第222話 見出した攻略法
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クロードの降伏勧告に、ベックは口角をつりあげた。
「罪だって、あり得ない。革命は法に優先される!」
「その妄執の犠牲となった人々に贖え。ラーシュくん、力を貸してくれ」
「はい。辺境伯様っ」
ラーシュの儀礼剣が輝き、クロードの所作が軽くなる。
「馬鹿なことを。重さのない攻撃なんてハンデを負ったも同然だ。そして、お優しい辺境伯は、果たして無抵抗の人間を傷つけられるかね?」
ベックの花に覆われた強化服から花粉が噴き出し、気絶した親衛隊兵士たちを覆った。
彼らは、まるでホラー映画のゾンビのように緩慢な動きであったものの、クロードとラーシュに襲いかかった。
「ドクター・ビーストの菌兵士を再現したつもりだろうが」
クロードはかつてベナクレー丘で大敗し、亡くなった博士の恐ろしさを身にしみて知っていた。
「素っ裸の男を盾にするんじゃあない!」
ゆえに、全裸の一団を容赦なく殴りとばした。ベックが指摘したとおり、物理的な重さは軽くなっているから死にはしないだろう。
「もっともだ。では、切り札を開帳しよう」
ベックが、自らの契約神器であるルーンオーブに口づける。
「術式――”恐怖劇”――起動!」
そして、異形の花々による蹂躙が始まった。
ベックの強化服の肩部から大輪の花が咲き、まるで豪雨のように鋭い種と毒花粉を吹き付ける。
埋もれた種からは、無数の針めいた枝もつ花木が地面を突き破るように生えて、倒れた親衛隊員もろともクロードを串刺しにしようとした。
退避すべきだった。だが、クロードは身動きできない全裸男達を助けようとして、木から舞い落ちる葉に肉を裂かれ、花から零れる毒蜜に骨を焦がされ、庭の中へと飲み込まれた。
それは、まさしく異形の花庭による恐怖劇。巻き込まれた者は、ただ色とりどりの花によって貪り喰われるのみ。
「へ、辺境伯様。嘘だ。こんなことって」
ラーシュはがっくりと項垂れた。自分が彼を巻き込んだ。
恋人の兄バーツの仇を討とうとして、再び頼れる兄のような存在を失った。
「辺境伯。君は私を詐欺師と呼んだが、嘘つきは君だろう。悪徳貴族を名乗るなら、冷徹に悪を貫くべきだった。無能な役立たずを庇い、敵である私の部下の命を守ろうとして果てるとは。残念だよ、君もまた革命者ではなかった」
「……当然だ。エカルド・ベック。仲間の命すら無惨に踏み潰すクソヤロウが。お前に、革命者などと呼ばれる筋合いはない」
「辺境伯様っ」
ラーシュの叫びに応えるように、異形の花庭が裂ける。
花木は雷に断たれ、炎に焼かれ、灰となって消えてゆく。
「勘違いするなよ。こいつらは法によって裁かれる。罪を償うために、こんなところで死なれちゃ困るだけだ」
「ハハっ。法、ね。ここは戦場で革命の場だ。そんなくだらないものを持ち込むな」
ベックのルーンオーブから無数の光線が迸り、丸太よりも太い蔦や、ドリルめいた根が踊るように生まれた。しかし、そのすべては、クロードが振るう二刀によって瞬く間に灰に変わる。
「グランギニョルの語源は、荒唐無稽、そして、虚仮威しだ。お前のことだよ、エカルド・ベック!」
クロードの雷と炎をまとった斬撃は更に速度を増し、ベックの庭を焼き尽くした。
「虚仮威しは君だろう、辺境伯。この強化服の守りを打ち砕くことは誰にも出来ない」
そう吠えるベックにクロードは密着し、刃を重ねた。一回、二回、いったい幾度、雷と炎を叩きつけただろう。強化服はついに耐えきれず燃えあがり、花は枯れ落ちた。
「馬鹿なっ」
「一回で砕けない鎧なら一〇〇〇回斬ればいい。お前は、僕とラーシュ・ルンドクヴィストを甘く見た!」
クロードの拳が、ベックの顔面に突き刺さった。





