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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第四部/第五章 ユングヴィ領沖会戦
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第259話 ユングヴィ大公領奪回作戦開始

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 クロードはネオジェネシスの創造者ブロル・ハリアンとの会談を終えた後、海の輸送船と陸の飛行自転車隊を使って、ユーツ領領都ユテスと近隣都市から集まった避難民五万人を脱出させた。

 ブロルはヴォルノー島大同盟の救出活動を妨害すること無く監視するに留めた一方、ユーツ領内に残った緋色革命軍マラヤ・エカルラート兵士を殲滅、隣接するグェンロック方伯領とユングヴィ領を切り取りにかかった。

 クロードはブロルとの約束通りに、ヴォルノー島大同盟に参加する各領主の意見を集約すると共に、交渉官であるブリギッタ・カーンを派遣。ネオジェネシスとの停戦を急いだ。


「いまさらなぜ停戦など? ユーツ領の解放は順調だったはずだ。このまま領都ユテスを陥落させればいい」


 同盟領の中には、そんな風に強硬論をうそぶく軍人や商人もいた。

 しかし、そういった楽観論者は、偵察中の飛行自転車隊が撮影した戦場動画を見ると皆一様に押し黙った。なにせ、致命傷でも死なずに再生を繰り返す人喰い兵士の群れである。インパクトが絶大すぎた。

 むしろ薬が効き過ぎた反動か「停戦ではなく同盟すべき」と、ネオジェネシスとの共存を訴える者まで出てくる始末だった。

 ブリギッタは手のひらを幾度も返す外野の物言いに閉口しつつも、クロードに念押しした。


「辺境伯様、本当に一ヶ月の停戦でいいのね? 交渉次第じゃ伸ばすことも出来るかもしれないし、緋色革命軍を打ち破るまでの期限同盟って形でも、あたしはなんとか成立させてみせるわよ」

「ブリギッタ。証拠が無いから同盟領の領主にだけ伝えたことだけど、ネオジェネシスの後ろにいるのはファヴニルだ」


 それだけで、勘のいい交渉官は状況を察したらしい。 


「そう。だったら共存は不可能ね。こっちがネオジェネシスに交渉を模索するところまで、ファヴニルの意図通りってわけ?」

「きっとね。ブロルさんが仇を討った暁には、ネオジェネシスは再び緋色革命軍マラヤ・エカルラートと和議を結ぶよ。ファヴニルとしちゃあ、自分が復調するまで戦乱を長引かせたいんだ。脚立と同じだよ。二本足より、三本足の方が安定するだろう?」


 ヴォルノー島大同盟と緋色革命軍の場合、両者の間に和平が成立することはあり得ない。

 クロードたちが平穏なマラヤディヴァ国を取り戻すことが目的なのに対し、ダヴィッドは現在のマラヤディヴァ国を破壊して、彼の頭の中だけにある桃源郷を作るのが目的だからだ。

 しかし、ネオジェネシスだけは立ち位置が異なる。ブロル・ハリアンはニドリク・バルムスの殺害さえ成し遂げれば、以後はどちらの陣営についても構わないからだ。


「普通に考えるなら、緋色革命軍が一度反旗を翻したネオジェネシスを簡単に受け入れるはずは無い。でも、両勢力の背後にいるの黒幕が同じファヴニルなら、そんな無茶も通るってわけ。よくカラクリに気付いたわね?」

「ブロルさんが、ヒントをくれたからね」


 クロードは思う。ブロル・ハリアンは人間に絶望し、ニドリク・バルムス一党ら仇を呪い、ネオジェネシスという新しい生命を作ろうと試みながら、彼自身は最後まで人間をやめられなかったのではないか。


(だから、私は人間でないものになりたい、か)


 ネオジェネシスが人喰いという禁忌を犯す生命になってしまったのは、ひょっとしたらブロルなりの退路を断つという覚悟の表れなのかもしれない。


(ファヴニル……!)


 復興暦一一一一年/共和国暦一〇〇五年 紅森の月(一〇月)一〇日。

 この日、ヴォルノー島大同盟とネオジェネシスの間に、非公式の停戦が成立。条件として、ユーツ領解放軍は、民間人を脱出させた上での港町ツェアと炭鉱町エグネの放棄と撤退を受け入れた。

 とはいえ、そもそも電撃戦による一気解放が前提の作戦である。ネオジェネシスの登場で状況が変化した以上、少数精鋭のユーツ領解放軍が防衛のために戦線を縮小するのはやむを得ないことであった。

 そして、停戦の成立によってついに条件が満たされた。


「これよりユングヴィ大公領奪回作戦を開始する。マラヤ半島に跋扈する緋色革命軍から国都クランを取り戻し、再び平和を取り戻すのだ。同盟艦隊、出撃せよ!」


 クロードが宣言する。今、マラヤディヴァ内戦の行く末を決める、一大会戦が始まろうとしていた。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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