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第230話 悪徳貴族と侍女の再会

230


 クロードは、夜明け前に起きたアリスとガルムに見張りを交代した。

 寝具はなかったものの、洞窟の入り口で焚いた火は暖かく、疲れからか深い眠りに落ちた。

 やがて太陽が昇り、山間にあるユーツ領を穏やかな陽光が照らし出す。

 微睡みのなかにいたクロードは、トントンという聞き慣れた包丁がまな板を叩く音で目を開いた。


「おはよう、レア。ごめん、寝坊しちゃったかな?」


 まるでそうするのが当たり前のように、慣れ親しんだ家に帰ったかのような気分で、洞窟の入口で山菜を刻んでいた青髪の侍女にそう告げる。


「おはようございます、領主さま。いいえ、いいえ。よくぞご無事で」


 ほんの半月ばかり離れただけだというのに、かけがえのない日常がそこにあって、クロードは思わず彼女を抱きしめた。

 かすかに甘い香水の匂いと、メイド服越しに伝わってくる柔らかな感触、人肌の温もりが寝ぼけていた頭を覚醒させる。――半ば夢心地だったせいか、凄いことをしていた。


「れ、レア。どうして、どうやってここに来たの?」

「私は、メイドですから。ここまで来るのには、領主さまの飛行自転車を使いました。勝手に持ち出してしまって申し訳ありません」

「ううん、いいよ。助かった!」


 クロードは久々の再会で高揚していたのか、レアと離れるのが惜しくて抱擁を続けていた。

 彼女の吐息に触れる。彼女の熱を間近で感じる。手の触れる場所に日常がある。それはとても幸せなことだったからだ。


「騙されるナ、クロオド。そういうのハ、メイドではなくストーカーというのだっぎゃああアッ」


 カワウソが空飛ぶはたきに追いかけられて悲鳴をあげていたが、クロードは即座に視界から外した。


「領主さま、知り合いですか?」

「ううん、知らない。そこら辺に住んでるカワウソじゃない?」


 あんな小動物、昨日はいただろうか? 手紙を託した野犬と一緒にやってきたのかもしれない。


「おい、クロオド。なに馬鹿なコト言っテやがる。早く助けロォ」

「バウバウッ!」

「たぬう、たぬう」


 クロードは、テルの末路はどうでも良かったが、ガルムがはたきに飛びかかるのを見て諦めた。

 アリスもすねているのか、彼の脛を肉球でぺしぺしと叩いて抗議している。


「しょうがないなあ。レア、止めてあげて」

「残念です」

「なんトいう悪徳貴族と腹黒侍女。いたいけな友達の命をなんだト思ってやがル」


 クロードはレアを抱擁したまま、アリスとガルムを抱き上げた。


「いたいけな友達なら、ほら、ちゃんとここにいる」

「領主さま」

「たぬう、こ、恋人たぬ」


 クロードは一生涯でそうそうない満足そうな顔で微笑んだが、直後にガルムに蹴られた。

 テルもファイティングポーズを決めて突撃してきたものの、レアに難なく撃退された。


「バウッ」

「おのーれー、この怨み忘れんゾォオオッ」


 このようにドタバタしたものの、クロードはレアと再会し、失った通信用水晶と地図を得ることが出来た。

 セイとヨアヒム、ローズマリー達にこっぴどく叱られたものの、彼らはそのまま別働隊として北上し、ユーツ領中部から北部にかけての攻略に努めた。

 村という村、町という町が緋色革命軍マラヤ・エカルラートの暴威に、燃えさかるマグマのような怒りと悲しみを溜めており、ローズマリーの名前を出すとすぐさま協力してくれた。

 あたかも遊戯のオセロかリバーシのように、緋色革命軍の勢力圏は解放軍の協力圏へと裏返り、残る北方の重要拠点が炭鉱町エグネだけになった時、本隊のヨアヒムから緊急連絡が入った。


「リーダー。ローズマリー様がオットー・アルテアン地区委員長と話をつけました。マルグリットさんを逃すとのことです。すぐに迎えに行ってください」

「わかった。任せてくれ」

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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