雨の日の午後
「さて、ここで一つ、君に問題を出そうか」
大学の玄関で、Jは友人のKに言った。
「まず最初に質問をしよう。君は、神と言う存在を信じるか?」
「随分と突飛な質問だな。しかしまあ、この世のどこかにはいるんじゃないかな?」
Kは答えた。
「成程。僕はそうは思わない」
「じゃあなんで訊いたんだい?」
「僕は、神とは、この世のどこかにいるものではないと思うんだな」
Jはしかし、Kの問いには答えず話を進めた。
「どう言う事だ?」
「つまり、この世界自体が神だという事さ」
逆に意味が分からない。Kがそう言うと、Jは少し思案してから言った。
「例えばだよ? この大地は、神の心なんだ。宇宙こそが神。まあ僕たちは、土足で神の心を踏み荒らしてる事になるけど、今回はそれはいいとする」
ふむ、とKは頷いた。
「そして、この世界は全て『神の何か』でできている。それは今も言ったように、大地は心、とか言う具合にね。ほら、よく言うだろ? 雨が降ると空が泣いているとか、雷が落ちると雷神様のお怒りだとか……。要するに、それの神様バージョンさ」
Kは空を見上げた。今日も雨が降っており、おかげで彼らは玄関から出ないで話をしている。
「しかしだ。僕はそこで考える。人体から排出される液体はそれだけか? とね」
「違うな。鼻水だってそうだ」
「そう。つまり、この空から降り注ぐ雨が、いつも涙とは限らない訳だ。そりゃあ、涙の時もあるだろうけどね、いつもそんなに清いものとは限らない」
確かに、人体から排出される液体は大抵、不要になった物質やウィルスだ。
「さて、ここからが本題。今まで述べてきたように、雨は神の、涙以外の何かだとする。そう考えた時、君は、この雨の中を濡れて帰れるかな?」
Kは少し考えるそぶりを見せた。Jはにやにやと笑っている。
「……つまりJ、君の言いたい事は、こう言う事か」
Kは言った。
「雨に濡れるのはいやだから、傘を貸せと」