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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第四部/第七章 汝らは獣のごとく生くるためつくられたものに非ず
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第285話 クロード 対 ゴルト・トイフェル

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 ゴルト・トイフェルは、クロードが自身と同様に額から血を流すのを見て。獰猛どうもうな笑みを浮かべた。


「こいつは驚いた。辺境伯は、物理攻撃を無力化すると聞いていたが、意外にもおいの石頭は効くらしい」

「そうだね。あんたは、頑固過ぎて困ってしまうよ」


 ゴルトが叩きつける大斧と、クロードが逸らそうとする二刀が噛み合って、火花が散った。


「なあ、辺境伯。鎧の手品にもタネがあるのだろう? 銃といい、農園といい、貴様がやってきたことは奇跡でもなんでもない。この世界ではありふれた技術を、ちょっと変わった角度で使っただけだ」

「そうとも、ゴルト・トイフェル。僕はただ仲間に恵まれただけの俗物だ。何処にでもいる悪徳貴族さ」


 クロードは、力任せに押し潰そうとする巨漢の胸板を蹴りつけた。

 足先で魔術文字を刻んで爆発させるが、ゴルトにはまるで効いていないようだ。逆にショルダータックルを浴びせられ、吹き飛ばされる。

 クロードが身につけた八龍ハチリョウの鎧と、鮮血兜鎧ブラッドアーマーを貫いて衝撃が伝わってくるのだから、ゴルトの力は見かけ通りに尋常なものではない。


「ハッ、笑わせるなよ」


 ゴルトは大斧をかかげ、泥地へと跳ね飛ばされたクロードを追撃した。


「もしも奇跡なんぞというものがあるとしたら、それはただひとつ、貴様の意志(・・・・・)だ。ファヴニルに抗うという執念だけで、よくもここまで道を切り開いた。だからよ、辺境伯。こんな極上の獲物を、邪竜なんぞにくれてやるのは勿体ないってものだろう」


 ゴルトの顔は修羅の如き闘争心に満ちている。

 傍目にも軽くない負傷だが、高揚のせいか何の痛痒つうようも感じていないようだ。

 彼は血のたぎりに酔うかのように奥の手を切った。


「術式――〝雷迅らいじん〟――起動!」


 鬼神めいた偉丈夫の全身を、紫色に染まった雷が覆う。

 紫電は盟約者の傷を焼きながら治癒ちゆし、更なる剛力を与えた。


「こうやって戦える日を、一日千秋の思いで待っていたっ」


 ゴルトが渾身の力で振り下ろした得物は、衝撃のあまり湿地にクレーター状の穴を創り出し、巻き上げた泥すらも一瞬で焼き尽くした。

 しかし、クロードもまた寸前に地を蹴って、空を駆けるようにして回避して見せた。


「力を得たはいいが、大振りになっているぞ」

「ハッ! 全力で殴り合い、斬り合うのが男の浪漫ロマンってヤツだろうよ」

「……っ。そういうノリは、苦手なんだよっ」


 クロードが空中から切り下ろす二刀と、ゴルトが斬りあげた大斧が再び交差する。

 痩せぎすの青年は独楽のように回って首を狙い、牛の如き巨漢は斧を竜巻の如き勢いで振り回す。

 もはや他の者が割りいる余地はなかった。数千もの兵士が殺し合う戦場で、二人は協奏に浸るかのように剣戟を重ねた。血が巡り、息を吐き、汗が滴る。


(強い。オズバルトさんほど怖いわけじゃない。でも、パワーとスタミナが段違いだ。大斧をハリセンみたいに振り回して息も切れないって、いったいどんな馬鹿力だよ!)


 ゴルト・トイフェルは、魔術塔で戦った剣客、オズバルト・ダールマンのように極まった達人ではない。

 けれど、間違いなく、英雄や豪傑と呼ばれるに足る強さと、生命の輝きがあった。

 加えて契約神器との相性も良好のようだ。反射や無力化といった小細工を挟む隙なんて全くない。


(でも、これでいい)


 クロードには重大な役目があった。

 それは、敵総大将であるゴルトをひきつけることだ。


(戦場を見渡して、緋色革命軍の総指揮を取れる統率者がいなくなれば……)


 愛すべき姫将軍セイが、必ずや勝利をもぎとってくれることだろう。そして――。


「僕も男だ。勝ちたいんだよっ!」

「よくぞ言った。共に楽しもうぜ辺境伯。戦ってやつをなっ」


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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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