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第254話 ネオジェネシスの参謀

254


 デルタらネオジェネシスとの邂逅は、彼らが人間を食料としてしか見ていないという溝の深さを思い知らされただけだった。


「……皆、こらえてくれ。民間人の救出が最優先だ。セイ、頼めるか」

「わかった。棟梁殿、皆、聞こえたか。民間人を船まで案内するぞ。己が職務を忘れるな」


 クロードは、デルタの一言で戦闘に意識を切り替えた兵士たちを、セイと協力して押しとどめた。

 理由はどうあれ、攻撃を控えてくれるというのだ。乗らない理由はない。事前の仕込みだけでは、たとえ勝利しても避難民に犠牲が出る可能性があった。


「クロードくん」

「大丈夫」


 クロードたちが逆転するための切り札はソフィだ。

 女執事にして巫女は心配そうに傍らに寄り添って、主人たる青年は彼女の手を握りしめた。


「ああ。ああ、そうでしたか。失礼しました。クローディアス・レーベンヒェルム辺境伯様。貴方にお目にかかれて恐縮です」


 デルタはクロードを見て敵の首領と察したか、急に改まったかのように軍服のネクタイを整え、ハーフリムの眼鏡をかけた。


「完全なる生命とやらも眼鏡をかけるんだな?」

「ええ、おしゃれじゃないですか。度は入っていないんですが、気分が引き締まるし、高揚もするんです」


 どうやら伊達眼鏡のようだった。


「さっきの台詞は、アルファ姉さんですね。申し訳ない。一番先に意識が強くなったせいか、同胞に抱く愛情と誇りが強いんです。それにしても気づけて良かったあ。こんなところで負けて全滅したら、創造者様に顔向けできないところだった」


 デルタはそう言って白い歯を光らせて、爽やかに笑った。


「はは、買いかぶりすぎだろう」

「まさかまさか。貴方に同胞が倒されたのは、共通記憶で知っています。だいたい、こんなわずかな時間で救援部隊を派遣できるなんて思わなかった」


 いざ軍を動かすとなれば、それだけの準備が必要になる。五〇〇の救援部隊をすぐさま出立させられたのは、今の大同盟とレーベンヒェルム領の力を示している。


「僕が動かせたのはこの少数だ。まともに当たれば、全滅するのはこっちだろう。デルタくん、このまま見逃してくれると有り難いんだけどね」


 クロードの言葉は本心だ。今はまだ戦いたくない。戦うための手段は、きっとショーコが見つけてくれる。それまでは、たとえ侮られたとしても時間を稼ぐことに意味があった。


「またまた、船の中に兵隊を隠している癖に。それに、あそこで避難民を誘導している兵士さん、盟約者――契約神器の使い手がいますよね」


 クロードが、デルタを難敵だと確信したのは、この一言があったからだろう。――逆転の策を読まれていた。


「"新生命ネオジェネシス"は人間よりも目が利きます。先ほど堤防で作業しているのを確認しましたが、オトライド川の堰を切って我々を押し流すつもりでしょう?」

「おいおい、僕たちはユテスの民を助けに来たんだ。それじゃ意味がないだろう。だいたいそんな真似をしたら、僕たちまで一緒に流される」

「でも、水を操る神器や魔術道具があれば、話は変わりますよね。戦上手のセイ司令官を引っ張りだして、何の作戦もないというのは不自然かなあって」


 厄介なことに、デルタの見立ては正しかった。

 港町ツェアの惨状を見たクロードたちは、最悪町を水浸しにしても避難民脱出の時間を稼ごうと考えたのだ。

 同行した五〇〇の兵には工事に応用できる神器の盟約者もいたし、何よりも水を操るソフィの魔杖みずちなら、ネオジェネシスだけを狙い撃つことも可能だったからである。


「デルタくんは凄い作戦を考えるんだなあ。今度、機会があれば是非使わせて貰うよ」

「やっぱり、やっちゃうんですね。怖いなあ、戦いたくないなあ」


 クロードはデルタと共に笑いながら、セイに目配せを送った。

 彼女もまた的確な指示を出しつつ聞き耳を立てていたらしい。隊長級の幹部に指揮を委譲して、傍までやってきた。

 オットー・アルテアンから届いた事前連絡や、ヴィルマル・ユーホルト伯爵から聞き出した事情によれば、ブロル・ハリアンは優秀な研究者であっても軍人ではなかったという。

 ならば、もはや疑うまでもないだろう。ネオジェネシスの参謀を務めているのは、このデルタという個体だ。作戦の六割は読まれた。あとの手札で、この窮地を越えられるや否や……。


「というわけで。クローディアス様、一度創造者様にお会いしませんか? そうすれば戦わずに済むと思うんです」

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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