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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第四部/第七章 汝らは獣のごとく生くるためつくられたものに非ず
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第286話 現状把握と三つの条件

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 討伐作戦開始前に、具体的な計画を練るにあたって、セイは告げた。


『棟梁殿、聞いて欲しい。邪竜の玩具だったダヴィッドと、緋色革命軍マラヤ・エカルラート艦隊をユングヴィ領沖で討って、我が軍は一見、盤石ばんじゃくに見える。でも、実際は薄氷を踏むような危うい状況なんだ』


 クロードも彼女に同意して頷いた。


『わかってる。僕たちヴォルノー島大同盟には、マラヤ半島じゃ、ユーツ領南西部以外に根拠地がないからな』


 クロードが、亡きアンドルー・チョーカーらと共に奪回した高山都市アクリア。

 かの町を中心とする山岳地方は、守るに易く攻めるに難い天嶮てんけんの地だ。緋色革命軍の勢力圏に穴を空けて、防衛戦を敷く上には、極めて有用な重要拠点だった。

 参謀長ヨアヒムが立案した当初の計画では……。

 大同盟は、東のユーツ領に緋色革命軍を引きつけた上で、艦隊を派遣してユングヴィ領を西側から攻略し、緋色革命軍を南北に分断する予定だった。


『……僕は、焦っていたのか』


 ブロル・ハリアンが第三勢力ネオジェネシスを旗揚げして、大同盟は彼らとユーツ領を分割することになった。

 計算違いではあったものの、ここまでは予定の範囲内だった。

 その後、大同盟はユングヴィ領沖で大勝をおさめるも、緋色革命軍がマラヤ半島で非道の限りを尽くしているのを知り、〝肝心要のユングヴィ領攻略が終わる前に〟同胞救援の為に戦線を拡大した。

 クロードは、救援活動に追われるあまり各隊が分散するのを知りながらも、これを見過ごしていた。


『棟梁殿、別段、誰かのせいというわけではない。ゴルト・トイフェルがやり手だっただけだ。目の前に苦しんでいる仲間がいれば、助けたいと思うのが人情だろう。おそらく、我が軍が国主を救出するところまでゴルトの掌の中だろう。緋色革命軍ダヴィッド派は軟弱にすぎて、士気高揚した我が軍は破竹の快進撃を続け、……奴の罠へと招き寄せられた』


 突出した大同盟の部隊は、ゴルトの神業めいた電撃戦で各個撃破され、レーベンヒェルム領軍を中心とした首都攻略部隊とチョーカーが遺した部隊以外は、作戦行動が不可能になっている。


『ゴルトは鮮やかに勝ちすぎた。ダヴィッドが敷いた恐怖政治で、民衆は怯えきっている。我々という救いの手が見えたかと思いきや、連戦連敗だ。人間が死を恐れるのは当たり前だろう? このままでは、民衆は嘆きながらも緋色革命軍になびくだろう』


 セイという少女は、クロードと出会う以前、戦場における偶像アイドルだった。

 彼女は、民衆が望む姫将軍という役柄を演じ、幾度裏切られてもその理想を体現するという、強迫観念にも似た生き方を貫いていた。

 かつての少女は、それが信念であり、己の強さだと……思い込んでいた。けれど、今の彼女は弱さを受け容れた。誰よりも弱かった思い人(クロード)と共に、茨の道をここまで歩いてきたのだ。

 だからこそ、セイは人間の心が、強くも脆くもあることを知っている。


『ゴルトの目的は、最終的にはネオジェネシスとの合流と見ていいだろう。常勝不敗の伝説を築かれたままブロル・ハリアンの元へ辿り着かれた場合、下手をするとマラヤ半島全体が再び敵の手に落ちる』


 大同盟の戦況は、大局的には、そう悪いものでは無いのだ。

 もはや緋色革命軍に艦隊は無く、兵力も全盛期から見れば微々たるもの。ネオジェネシスと組んだとしても、ヴォルノー島に攻め寄せる力はないだろう。

 ただし、時間制限付きだ。ほんの少し前のように、海を挟んで膠着状態に陥ってしまった場合、クロード達大同盟は完全回復したファヴニルに蹂躙じゅうりんされて終わる。


『ゴルトの行方は、ハサネ刑務所長が公安情報部の全力を尽くして追っている。具体的な勝つための策も、ヨアヒム達参謀部が考えてくれたよ』


 討伐作戦は、極めて危険性の高い博打じみた代物だった。

 そのため大前提として、三つの条件を達成する必要があり、不可能ならば作戦自体を中止するよう但し書きがついていた。


 ひとつは、奇襲を仕掛けること。

 ひとつは、クロードがゴルトをひきつけること。


『最後のひとつは、ソフィ殿とアリス殿が鍵だ』

『わたし?』

『たぬっ!?』


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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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