1.入学式にて。
他で連載している『華の降る丘で』より前に書いたお話なので、主人公の性格や、設定などが、非常に似ています。
そして、主人公最強ものです(作者が好きなもので……;)。
さらに、激しく不定期および亀更新になると思われます。
それでも許せると仰って頂ける方は、どうぞ読んでみてやって下さい。
瘴気に覆われた城の最奥で、すでに正気を失った魔王と戦った。
魔王の魔力は強大で、容赦のない攻撃が続いたけれど、狂気に浸かり冷静さを欠いた魔王の隙を突き、私は何とか魔王を倒した。
石の床に倒れ伏した魔王の、しだいに力を失いゆく瞳が最後に私を映す。
その黄金色の眼の中に、蘇ったのは理性と―――。
最後に魔王が呟いた言葉に、私は囚われたのだ。
私が過去の記憶を完全に取り戻したのは、この世界に産まれてから3年が過ぎた頃だった。
それまでは、断片的に蘇っていた記憶が、この頃ようやく繋がったのだ。
そうして自我をも取り戻した私は、現在の自分の状況についての情報収集を行った。
今の私の名は、アリアージュ・ハージス。
貴族制度の残っているこの国の、伯爵家の次女のようだ。
上には、5歳離れた兄と、3歳離れた姉がいる。
容姿は、父親譲りの黒髪に、母親と同じ藍色の瞳。
精悍な顔つきの父親と、たおやかでおっとりとした優しい顔立ちの美女である母親の血を受け、特に母親に似た私は、僅かに目尻の下がったふわふわした雰囲気の美少女だ。
あ、ちゃんと客観的に見てよ!家族も家の者以外の人も、それなりに褒めてくれるので、私の美的感覚がずれてるわけでもないと思うし。
でも、一番のお気に入りは母親似の藍色の目です。
自分のをじっくり見たことはないけど、母様の目を見てると、きらきらとした不思議な色合いで本当に綺麗なの。
私のも同じらしいから、かなり嬉しい。
いつか一人きりの部屋で、じっくり見てみようと思う。―――人前で、鏡に映った自分見ながらうっとりしてたら、なんか、あれだしね…。
あ、それで、この世界の名は、シテというらしい。今の前の生―――いわゆる前世で、私が暮らしていた地球とは違った。
けど、微妙に私には馴染みの世界だ。何故なら、前世で、私は今から約百年前にこの世界に召喚されたことがあるからだ。魔王を倒す勇者として。
しかし、せっかく無事に魔王を倒して元の世界に戻り、生を全うしたというのに、この世界に生まれてしまうとは………いったい何の因果なのか。
まあ、そのシテの中の最も大きな大陸に存在する、3国のうちの一つが私の生まれた国、ゴルーギアス。
この国は前に召喚された時には無かった国だ。あの頃は大陸丸々一つの国だったからね。
そして、この世界には魔法とか精霊とか―――魔王とか、地球ではなかったものが当たり前に存在している。
そのせいか、前に召喚された時と人々の生活態様はあまり変わっていないように感じる。
生活はほとんど魔法によって補われているし、特に不便も感じないから、技術の発展などは必要ないからかもしれない。
そういう私は、魔力はあるものの魔法はほとんど使えない。
これも前回召喚された時と同じ。
何故ならば、私は精霊術師だからだ。
自我を取り戻した時に、わざわざ挨拶をしに来てくれたのは、前回もお世話になった7種の精霊王達だった。
『おう、久しぶりだな。』と普通に話しかけてきた火の精霊王に、「おひさしぶりです。」とまだ覚束ない言葉使いで、複雑な思いで返したのは記憶に新しい。
まあ、今回も力を貸してくださるらしいので、助かるといえば助かる。
とはいえ、精霊王様方に直接力をお借りするなんて、世界存亡の危機でもない限り考えられないので、普段は近くにいる精霊に力を貸してもらっているんだけど。
そうして、7種の精霊術が使えることを特に隠すこともなく、私はすくすくと大きくなった。
前世の記憶があることは秘密だけれども。
そして、私が12歳になった頃、王都にある王立魔術学園への入学が決まった。
それまでの、勉学や作法なんかは、家の者に学んだり、家庭教師をつけて自宅で行っていたから、同年代の子たちと一緒に勉強するっていうのは、ちょっとドキドキするわね。
しかも、学園は、全寮制なんですって。一応、貴族の子息も多いということで、各自個室なのは助かったけどね。
そんなこんなで、入学式の日、私は何でも入試の成績が優秀だったということで、新入生代表の挨拶をすることになった。
勉学について、天才だとは言われてきたけど、まあ中身がそれなりに人生経験積んでるんだから、当たり前といえば当たり前かしら。
あと、7種の精霊術を使えるというのも、かなり珍しい。というか、現在では世界で私一人らしい。
百年前にも、一人いたらしいが―――前世の私ですね、はい。
というわけで、現在、広いホールの舞台の上にいます。
ううう、それなりに経験を積んでても、緊張するものは緊張するわね。
特に、父兄の席では、私を見ながらひそひそと話をする人がちらほら見える。
自意識過剰じゃないですからね!目線はばっちり私に向いてますから!
何とか噛まずに、事前に原稿を用意して暗記していた挨拶を終え、ほっと息を吐いて顔を上げた。
席に着いたまま、じっと私を見上げる、同じ新入生達の顔を、目を合わせないように見渡す。
その時感じた気配に、心臓がどきりとした。
風景となった生徒達の中で、その金が煌めく。
―――こうして私は再び彼に出会った。