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冬日

作者: 十月十日

 息を切らして音高くドアを開けると、教室にいた全員がこちらを向いた。その数が妙に少ない。

「はよー」

「もう予鈴鳴るよ」

「わかってるって」

 浴びせられる言葉を軽くいなして席に着き、前に座る級友の背中に話しかける。

「なあ、なんで今日こんなに人いないわけ」

「さあなあ」

 釈然としないまま予鈴が鳴り、担任が教壇に立った。すかさず声が飛ぶ。

「センセ、なんでこんなに人がいないんすか」

 ちらりとそちらを一瞥し、いつも眠たげな表情の教師は無造作に片手を閃かせた。大量の紙を扇のように広げてみせる。

「これ。公欠」

「今日大会か何かあるんですか」

「いや、それにしてもおかしいでしょ。普通こんなに休む?」

 騒がしくなる教室を一睨みで黙らせ、教師は気怠げにパイプ椅子に腰掛けた。

「わからないか。冬眠だよ」

 その言葉で、すとんと腑に落ちた。

「あー……なるほど」

 耳ざとく聞き付けた教師が、満足げに目を細める。縦長の瞳孔がほんの少し広がった。

「あれ、お前も《蛇》じゃなかったっけ」

 後ろを振り向いた級友は、興味深げに身を寄せてくる。

「あぁいや、俺クォーターだから。まあ最近眠いし寒いのはそうなんだけど……耐えられないわけじゃないし」

 そう言いながらも、ネックウォーマーに腹巻き、レッグウォーマーと防寒は欠かさない。もちろん服も入念に着込んでいる。暖房の効いた室内にも関わらず、それでも手足はすっかり冷たくなっていた。眠気もある。

 もこもこと着膨れた彼を呆れたように眺めて、このクラスの半数ほどを占める《人間》である級友は、小さくそんなものかと呟いた。

 その反応にやや気落ちするが、しかしこれは仕方ない。彼にだって教師のような《猫》のことはわからないし、定時制で通っている《梟》の親友とて互いをよく解り合えているわけではないのだ。

 そう自分に言い聞かせて、窓の外を見やる。黒板に汚い字で「自習」と書き殴った教師が、パイプ椅子に腰を下ろしてうとうとと居眠りを始めた。

 どんよりと重く垂れ込めた濃灰の雲は今にも雪を降らせそうで、その上消える気配がまるでない。

 いつになったらこの重装備を止められるのかと考えて、気分が沈んだ。


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