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第304話 第六位級契約神器ルーンスプール

304


 クロードが率いる大同盟五〇〇の軍勢は、炭鉱町エグネを取り巻くネオジェネシス五〇〇〇の包囲に耐え、いままさに急所を食い破ろうとしていた。


「敵が崩れたぞ。全隊前進。僕はこのまま指揮官を討つ!」

「第六位級契約神器ルーンスプールよ、力を示せ。術式――〝魔編包まぐるみ〟――起動!」


 白い髪をツインテールに結えた少女。チャーリーと呼ばれる個体は、接近するクロードからレベッカを守るべく、右手に持った糸巻きを宙へとかざした。


「あの白い子が持っているのは、契約神器か!?」


 クロードは、ウジ兵達を斬り散らしながら接近を試みたものの、文字通りの壁となって立ち塞がる数千もの敵軍に阻まれて、術の発動を止めるには至らなかった。


「皆、上から来るぞ。気をつけろ」

「クロードくん、援護するねっ」


 クロードの警告に、ソフィが強化魔術を強め、大同盟の部隊も迎撃態勢を取る。

 チャーリーの契約神器に呼応して、タコとワイバーンを掛け合わせたような、奇怪でどこか愛嬌のある毛糸編みのヌイグルミが、天空から一〇〇個ほど落ちてきた。


「モモモモ」

「なんですの、どんな生き物なのですか、あれは?」

「へ、辺境伯様。セイ司令、膨らんでいます!?」


 ヌイグルミを見て羊人ミーナは首を傾げ、兵士達はどよめいた。風貌は翼の生えたタコといった趣だが、特筆すべきはその大きさだろう。

 空に現れた時は子犬サイズだったヌイグルミだが、奇妙な鳴き声を発するや、瞬く間に全長五mほどの巨体に膨れ上がった。

 クロードは、打刀と脇差の二刀流でウジ兵を相手に乱戦を演じながら、友軍を守るために雷のカーテンと炎の壁を展開した。


「雷切、火車切! セイ、防御を頼む」

「わかっている。魔術班は、棟梁殿の結界を支えて魔術を展開しろ」

「辺境伯様とセイ司令が守ってくださる。こちらの部隊は、攻撃を撃て!」


 クロードが罠を作り、セイが守り、コンラードが迎撃する。咄嗟の脅威にも、大同盟の連携は完璧だった。

 ヌイグルミを雷で縛り、炎で包み、風の盾と土の壁で動きを阻み、嵐のような弾幕を叩きつける。芸術的なまでの連続攻撃がさく裂し、奇怪なタコの一群はあえなく倒れ伏す。


「モモモモ」


 しかし、ヌイグルミ達は再び立ち上がった。


「コンラード隊長。き、効いていません」

「次弾装填。攻撃の手を休めるな」


 恐るべきことに、若干の焦げやほつれこそあったものの、翼の生えたタコたちは、特段ダメージを受けた様子はなかった。


「ネオジェネシス以上だと、なんて耐久力だ。厄介な!」

「モモモモ」


 ヌイグルミ達はネオジェネシスの軍勢を守るように、クロードや大同盟の兵士達に向かって殺到した。


「来るか!」

「モモッ」


 そうして、愛嬌たっぷりにもこもこした身体を擦りつけたのである。


「……はい?」

「――ええ?」

「よく見ると可愛い?」


 ヌイグルミ達は子犬や子猫が戯れつくように足を振り、ゴロゴロ転がったり、お腹をみせたり、喉を鳴らしたりしている。当然のことながら、殺気も闘気もカケラもない。

 困惑していたのは、クロード達ばかりではなかった。ネオジェネシスの兵士達は無言で後退を開始したものの、レベッカは困惑のあまり、手に掴んだ空間転移魔術の巻物を開きもせずに硬直していた。


「チ、チャーリー。あれらは、何をやっているの?」

「ヌイグルミさん達はね、遊んで欲しいんだよ」


  チャーリーの答えが予想外だったのか、レベッカは目筋の通った容貌を崩し、福笑いのような変顔を晒していた。


「ま、待ちなさい、あれらに攻撃能力は!?」

「レベッカ顧問、何を言ってるの? ヌイグルミは武器じゃないよ」


 至言であり、常識でもあった。ただし、ここは戦場だ。


「それじゃ、なんの役にも立たないでしょうが!」

「ちゃんと見てよ。すっごく役立ってる」


 クロードが振り返ると、落下したヌイグルミは両軍の間を阻むように壁をつくって、戦闘を中断させていた。


「たぬう? かわいい? かわいくない? くすぐっちゃダメたぬう」


 おまけに、アリスが無力化されていた。ヌイグルミに抱きつかれて、楽しそうに笑っている。彼女の感覚は鋭敏だ。もしも敵意を感じたならば、迷いなく引き裂いているだろう。

 いずれにせよ、大同盟陸上部隊の動きは完全に止められて、ネオジェネシスのウジ兵達は、ヌイグルミに殿軍しんがりを任せ、地響きをあげながら後退していた。

 空を舞う飛行自転車隊が追撃を試みるものの、ヌイグルミ達が組体操でもするかのように重なって跳ねたり、飛び付いたことで思うように攻撃を続けられないようだ。

 もはや自由に動ける者がいるとすれば、それはたった一人だけだろう。

 クロードはヌイグルミを蹴飛ばし、ウジ兵を踏みつけ、町の屋根を走って、レベッカとチャーリーが跨がる二角獣バイコーンへ向かう。


「辺境伯、これでも食らいなさい。空間の破砕よ!」

「あいつの技なら、見慣れてるんだよ」


 レベッカが炎のように赤い髪を逆立てて魔術文字を綴り、ファヴニル由来の魔術を放つ。

 されどオリジナルを知るクロードから見れば、彼女の模倣はタイミングが丸わかりで、対処は容易かった。

 クロードは打刀である雷切と、脇差しの火車切で魔法の出がかりを破壊し、矢のように真っ直ぐにレベッカへと跳躍した。


「鋳造――八丁念仏団子刺はっちょうねんぶつだんござし。悪いがここで、討たせてもらう!」

「レベッカ顧問、いけない。逃げてえ」


 クロードの創り出した刃が、チャーリーの悲痛な叫びを背に、レベッカの豊満な胸元へと吸い込まれた。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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