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楽園の果て  作者: みづき
序章
2/28

<2>

 ぼんやりと薄っすら目を開けた先に見えるのは、白い天井。

 少女は背中にあたる柔らかな感触に体を預けた。

 先ほどより疲労感は軽減しており、体も自由に動くようになっていた。

 腕に力をいれ、ゆっくりと体を起こす。

 そして部屋を見渡し、小首をかしげた。

 窓から吹く風になびく白いカーテン。小さめのサイドテーブル。服が何着も入るであろう大きなクローゼット。

 見たこともないものばかり。

 少女はふと視線を落とし、自分の着ている見慣れない服にゆっくりと手を伸ばた。

 肌触りのいい布地。

 少女が着ているのはゆったりとした、柔らかな生地で作られた服。

 あまり装飾はなく、シンプルといえるものだった。

 けれどこれも、やはり知らないもの。

 目に映るすべてのものが、少女の記憶には無い。

「ここは――」

「お目覚めですか?」

 ちいさくつぶやいた彼女の声に、優しげな声が重なる。

 音をたてずにドアを開けて入ってくるのは、まだ幼さの残る少年だった。

「よかった。起きても平気そうですね」

 ベットの横にちょこんと置かれるサイドテーブルにタオルを置き、少年は続ける。

「カイ様が見つけて……あぁ、カイ様にご報告をしておかなければ」

 軽く手を打ち、少女へと向き直った。

 優しげな瞳を向けられ、少女はたじろいだ。

「三日間も寝ていらしたんですよ? それに、あんなところに倒れていらして……」

 そうだ。

 自分は倒れていたんだと、少女は思い出す。

 けれどどこでかはわからない。酷く疲れ、動けないほど疲労していた自分。

 それを、ここまで運んできてくれた人がいるということなのだろうか。

 そうなれば見知らぬベッドで寝ていたということも、説明がつく。

「どうなされました?」

 俯き、己の手を凝視していた少女を覗き込む。

 思考の波に飲まれていた少女は我に返り、小さく首を振った。

「あの……」

「はい」

「ありがとうございます」

 突然礼の言葉を言い出した少女に少年は目を瞬かせる。

「ここまで、運んできてくださって」

 見も知らぬ相手を、ここまで運んできてくれたのだ。

 もしかすれば、誘拐ということもあるかも知れない。けれど目の前の少年からは優しさしか感じられない。

 それは酷く慕っていた相手に向けるほどの。

 丁寧に会釈する少女に、少年が困惑の瞳を浮かべた。

 おかしい。

 少女から感じる小さな違和感に少年は戸惑った。

「フィリア様……?」

 少年の口から紡ぎだされる名。

 それはこの国にいる、〝神様〟と呼ばれる少女の名――。

 

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