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ぼんやりと薄っすら目を開けた先に見えるのは、白い天井。
少女は背中にあたる柔らかな感触に体を預けた。
先ほどより疲労感は軽減しており、体も自由に動くようになっていた。
腕に力をいれ、ゆっくりと体を起こす。
そして部屋を見渡し、小首をかしげた。
窓から吹く風になびく白いカーテン。小さめのサイドテーブル。服が何着も入るであろう大きなクローゼット。
見たこともないものばかり。
少女はふと視線を落とし、自分の着ている見慣れない服にゆっくりと手を伸ばた。
肌触りのいい布地。
少女が着ているのはゆったりとした、柔らかな生地で作られた服。
あまり装飾はなく、シンプルといえるものだった。
けれどこれも、やはり知らないもの。
目に映るすべてのものが、少女の記憶には無い。
「ここは――」
「お目覚めですか?」
ちいさくつぶやいた彼女の声に、優しげな声が重なる。
音をたてずにドアを開けて入ってくるのは、まだ幼さの残る少年だった。
「よかった。起きても平気そうですね」
ベットの横にちょこんと置かれるサイドテーブルにタオルを置き、少年は続ける。
「カイ様が見つけて……あぁ、カイ様にご報告をしておかなければ」
軽く手を打ち、少女へと向き直った。
優しげな瞳を向けられ、少女はたじろいだ。
「三日間も寝ていらしたんですよ? それに、あんなところに倒れていらして……」
そうだ。
自分は倒れていたんだと、少女は思い出す。
けれどどこでかはわからない。酷く疲れ、動けないほど疲労していた自分。
それを、ここまで運んできてくれた人がいるということなのだろうか。
そうなれば見知らぬベッドで寝ていたということも、説明がつく。
「どうなされました?」
俯き、己の手を凝視していた少女を覗き込む。
思考の波に飲まれていた少女は我に返り、小さく首を振った。
「あの……」
「はい」
「ありがとうございます」
突然礼の言葉を言い出した少女に少年は目を瞬かせる。
「ここまで、運んできてくださって」
見も知らぬ相手を、ここまで運んできてくれたのだ。
もしかすれば、誘拐ということもあるかも知れない。けれど目の前の少年からは優しさしか感じられない。
それは酷く慕っていた相手に向けるほどの。
丁寧に会釈する少女に、少年が困惑の瞳を浮かべた。
おかしい。
少女から感じる小さな違和感に少年は戸惑った。
「フィリア様……?」
少年の口から紡ぎだされる名。
それはこの国にいる、〝神様〟と呼ばれる少女の名――。