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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第五部/第六章 ネオジェネシス戦争
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第342話 三つの脅威を打ち破れ

342


 復興暦一一一一年/共和国暦一〇〇五年 晩樹の月(一二月)三一日。

 エカルド・ベックによるヴォルノー島奇襲と時を同じくして、ネオジェネシスの大軍が、マラヤ半島の大同盟領へ侵攻を開始した。

 人間の次世代を標榜ひょうぼうする異形の軍勢は、知恵袋であるデルタ率いる北軍と、万人敵ゴルト・トイフェルが指揮する南軍に分かれ、それぞれ二万以上の大軍を擁して雪崩れ込んだのである。

 対する大同盟軍は、一ヶ月前の〝緋色革命軍マラヤ・エカルラート〟との決戦までに膨大な負傷者を出しており、動員可能な兵数は敵軍の半ばにも満たなかった。

 三方から迫る危機に対し、総司令官である姫将軍セイは驚くべき対応を採った。


「……こちらも、軍を三つに分ける。マラヤディヴァ国最北のメーレンブルク領に駐留中のオットー・アルテアン隊長には、アリス殿ら精兵一万を預ける。ロロン提督には旗艦〝龍王丸〟と共に艦隊を率いてヴォルノー島の救援に向かって貰う。最後に、ゴルトの相手は私と五〇〇〇の兵で対処する」

 

 精兵をアルテアン隊に割り振り、海軍艦隊をヴォルノー島に派遣した場合、セイに残されている軍団は、病み上がりの負傷兵や募集に応じた新兵ばかりとなってしまう。

 日に焼けた白髪の老提督は、しばし無言で佇んだものの、薄墨色の髪をした美しい少女に毅然と敬礼をとった。


「総司令官。国主様と辺境伯様を救出したのち、すぐに合流いたします」

「いいや、ロロン提督。ヴォルノー島到着後は、棟梁殿の指示に従って欲しい」


 セイは、自ら死地に向かうにも関わらず、救援は不要と言い切った。

 ロロンには、彼女の命令がまるで遺言のように聞こえた。


「……セイ様。もしや生命を投げうたれるおつもりか?」

「いいや、生きてクロードと添い遂げるために戦うのさ。きっと棟梁殿なら、――私を信じてくれる――」

「総司令官、命令を承りました。生きて、再びお目にかかりましょうぞ」


 ロロンは艦隊を出航させるや、全速力でヴォルノー島へと向かった。

 エカルド・ベックは、第五位級契約神器〝空中要塞ルーンフォートレス〟『桃火とうか砦』を用いて前代未聞の空挺作戦くうていさくせんを実行、終末兵器を用いて侍女レアを含む大勢の兵士達を殺傷した。

 しかし、クロードと彼に助力する仲間達は力を合わせて迎撃し、最後には融合体〝顔無しニーズヘッグ〟に変貌したベックをも打倒する。

 そして、復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 芽吹の月(一月)一日の朝がやってきた。


「たぬう。オットーのおっちゃん、援軍に来たたぬ。いったいどこを守るたぬ?」


 アリス達一万の精兵は、大規模転移魔法陣を使って、無事マラヤディヴァ国最北にあるメーレンブルク領辺境に作られた軍事キャンプに到着する。


「アリスちゃん、いらっしゃい。そうだね、状況は逼迫ひっぱくしている。だから、ぼくは攻めようと思うんだ」

「たぬう。たぬは、そういうの大好きたぬ。おでかけするたぬ。チャーリーちゃんに会えるたぬ?」

 

 オットー・アルテアン隊長は、援軍を迎え入れるや否やキャンプを破却し、飛行自転車と三次元車両オボログルマを用いて不死封じのオブジェクトを輸送、迫るネオジェネシスの占領地へ向かって逆に侵攻を開始した。

 最初の攻略目標は、メーレンブルク領領都メレンだ。


「たぬたぬたぬたぬう!」


 軍勢の先頭に立ったアリスは、しなやかな身体を弾ませるようにして大手門に飛びつき、拳の連打でこじあける。


「え、嘘だろ? 攻城兵器もなしに?」


 ネオジェネシスが緋色革命軍マラヤ・エカルラートを相手に、常識的な戦闘を学んだことが裏目に出たか、分厚い鋼鉄門はみるみるうちに蜂の巣状に削られて、砕け散った。

 あるいはメーレンブルク公爵以来、緋色革命軍、残党勢力、ネオジェネシスと、次々と主人が変わったためにメンテナンスが滞っていたのかも知れない。


「おまけで、たぬうキーック」


 アリスは街の中に入るや、黒い虎に姿を変えて、敵の防衛設備を一蹴りで粉砕した。


「あ、あれは大同盟の守護虎アリス? チャーリー様を呼んでこい。まずは我々で食い止めるぞ」


 ネオジェネシス兵は白いウジに姿を変えて、アリスを膨大な数と質量で押しつぶそうとした。

 彼女一人を相手取るなら、決して間違った選択ではない。

 しかし、この戦場には長年、新官騎士として賊徒や怪物と戦ってきたオットー・アルテアンがいる。

 ネオジェネシスの集団は、飛行自転車隊が空から放った魔術や銃弾によって、次々と撃ち減らされた。


「ああやってまとまってくれれば、誤射の心配もないし、吹き飛ばすのも容易い。天敵のアリスちゃんがいて、不死殺しのオブジェクトがある以上、ネオジェネシスがここで即時復活することもない。領都メレンは、今日中に陥落させる」


 最前線で指揮を執るオットーの脳裏に浮かぶのは、短くも鮮烈な記憶を残した生徒と、長い時間を過ごした友のことだった。


「ブロル・ハリアン。ぼくは、この為に生き恥を晒したんだ。アンドルー・チョーカーの遺志を継ぎ、お前とネオジェネシス(おまえのこどもたち)は、必ず止めてみせる」


 アルテアン隊は、指揮官の宣言どおりに首尾良く領都メレンを奪回。

 勢いをかって、怒濤どとうの如く、南方の山岳地帯へと進軍した。


「敵は、我が軍の数倍であり、個々の能力にも勝るだろう。けれど、狭路ならば数は絞られるし、罠を使えば優位に立つことも可能だ。セイ司令の戦略に従い、このままネオジェネシス北軍を釘付けにする」

「戦略とかわからんたぬ。でも、セイちゃんが言うなら間違いないたぬ!」


 姫将軍セイの決断に基づく大同盟の積極的な攻勢は、ネオジェネシス北軍指揮官デルタをおおいに動揺させた。


「大同盟はいったい何を考えている? エカルド・ベックが領都レーフォンに痛撃を与え、ゴルト・トイフェルが首都クランに迫っているんだぞ。この状況で攻勢を選ぶなんて、人間は仲間を失うのが怖くはないのか!」

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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