私も、好敵手達には負けていられないからな」


 セイには、乗り越えなければならない壁があった。

 何もかもがおかしい青い髪の侍女とか。

 空恐ろしいほどに武術と魔術に長けた赤い髪の女執事とか。

 千里を駆けて怪力を発揮する大虎娘とか。

 ……下手をすると未知なる強敵がまだまだいるかも知れないのだ。


「だから、おいそれと負けてはやれないのさ」


 セイの覇気に当てられたか、ネオジェネシス兵達は恐怖におののいた。

 

「駄目だっ。一騎討ちでは叶わない。銃を使え」

「これだけの数がいればっ」


 腰こそ引き気味だったが、数十体ものネオエジェネシス兵がマスケット銃の砲口を麗しい指揮官に向ける。


「悪くないが、戦場はここだけではないのだぞ」

「姫将軍、貴方さえ討ち取ればっ。……ぐわあああっ」


 ネオジェネシス兵がトリガーをひく前に、大同盟の兵士達が横合いから撃ち込んだ銃弾の嵐が、彼らの肉体に風穴をあけた。


「そ、そんな側面から奇襲!?」

「西倉庫から援軍を呼べ。も、燃えているぞ?」

「どうなっている? 奴らは戦場全体が見えているとでも言うのか」


 瀕死のネオジェネシスたちの嘆きは、実のところ正鵠せいこくを射ていた。

 

「出納長より、通信します――」


 トウモロコシ色の髪をした青年、アンセル・リードホルムが率いる部隊が。燃えさかる倉庫の前で、通信貝に向かって呼びかけていたからだ。

 アンセルが契約した第六位級契約神器ルーンボウ〝光芒こうぼう〟は、数珠じゅず状の飛行端末を飛ばし、崖上のキャンプ全体を俯瞰ふかんすることができた。

 彼の視覚に随時反映された情報は、部下の通信魔術師達によって奇襲部隊全体に共有される。敵の動きはもはや丸裸も同然だった。

 

「くそっ。あの方が仰っていた通りだ。お前達が〝目〟だな。みんな、やるぞ!」

「銃弾の一発や二発、この身体で受け止めてやる」


 無論、ウジ兵達の中にもからくりに気づく者もいた。

 彼らは隊列を組み、前衛が赤い大きな口を開いて突撃、後衛がマスケット銃を放って襲ってきた。


「……悪いが、こいつは銃じゃない。僕の、大切な相棒だっ」


 第六位級契約神器ルーンボウの真価は、情報収集だけにとどまらず、むしろ火力にこそあった。

 アンセルは弓をめいっぱい引いて、天から降り注ぐ光の矢が、ウジの群れを焼き払う。ネオジェネシス兵の大半は光に飲まれて消失。僅かに残った後衛も、部下達がトドメをさした。


「……ここまでか。聞こえますか? 敵指揮官の一人は出納長を名乗っています。どうか勝利を! がふっ」


 アンセルは最後のネオジェネシス兵が倒れるのを見送ると、緊張の糸が切れたか遠い目でぼやいた。


「そう、僕が出納長だ。なのに、どうして事務方が戦場に出てるんだっ」

「そりゃ、年中人手不足だからっす」


 近くに居たソフトモヒカンの青年ヨアヒムが、もはや様式美と言わんばかりにツッコミを入れる。

 彼は参謀長という職務にも関わらず、意気揚々と特殊輸送車オボログルマに乗り、八角棒めいた魔杖で景気よく火をつけていた。


「そーれ、燃やせ燃やせと。武器でも食糧でも、この際、なんでもいいから焼き払うっす。今は雨季だし、この崖なら山火事の心配もないっすよ」


 燃え盛る火が、制圧が半ば終わったネオジェネシスのキャンプを焼いてゆく。

 今日の奇襲も、無事成功に終わりそうだった。

 異変が起きたのは、その直後だ。


「アンセル!?」

「ヨアヒム、すぐに端末を飛ばす。この音は、馬? いや、まさか!?」


 二人は見た。

 大斧を担ぎ、熊に跨がった牛の如き異相の男を陣頭に、白髪白眼の兵士達がウジに騎乗した騎馬隊もどきが過酷な山道を登ってくる。

 彼らは藪をすりぬけ倒木を乗り越え、岩肌すらも舗装道路のように駆け抜けて、キャンプへと飛び込んで来た。


「戦争かっ! 合戦か! ならば、おいもまぜてくれよっ」


 ネオジェネシスが擁する常勝将軍。〝万人敵ばんにんてき〟ゴルト・トイフェルが増援として現れたのだ。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 好敵手(主に味方) [一言] 以前はネオジェネシスたちは武器も使わず、そこまで栄養補給の必要がないものと思っていましたが、彼らも武装するし、食べないと生きていけないんですね。 彼らのことを…
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