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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第四部/第七章 汝らは獣のごとく生くるためつくられたものに非ず
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第282話 罠と罠

282


 復興暦一一一一年/共和国暦一〇〇五年 木枯の月(一一月)九日午後。

 緋色革命軍マラヤ・エカルラート総司令官ゴルト・トイフェルと、代表を継いだレベッカ・エングホルムは二〇〇〇の兵と共にユングヴィ領を南下していた。


「あと少しで領境じゃ。この先にはネオジェネシスが支配する炭鉱町エグネがある。そこまで辿り着けば、おいどもの仕事も完了じゃ」

「一時は一〇万を越えた兵も、今ではここの兵を加えても二万程度か。寂しくなったわね」


 兵員不足に悩むのは、クロード達大同盟ばかりでなく緋色革命軍も同様だった。

 だからこそゴルトはメーレンブルク領に残っていた兵士達を、本拠地地であるエングホルム領か、密約のあるネオジェネシスが支配するユーツ領まで退避させなければならなかった。


「ゴルト。貴方の立てた作戦は上手く行ったわ。国主を奪回した大同盟は戦果に浮かれて、無用に戦線を拡大した」


 燃える炎に似た髪色の少女は、牛のように雄大な偉丈夫と共に熊の背に腰掛けて、目指す山の稜線を見上げて呟いた。

 大同盟が戦線を押し上げたのは、あくまでも悲惨な境遇にあった民衆を救出するためだ。しかし、緋色革命軍からはそのように見えていた。


「ワタシが転移魔法を使って貴方を送り届け、各地に仕込んだ伏兵で突出した前線部隊を各個撃破する。大同盟が対応に追われている間に、作戦の終わった部隊を目的地まで退避させる。すべてが貴方の目論見通りに進んだ」


 ゴルトが短期間の内に、幾度も違う戦場に現れた手品のタネがコレだった。

 大同盟から見ればまさに神出鬼没、理解不能な進軍と見えただろうが、実情を明かせば、何のことはない。移動していたのは、ゴルトとレベッカだけだ。

 クロード達は、ゴルトが南進していることには気づくことが出来ても、彼のいる本隊を把握することが出来ず対処に窮した。

 当たり前だ。……ゴルトが率いた本隊なんて、〝どこにもなかった〟のだから。

 

「ひとつだけ聞いていいかしら。なぜ最初にチョーカーを狙ったの? 姫将軍セイでもあるまいし、貴方ほどの人物がこだわる必要なんて無かったと思うのだけれど?」


 レベッカの問いかけに、ゴルトは辛子色の髪を揺らして断言した。


「大同盟の中で、チョーカーの奴だけはおいの作戦を見抜く恐れがあったからだ。あいつは戦略的な思考をしないだけだ。『高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に』だったか。あんな絵空事を実現してしまう判断力は、実に面白い」

「あ、そう。でも、ワタシはああいうのは肌に合わないの。新しいペットを飼うのは勝手だけれど、世話を焼くならそっちの責任でやってね」


 レベッカの冷徹な言葉に、ゴルトは苦笑する。


「勘違いされては困るが、おいにはお前のような趣味はない――と。む!?」

「あれは――っ。アハっ。あははははっ」


 ゴルトが、レベッカが、緋色革命軍の歩兵達が一斉に目をむいた。

 炭鉱町エグネへと続く街道。ユングヴィ領都とユーツ領を結ぶ領境に立っていたのは、全長五(メルカ)はある精悍な黒い虎と、改造した執事服を着て杖を手にした赤髪の少女。

 そして、いまやこのマラヤディヴァ国で最も有名になった青年だった。


「ねえゴルト、ワタシの策も成ったわ。愚かな男、お人好しの悪徳貴族。たった三人でやってきた。これで、この戦も終わりよ!」


 引きつったような笑みを浮かべ哄笑するレベッカを背に、ゴルトもまた剣呑けんのんな笑みを浮かべた。


「罠じゃな。面白い。それでこそ食い破る価値がある!」

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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[気になる点] ほう、その流れで「新しいペット」とな…?
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