9話「過去編~一筋の光~」
「ナギが・・・ナギが・・・!!」
明希は、ひたすら隊員達を探していた。
“なんで!?。なんでどこにもいないの!?”
彼が気が狂ったように走り続けていると、見覚えのある少女が後ろにいた。
「明希さん・・・」
少女は薄い栗色の髪の毛を肩まで伸ばしており、目は海のような深い蒼色だった。
控えめな声で呟く少女。明希は彼女を知っている。
「え、えーと・・・メイちゃん?」
「そうです。覚えていてくれたんですね」
メイが少し嬉しそうに呟くと、明希は焦った声で答えた。
「あ、ごめん!。僕、仲間の所に行かなくちゃいけないんだ。だから、今は相手してられない!、ごめんね!」
さりげなく拒否を告げると、明希は全速力で走り去ろうとした。
その時。
「待ってください!」
メイの声が響いた。綺麗な声だ。
「え、なに?」
“僕は急がないといけないのに・・・。急がないとナギが・・・”
明希は心の中で呟いたが、メイの一言が彼の考えを変えた。
「私は、貴方の仲間の方々が何処にいるか知っています。あの屋敷の家事はわたしがしていますから」
「え!?。本当!?。なら教えてよ!」
明希が問い詰める様に聞き返すと、メイは取引を持ちかけた。
「貴方に伝えたい話があります。貴方がこの話を聞いてくれれば、仲間の方の居場所を教えましょう」
「ど、どんな話?」
場合によっては、警戒しなければならない。話の内容を聞いた明希の選択は正しかった。
しかし、答えは予想外のものだった。
深い蒼の瞳に、明希を試すような色が灯る。
そして、メイはゆっくりと口を開いた。
「それは・・・。ショウ=カンナギダ様の過去の話です」
6年前。
ここは、金星の屋敷である。
ここ、カンナギダ家は先祖代々占いで栄えてきた家系だった。
カンナギダ家の人間は、自らの目で人の未来を“視る”ことができた。
その占いは百発百中で、金星の人間の信頼も厚く、富と名声に恵まれていた。
ある日、そんなカンナギダ家が、2人の養子を迎えることになった。
養子の名は、兄のバド=アシュリュー。妹のメイ=アシュリュー。
バドは12歳、メイは7歳。
幼い兄妹だったが、カンナギダ家の使用人としての受け入れだった。
カンナギダ家に拾われてから、2人はアシュリューの姓を捨て、バドは執事として育てられ、メイは侍女として育てられた。
自由のきかない使用人生活は、幼い2人には厳しすぎ、2人はその生活に嫌気がさしていた。
しかし、2人にとって唯一楽しい時間があった。
それは、カンナギダ家次期当主。
ショウ=カンナギダと過ごす時間だった。
次期当主ショウは特異な人間だった。
自分の目で“視る”占いで生活するカンナギダ家の人間は、生まれつき人の未来を“視る”事が出来るのだが、ショウは違った。
彼は盲目だった。
生まれたその時から視力が全く無く、人の未来どころか、普通の光景すらも認識することが出来なかった。
家の人間は、長らく後継ぎに恵まれなかっただけあり、必死でショウの目を治そうとした。
しかし、どれだけの金を出して良い医者を雇っても、彼の目は治らなかった。
たくさんの手段を用いたが、結局彼の目は視えないままで、次期当主としても、使えないと親族たちに言われ、そしてついに、ショウは両親にも見捨てられ、カンナギダ家の汚点と言われ、自室に軟禁されていた。
世間の目から、カンナギダ家の“不良品”を隠すため。
未来の視えない人間の存在を抹殺するため。
バドとメイはショウの世話係も兼任していた。
何故かというと、ショウは7歳で、2人と歳が近かったのもあり、またカンナギダ家の人間は、人の未来が視えない“不良品”と関わりたがらなかったからだ。
2人のショウへの世話は、朝を告げる所から始まる。
「ショウ様、朝ですお早うございます」
バドが、まだ寝ているショウに呼び掛ける。
そして、朝日のあたる東側のカーテンをサッと開けた。
つい先ほどまで真っ暗だった部屋に、神々しい朝日が降り注ぐ。
金星特有の街、金色の街が朝日を反射してピカピカに光っている。
その光景は、太陽系有数の絶景である。
すると、ベットの上で寝ていたショウが、体を起こした。
「・・・う・うん?。もう朝・・・?」
ショウは何度も瞬きをして目を開ける。
しかし、両目とも暗く淀んでおり、光は映っていない。
「ショウ様、御身体の具合はどうですか?」
メイも明るい声で聞く。
光の見えないショウは、声で人間の喜怒哀楽を感じ取るため、彼の前では感情にそった声を出すように心掛けているのだ。
「身体の具合は・・悪くないよ。でも、やっぱりなにも視えない・・・」
ショウは悲しそうに呟く。彼自身、自分の目が視えない事は気にしている。
そして、そのせいで親や親族に見捨てられている事も知っていた。
2人はそんなショウを気遣いながら、次は、朝食を用意する。
使用人である2人もこの屋敷に居場所がなく、居場所の無いもの同士、ここで食事をとっているのだ。
「朝食の準備が出来ました」
メイがそう告げると、3人は少量の朝食を分け合った。
富豪の食事には見えないほど貧相な食事で、もちろん育ちざかりの彼等には全く足りてはいない。
しかし、3人にとってこの時間はかけがえのないものだった。
「ショウ様。お口に合いましたでしょうか?」
メイが少し不安そうに聞く。
彼女はまだ自分の料理に自信が無い。
その不安げな声を感じ取ったのか、ショウはとびきり明るい笑顔で感想を言う。
「うん。おいしいよ!」
すると、メイも同じような顔になり、とても嬉しそうに答えた。
「なら、よかったです」
メイとショウは朝食の味の話で盛り上がっている。
その光景を、バドは嬉しそうに見ていた。
“メイがあんなに楽しそうにしている。俺自身もショウ様と居る間だけは、普通の自分で居られる。あの方はすごい方だ。自分が盲目なことで苦しんでいるはずなのに、俺達に元気と希望を与えてくださる”
バドはずっと楽しそうに笑う2人を見つめていた。
そして、同時にある思いが頭をよぎった。
“ショウ様は旦那様や奥様に邪見に扱われている。俺達が、旦那様や奥様からショウ様を守らなければ・・・。それが俺に出来る最高の恩返しのはずだ”
バドが真剣そうに悩んでいると、メイが顔を覗き込んできた。
「どうしたの?。お兄ちゃん」
「!?。メ、メイ!」
バドは、考え事の途中で思考を中断されたのに驚き、椅子から落ちた。
「!!。お、お兄ちゃん!?。大丈夫!?」
メイはあたふたと慌て、椅子から落ちた兄に手を貸す。
「大丈夫!?」
「あぁ・・・すまない。ショウ様失礼いたしました」
「・・・?。びっくりしたけど、なにがあったの?」
目の視えないショウに現状を説明すると、ショウは静かに笑った。
「バド。危ないから気をつけないと駄目だよ?」
「あ・・・はい。お見苦しい所をすみません」
メイはそんな光景を、必死で笑いをこらえながら見ていた。
そして、その後も、3人はこの時のみ許される、年相応の会話を楽しむのだ。
「ショウ様。この前庭園で珍しい花を見つけたんです!」
ある日の昼下がり、メイが嬉しそうにショウに語りかけた。
「・・花?。どんな花なの?」
ショウも自分が視る事のできない外の話に興味を抱いた。
「紫色で、花弁は5枚に見えます。大人しそうな色でとても綺麗ですよ。でも名前が分からないんです!」
メイが悔しそうに話していると・・・。
「Chinese bellflower」
バドがボソッと答えた。
「Chinese bellflower?。確かに聞いたこと無い名前だね。他の星の言語かなぁ?」
ショウは不思議そうに呟く。
「お兄ちゃん良く知ってるね!」
メイがそう言うと、バドは次に、花言葉を付け加えた。
「花言葉は、変わらぬ愛、誠実、従順・・・」
「へー!。いい言葉だね!」
メイが素直に感激する。
「そんな綺麗な言葉なら、花もすごく綺麗なんだろうね」
ショウもはにかみながら話す。
「そうです!。この花すごく綺麗なんですけど・・・庭に1本しかないんです」
メイはそう呟くと、庭に生えているChinese bellflowerの方を見つめた。
「この辺りじゃ珍しい花なのですか?」
メイはショウに聞く。しかし、ショウは困ったような顔で答えた。
「うーん・・・。僕はよく分からないなぁ。ごめんね」
「そうですか・・・・」
メイは悲しそうに呟く、すると、それを見て我慢できなくなったバドが答えを与えた。
「Chinese bellflowerは、本来地球という惑星の花です」
「地球?。お隣の?」
メイが話に面白いくらいに喰いついてくる。それを見て満足そうにバドは続きを語った。
「そう。そして、地球の中でも東洋の島国の花らしいですよ。ちなみに、その島国ではChinese bellflowerとは呼ばれていないようですが」
「え?。じゃぁその国では何て呼ばれているの?」
「さぁ・・・。俺にも分かりません」
バドは残念そうに呟いた。
すると、メイは話題を変えて疑問を発した。
「あれ?。ということは、じゃぁ、この花は地球から来たの?。お隣とはいえ結構遠いよね?」
この頃の金星の宇宙の移動手段は、まだまだ発達しておらず、地球へ行くのも至難の技だった。
「そう・・・。地球から運ばれた可能性は低い」
「じゃぁ、何処からこの花は来たの?」
メイの疑問に、バドは答えられず黙ってしまった。
すると、その話を聞いていたショウが思い出したように話し出した。
「あ・・。もしかして、その花って地球と海王星間の友好の証に、地球から海王星に送られた花じゃないのかな?」
「あぁ、はい。そうです。あぁそうか海王星にも自生している可能性はありますね。」
「でもそれでは、金星で咲いているのはますます不思議だね。地球からでもないし、海王星なんてあんまり交流ないから、そこからとも考えにくいし・・・」
「でしょうね。どこから来たのでしょうか」
バドが首をかしげる。
ちなみに、メイは2人の会話が途中から理解出来なくなった。
バドとメイもリラックスし、ショウも孤独から解放される時間。
こんな時間が、永遠に続くと思っていた。
しかし、Chinese bellflowerが花を落とした頃、この時間は終わりを告げた。
庭に咲いていた一輪のChinese bellflowerが完全に花を落とした日。
もちろん、ショウには視えなかったのでそれを知る事は無かったが、何年かぶりに両親が彼の自室に訪れた。
「ショウ。久しぶりだな」
「・・・・父様!!」
“やっと、僕の存在が認められたんだ!!”
ずっと幼いころから見捨てられていた自分。
会いに来てくれたという事は、認めてもらえた。
そう思い、久しぶりの両親との再会に、ショウは心を躍らせた。
しかし、それは、残酷な事実を伝えに来ただけだった。
父親は残酷な言葉を、静かに告げた。
「ショウ=カンナギダ、人の未来のみえぬお前に用は無い。ただちにカンナギダの姓を捨て、ここから出て行け」
沈黙、しばらくショウは声を発することが出来なかった。
「・・・う・・嘘・・・!!」
やっと声が出た時、ショウはその言葉に絶望し、しばらく動けなかった。
「安心しろ、金なら渡してやる。これで、どうにか食いつなぐんだな」
父親はそう言うと、母親と一緒に部屋を出て行った。
「と、父様!、母様!。待ってください!!」
ショウは精一杯叫んだが、両親は待ってくれなかった。
「父様!。母様!!」
あとには、生活費だけが残された。
ショウ=カンナギダは、巫田章と名前を変え、地球にわたる事にした。
理由は、地球は技術進歩が著しい惑星のなかで一番近く、自分の目が治せると思ったからだ。
父親からもらった生活費は、目の手術代にするつもりだった。
目が視えるようになった日には、絶対にこの家に帰ってくると心に誓ったから。
“自分の家を離れることになるなんて・・・。僕・・なにか悪い事でもしたかなぁ”
心の中で呟いたが、すぐにその発言を打ち消す。
“分かっている、本当は。未来の視えない僕は存在自体が悪なんだってこと。カンナギダ家に必要が無いってこと・・・”
心の中でその事実を巡らせるたびに苦しくなる。
ショウは自分を捨て、章として生きていく事決意をしても、心の苦しさからは解放されなかった。
“苦しい・・・。誰か、僕の所で一緒にいて欲しい。独りは嫌だ・・・!!”
章の叫びは、簡単に消え去り、誰の耳にも届かなかった。
その日のうちに、章はなにも言わずにカンナギダ家を出た。
最も大好きだった、バドやメイにも無断で・・・・。
その後、地球に渡った章は1人の医者と出会う。
その医者は、とても優秀な医者であり、彼の目の手術を引き受けてくれた。
そして、家を出てから4年後、巫田章11歳の時。
章の目は光を得た。
ショウにとっての光はバド、メイだった。
しかし、章にとっては本物の光を手に入れてから、帰る理由が無かった。
それうえ、視力は獲得したものの、人の未来を視る能力は手に入らなかった。
章はカンナギダ家に帰ることも無く、宇宙安全対策本部に身を寄せたのだ。
風の噂でショウの情報を手に入れていた兄妹も、いつの間にかショウとは音信不通になっていた。
過去の出来事はいまだに章の人生を狂わせているのであった。
こんにちは、蒲沢公英子です。
ついに過去編第2弾です。
過去編の難しさを改めて実感しています。
章君の過去編でしたが、いろいろな人が出てきて、章君自身の台詞が少ないです。
しかし、彼は彼なりに暗い過去を持っています。(現在誘拐されていますし)
考え方は人それぞれでしょうが、章君のことも応援していってほしいものです。
では、今回はこの辺で。
次回でまたお会いしましょう。
次回予告。
章の過去を知った明希。
仲間と再会をして、章を取り戻しに行こうとする。
なぜ、ショウを信頼していたバドが彼を誘拐したのか。
そして、大切な人間を奪われた彼は・・・?。
「Force that defends space」10話「救出戦闘」
「ショウ様・・・。なぜ行ってしまわれたのですか?」




