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廻り廻るわたしと―――きみと  作者: 行見 八雲
第一章 約束。
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4.彼の喧嘩。



 それから、私は何かにつけてリュカと行動するようになった。


 何かもー、何かにつけてこの子可愛いのよね。照れ隠しにぶっきらぼうになるところとか、嬉しそうにそっと笑うところとか!


 しかも、結構抜けてるところもあって、私の母性本能を擽る擽る。


 朝会って、声をかけた時に安心したような笑顔を向けられたときなんか、場所を構わずに抱きしめて撫で繰り回したくなったもの!


 周りの皆も、どうしてこの可愛さに気付かないかなー!




 そんなある日、私は中庭に向かって廊下を走っていた。


 一応淑女だし、普段はそんなことしないんだけど、今日は仕方がないのよね。


 何故なら―――



「止めなさい!」


 中庭に着いた途端、その場を取り囲んでいる野次馬達の間を何とかすり抜けて、一定の距離を置いて向かい合って立っていた男子生徒達の片方―――リュカに駆け寄った。


 私の登場にリュカは驚いた顔をする。周囲にも、ざわざわと戸惑いの波が広がった。



 このことは、同じクラスの女の子が教えてくれたのだ。


 リュカと、同じクラスの男の子達が、中庭で喧嘩をしていると。


 

 ただの喧嘩なら、私もわざわざ止めになんて来なかったわ。


 でも、リュカはまだ感情的になると魔力が暴走するから、相手に怪我を負わせたら大変だもの。


 リュカだって、また後で落ち込むに決まってるわ。


 だから、止めなきゃ!



 私が割り込んだとき、まだ実力行使は始まってなかったようで、リュカと相手―――3人の男子生徒達―――は向かい合って何か話していたみたい。


 私はリュカを背にして、相手の男の子達の方を向いた。


 その相手は、確か子爵家の男の子とそれに類する家の男子生徒で、私を見てしばらく驚いていたようだったけど、はっとしたように私とリュカを見て、私の背後にいるリュカを睨みつけた。


「アリアージュさん!どうしてそんな奴と一緒にいるんですか!」


 3人の男子生徒のおそらくリーダー的存在、子爵家の男の子がそう叫んだ。


 ………え?どういうこと??………私?


「そいつは孤児だし、魔力は強いかもしれないけど、その魔力も制御できない出来損ないだ!」


 そうだ!そうだ!と、他の2人の生徒達も声を上げる。


 背後で、リュカの体がぴくりと震えたのが分かった。


「そんな奴と一緒に居たって、アリアージュさんには何の利益にもならないでしょう!アリアージュさんにはもっと相応しい相手が―――!?」


 その男子生徒の物言いにいい加減腹が立って、私は彼の口から発される音を消した。


 男子生徒は声を発そうと口をパクパクさせているが、それは音にはならなかった。


 他の2人も、子爵家の男の子の様子に驚いて口を噤んだ。


 はー……もう、何言っちゃってんだろうね。こいつらは!


 私は息を一つ吐き出して、その男子生徒達を半目で睨みつけた。


「………そうね、私がリュカと一緒に居なければならない理由はないわ。」


 私の言葉に、リュカは小さく息を飲み、相手の男子生徒達は嬉しそうな表情をする。


「だから、私の意志でリュカといるんじゃない!」


 相手が、は?っという顔をする。


「理由なんかなく、私がリュカと居たいからいるのよ!それを誰かに口出しされる筋合いはないわ!ましてや、リュカに文句を言うなんてもってのほかよ!」


 きっぱりと言い切った私に、相手の男子生徒達も、周囲の野次馬達も驚きを顕わにしている。


 リュカ以外の前では大人しいイメージの私が、こうもきっぱりと反論したものだから驚いてるんでしょうけど、言いたいことは言うわよ!私は!


 ちなみに、リュカの前以外でお淑やかでいるのは、本性を出す必要性を感じないからです!



「さ!行きましょう!」


 そう言って、リュカの背を押し、その場から離れようとする。


 あ、そうそう。言い忘れてたわ。


 私は、もう一度男子生徒達の方へ振り返り、


「もし、またリュカを苛めたら、私が、何するか分からないわよ。」


 そう、にやりと笑ってみせた。


 


 何だか動きの遅いリュカの背をぐいぐいと押して、近くにあった建物内の食堂の前の休息所に私達は来ていた。


「もう!あんな奴らと、いちいち喧嘩をするなんて!」


 リュカと向かい合い、腰に手を当ててそう言えば、リュカは気まずそうに目線を逸らしながら。


「………だって、あいつらが……、俺が……アリアに無理矢理傍に居させてるんじゃないかって………、強制の魔法なんかを使って………。」


 へー、周りの人達にはそう思われていたのね。


 私は、わざとらしく首を振って、やれやれと息を吐いた。


「―――この私が、リュカみたいなへたれに操られるわけないじゃない。」


「………へたれってなんだよ!」


 リュカがムッとして言い返してくる。


 へたれって言葉はこの世界には無いけど、私が時々使うから、リュカもおおよその意味は分かっているみたい。


「じゃあ、かけてみれば良いじゃない!強制の魔法!」


 私はそう言ってリュカの目を見上げた。


 リュカも眉を吊り上げたまま、私の目を見返してくる。



 ざわざわと、周りのざわめきが聞こえる。


 ちょうど昼食時だったので、食堂に向かう人や食堂から出てきた人達が、私達を遠回しに見ているようだった。


 

 30秒ほど経った頃かしら、リュカの頬が徐々に赤みを増してきた。


 それに私は思わず小さく笑みを浮かべてしまう。


 途端、リュカは顔中を赤くして、目線を逸らした後、その場にしゃがみ込んでしまった。


 上から見下ろしたリュカは、髪の間から見える首筋まで真っ赤だ。



 リュカは、今まで正面から自分に向かってくる人があまりいなかったから、人と目を合わせることがどうも苦手らしい。


 出会って間もないときは、会話する間も目線を彷徨わせていたわ。


 最近はようやく慣れてきたのか、30秒ぐらいは目線を合わせることができるようになったんだけど。


「強制の魔法をかけるには、相手の目を通して精神を支配しなければならないのよ!

 私を支配したいのなら、3日間は睨み合う覚悟で来なさい!」


 私は、びしっとリュカに指を突きつけた。


 何故3日間かというと、さすがに眠気で私の集中力が途切れるだろうと思われるからだ。



 そんな私の言葉に、周りからは、「なるほど」や「確かに」と頷く声や、納得いかないような唸り声が聞こえてくる。



 でも、まあ、これで私が無理矢理リュカと一緒に居させられているという変な噂も減るだろう。


 くすりと笑って、未だしゃがみ込んだままのリュカの頭を、私はぽんぽんと叩いた。



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