7話「光輝星」
「落ち込んでる暇はねえ。次行くぞ」
龍介の一言で、全員は火星をあとにした。
自らの胸の内にさまざまな思いを秘めて・・・。
その日の夜、明希は疲れ切っていた。
「・・・疲れたぁ・・。なんか、これからやっていける気がしないよ」
火星で起きた事件。
零が火星の人間、つまり異星人であり『最終兵器』G150だという事。
そして、玖夢と零の関係。・・・玖夢の最期。
「これだけでも、もう疲れたのに・・・。このまま他の惑星にも行くんだよね。また、誰かが辛い思いをすることになるのかな?。副隊長も零さんのことで辛そうにしてたし・・・」
律都は、シャトル内に着いてすぐに倒れこんでしまい、自室で休んでいる。
肉体のダメージは当たり前だが、精神的なダメージが酷いと桔梗が言っていた。
明希はこの騒ぎを見て確信したことがある。
それは、律都と零は過去に出会っており、2人の間にはいまだに隠されていることがあると言う事。
まぁ、2人の出会いは玖夢には伝わっていた事なのだが・・・。
明希は、まだそれを知らない。
そして、次侵略する星で、また1人の少年の心が壊される事も知らないまま・・・。
火星侵略から一夜あけた朝。
全員が疲れてはいたものの、ミーティングルームに集合していた。
「おい、全員居るな!」
「はい!」
龍介の号令により、次の命令が下される。
「次は、隣の星、金星に向かう」
「―――――――っっっ!!!」
隊長が言葉を吐いた瞬間、異常なほどに反応した人間がいた。
「き・・き・・・金星を・・?」
章は隊長の言葉に反応し、怯えた声を発する。
「?。どうしたの?ナギ」
桔梗が章の顔を覗き込む、龍介は反応を示さないまま続きを語る。
「あぁ、その通りだ。今は水星の星も金星領だからな、太陽側の星を一気にいくぞ」
「どうしたの?。ナギ?」
明希は桔梗と同じ言葉を投げかける。
「そ・・そんな・・金星を・・・?。それじゃ・・ぼ・・僕は?」
章は何処か遠くを見つめる様な目線で目を虚ろにしていた。
なにか、大事な物が目の前で無残に壊されたような表情だ。
そんな異変に気付いたのか、桔梗は珍しく少し慌てた声をあげた。
「す、すみません。ナギ休ませてきます。たぶん昨日の疲れが残っているのだと・・・」
「あぁ、そうしてくれ」
「ありがとうございます」
律都が許可をだし、龍介も何も言わなかったので、桔梗は呆然自失状態の章を連れて、部屋を出て行った。
その後は特に思い当たることもなく進み、次の戦闘は近くなっていた。
龍介の解散を合図に、メンバー達は自由行動を始める。
明希は・・・。章のもとへ向かう事にした。
明希が章の部屋に着くと、桔梗がちょうど部屋から出てきた。
「あ、桔梗さん。ナギは大丈夫なんですか?」
「う、うん。まぁね」
すこし、寂しそうに呟く。
いくら明希でも、その表情を見落とすほど馬鹿ではない。
「どうしたんですか!?。やっぱりどこか悪いんですか?」
「・・・理由は分かる。でも、僕達がどうにかできる問題じゃない」
「へ?。それってどういう事ですか?」
火星でのこともあり、明希は少し敏感になっていた。
“これ以上悲しむ人を増やしたくない。この気持ちは桔梗さんも同じはず・・・”
しかし、その質問に対する答えは、以外なものだった。
「・・・知らないほうがいい事ってあるんだよ。明希君」
冷たい声。
聞く者すべてを凍りつかせてしまうような声だった。
明希は、一瞬火星での事を思い出した。
玖夢が零に刺され、桔梗に治療を依頼しに行った時・・・。
その時と似ていた。
身体中に返り血を浴び、目に怪しい光が灯っていた桔梗に。
いつもの穏和な雰囲気など欠片も感じられない、どちらかといえば、狂気に染まっている様な感じだ。
しかし、明希はひかない。
火星で、目の前で、大切なものを奪われた玖夢を見たから。
なにもかもを失ったせいで、自分で本当に大切なものを壊してしまった零を見たから。
自分の大切なものの真実を知り、絶望する律都を見たから。
これ以上、悲しむ人を増やしたくない。
FDSは、地球の人達の生活を楽しくするためにできたチームなのだ。
人口増加により娯楽を失い、技術進歩により無気力化してしまった人々を救うためにできたチームのはずなのだ。
そのチームのメンバーが、傷ついていていいのだろうか。
明希は自分の疑問を桔梗にぶつけようとしていた。
その時、明希と同じ疑問を持っている人間がいた。
「俺は、おかしいと思う。ここまでして、太陽系を侵略する必要なんてあるのか?。数百年前の『宇宙人はいません』なんて言っている時代なら分かるが、今は違う。他の惑星にも住人が存在してて、1人1人に人生がある事が分かってる時代だぞ。そこを無理矢理奪う権利なんか、あるわけねえよ」
「静かにしろ、律都」
ここは、龍介の個室である。
律都は、龍介の個室に上がり込むと、勝手に話し始めていた。
「なぁ、龍介。ここまでやらなくていいと思うんだが・・・本当に」
「命令だから、仕方ねえよ」
龍介はぶっきらぼうに答える。
まるで、命令のためなら、なにを犠牲にしてもいいと考えているようだった。
律都はその表情を見て、少し驚かせてやろうと思い、火星での出来事を話した。
「そういえば、明希の奴がな、俺の命令従わなかったぞ」
「!?。マジか?」
龍介は目を見開き、驚愕を表にした。
「あぁ、火星でな、色々あって少し喧嘩した、あいつと。だが、悪くなかったな」
「意外だな。お前がそんな感情に流されるような事をするなんてよ。ラリアットだけかと思った。そんな自分に正直に行動する部分」
「まぁ・・・俺も明希に毒されているのかもな」
律都は、少し笑いながら目を龍介から逸らす。
そして、壁の方を見ながら呟いた。
「・・・そろそろ、本部の犬の皮脱いだらどうだ。俺もフォローに疲れたぞ」
すると、龍介は一瞬虚を突かれたような表情になったが、すぐに口角を釣り上げ、ニヤリと笑った。
「あぁ・・・そうだな。脱いでいいのか?」
挑戦的な表情で聞き返す龍介に、律都はため息をつき答えた。
「はぁ・・・。早くしてくれ。もう本部は見てねえよ」
すると、龍介は威厳のある座り方をしていた脚を机の上に乗せた。
平均より長い脚を机の上に乗せたせいか、机から足首がはみ出している。
そして、机の上に置いてあった、書類の数々を床にばらまいた。
「あーあ、疲れたぜ。やっと本物の俺、解禁ってとこか」
威厳もなにも有ったものじゃない格好で龍介は話し出す。
龍介の今まで見せていた性格。
本部のためなら、メンバーの身内の死も悲しまない。
そんな非道な性格は見せかけだった。
・・・実は、律都は気付いていたのだが。
「もう、疲れた。第一、地球の幸せのためってこっちのことも考えろって感じだぜ。第一おかしいだろ、6人だぜ?。それにさ―――――」
「おい、言いすぎだ。いくらなんでも・・・」
説得した側の律都が焦りだした、まさかここまでとは思ってもなかったのである。
「?。別によくね?。本部の犬の振りをするのは疲れた。じゃぁこれからは俺全開でいくけどいいのかよ?」
「あぁ・・・。お前が零の時あまりにも非道だったから、おかしくなったのかと思った」
律都が話すのは、零が自分の手で実の母親を殺めたとき、龍介の反応があまりにも酷かった時の事。
「あの時か?。すまなかったな、本部にとっては零の取った行動の方が正しいんだ。俺がそれを否定したらまずいだろ?」
「・・・だよな。仲間思いのお前が・・見捨てるわけないよな」
律都はすこしうつむきながら、呟く。
その顔には、普段にはない尊敬の念がこもっているようだった。
「ちょ!。何だよその顔らしくねえな!。お前はいつももっと偉そうなのにさ」
「俺だって、人に尊敬ぐらいする」
すると、龍介は面白いものを見つけたとでも言いたそうな顔で、律都をからかった。
「へぇ、律都も可愛らしい一面あるじゃねえか。その調子でさ、ここに散らばってる書類かたづ――――っ!!??」
律都のラリアット炸裂。
龍介はまた、3分間床に沈んだ。
「・・・お前のそういう所嫌いじゃない」
律都は静かに呟き、床に沈んでいる龍介に背を向けた。
「好きでもないが・・・」
「桔梗さん!!。僕はおかしいと思います!。火星を侵略した時、あんなことする必要なんてあったんですか?。玖夢さんはなにも悪い事なんてしていない。火星の人達も・・・」
「本部命令だから、仕方ないんじゃないのかな?」
明希は自分の疑問を桔梗にぶつける。
皮肉にも、律都と同じ質問なことには気づいていないが。
ただ、桔梗の返答は冷たいままだった。
このままじゃ、何も変わらない。
明希はそう思っていると、章の言葉が脳裏をよぎった。
“僕は、先輩に憧れをもっています。無理でも、いつか先輩に追い付きたいんです”
桔梗を完全に信頼している証拠だろう。
章が今の桔梗を見たらどう思うだろうか?。いままでの雰囲気が180°回転したような彼を見たら・・・。
それでも、章は桔梗を信じるだろう。
明希は意味もなくそう思った。
でも、桔梗にはいままでのようにいてほしい。だから、明希は説得を止めない。
「本当にそう思ってるんですか?。ナギは貴方のことを――――」
バタン!。
扉の開く音がした。
明希と桔梗が振り向くと・・・章が立っていた。
「・・・僕がどうしたんですか?」
悲しそうな声だった。
「ナギ!。無理しちゃだめだって・・あんなに・・・」
桔梗が章の方に向いて説得しようとする。
しかし、章の答えは桔梗の想像を裏切った。
「いいんです、明希さん。なにか用でも?」
「・・・うん」
そう言うと、章は明希を自分の部屋に入れた。
「すいません、先輩。・・・明希さんにも話しておきたいんです」
「・・・」
無言のまま、桔梗は2人の後ろ姿を見つめ続けた。
その瞬間、桔梗の中に声が響く。
《なに迷ってんだよ、壊しちまえよ、お前が苦しむ事なんかねえ。俺に全部任せろ》
「っっ・・・・」
桔梗は自分の頭を抱え込み、地面に蹲った。
《お前の大切な奴を壊させろ。俺は壊す事にしか快感を覚えない、知ってるだろ?。お前だってそうなはずだ。本当は単に狂気に酔っているだけ、お前は狂ってる人間だろ》
「止めろ!!!」
桔梗は大声を上げ、顔は蒼白になっていた。
その表情は、いつもの彼とも、さっきまでの彼とも違う、なにかに酷く追い詰められたような表情だった。
「・・・止めてくれ・・・もう、昔に戻りたく・・・ない・・・」
震える声を紡ぐ桔梗に、声はさらに追いうちをかける。
《抵抗するなよ・・お前は俺、俺はお前だ。本物はどっちだと思ってる》
「・・・本物は僕だ・・・」
蚊の鳴くような声で呟く、そして、ゆっくりと立ち上がり、フラフラとした足取りで自分の部屋へ戻っていった。
「ごめん、体調悪いのに・・・」
明希は申し訳なさそうに呟きながら、章の部屋に入る。
「いいえ、いいんです」
そう言いながら、章は椅子を出して明希をそこに座らせ、自分はさっきまで寝ていたと思われるベッドに腰を下ろした。
「それで、質問ってなんですか?」
「え・・えーと・・・」
明希は話す事を躊躇ったが、やがて、ゆっくりと口を開き始める。
「ナギが、金星を侵略するって言った瞬間に、急に態度が変わったからどうしたのかな?って思ってさ、火星の時にも副隊長や零さんが大変そうだったから、今度は、ナギがなにか隠してるのかなって・・・」
その言葉を聞くと、章は少し黙ってしまったが、意を決したように口を開いた。
「いつかは言おうと思ってた事なんですけど・・・」
その後、また少し間を置き呼吸を整える、そして、目を決意の色に染めて真実を語った。
「僕は、金星の人間です。金星は僕の故郷です」
無事7話に到達することができました。
そして、今回のサブタイトルですが、「光輝星」=「金星」みたいな感じの意味があります。
意味がわからないですね。
それはさておき、今回はナギルートといったわりに、やたらと隊長、副隊長がうるさかったですね・・。
あとは、桔梗が珍しく出番が多かったくらいで、ナギの活躍はまだまだでしょうか?。
これからなので、はい。
では、今回はこの辺までとさしていただきます。
読んでいただき、ありがとうございました。
FDSは貴方の応援によって強くなっていきます。
次回予告。
章の告げた真実。
それは、単純で残酷なものだった。
そして、舞台は金星へ。
明希は複雑な事情を背負った章を助けられるのか。
次回、「Force that defends space」8話「理想・現実」
FDSは金星の侵略を完了させられるのか。




