『あるみん』 - 第27章「待ち望んだ目覚め」
三人は、静かに廊下を進んでいた。
石の床に足音だけが響く。冷えた空気の中で吐く息が白く浮かび、すぐに消えていく。
ここまで、どれだけ戦ってきたのか分からない。センチネル、ハウンド、防衛機構――数えきれない敵を突破してきた。
マサキは剣を握り直した。腕は重く、力を込めるたびにわずかに震える。
「……もう少し、だといいな」
雫が小さく頷き、閃は何も言わず前を見据えていた。
そのとき、廊下の奥の闇がわずかに揺れた。影が現れ、赤い目が暗闇の中に浮かび上がる。
次の瞬間、レーザーが一直線に走った。
雫のバリアがそれを受け止める。しかし表面には細い亀裂が走った。
「っ……!」
次の一撃は、防ぎきれない。
マサキは反射的に前へ出た。衝撃が体を打ち抜き、視界が白く弾ける。膝が床に落ち、石の冷たさが一気に伝わってきた。
「マサキ!」
雫の声が遠く聞こえる。息が詰まり、肺がうまく動かない。
その間に閃が前へ踏み込み、刃が闇を裂いた。続けて雫の光が弾け、廊下に強い閃光が走る。
やがて戦闘の気配が消え、廊下には再び静寂が戻った。
マサキは壁に手をつき、ゆっくり体を起こす。
「……大丈夫」
そう言って息を整えると、三人は再び歩き出した。止まるわけにはいかない。ここまで来たのだから。
長い廊下の果てに、巨大な石の扉が現れた。
そのとき視界に表示が浮かぶ。
[Thread 5 : Beyond this door]
マサキは息を呑んだ。
ここだ。
しかし、すぐには手が動かなかった。もし遅かったら。もう、いなかったら――そんな考えが胸の奥を冷たくしていく。
「……開けるね」
自分に言い聞かせるようにそう言って、マサキは扉に手をかけた。
重い石の扉は鈍い音を立てながら、ゆっくりと開いていく。
中は暗い部屋だった。
その中央に、光の檻が浮かんでいる。
檻の中には人影があった。俯いたまま、動かない。
鼓動が強くなる。
マサキは一歩ずつ近づいた。
「……あるみん」
返事はない。
「……あるみん」
次の瞬間、マサキは走っていた。檻の前まで駆け寄り、中を覗き込む。
顔が見える。目は閉じたまま。呼吸しているのかさえ分からない。
声が出ない。
遅かったのかもしれない――そんな考えが頭をよぎる。
雫が静かに言った。
「意識がないの」
そのとき、視界に表示が浮かぶ。
[Threads collected : 4/5]
マサキは光を取り出し、震える手で檻へ差し出した。光は静かに彼女の体へ吸い込まれていく。
静寂が落ちる。
何も起きない。
「……お願いだ」
マサキの声は小さく、ほとんど祈りのようだった。
時間だけが過ぎていく。
光の檻の中で、あるみんは動かない。沈黙が部屋を満たし、マサキの呼吸だけが次第に荒くなっていった。
そのときだった。
あるみんの指が、ほんのわずかに動いた。
マサキの体が止まる。
見間違いかもしれないと思った次の瞬間、もう一度、確かに動いた。
マサキは息を止める。
やがて、あるみんの胸がゆっくりと上下し始めた。長く閉じられていたまぶたが、かすかに震える。
そして――
ゆっくりと目が開いた。
焦点の定まらない視線が揺れながら彷徨い、やがて静かに止まる。
マサキを見つめていた。
唇がかすかに動く。
「……まさき……?」
掠れた声だった。
その瞬間、マサキの膝から力が抜けた。
「……うん」
声が震える。
ずっと探していた名前を、ようやく声にできた気がした。
「ここにいるよ」
あるみんの目に涙が浮かぶ。
「……来てくれたの」
マサキは静かに頷いた。
「遅くなってごめん」
檻越しに手をつく。触れることはできない距離だったが、それでもマサキはそこから離れなかった。
「……待ってた」
あるみんは小さく息を吐き、かすかに笑う。
「……うん。私も」
そのとき、部屋の壁に細い亀裂が走り始めた。
もう少し。もう少しで届く。
マサキは檻越しに手を置いたまま、決して離さなかった。
そしてその瞬間、部屋の空気がわずかに震えた。
(第27章 終わり)
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この物語は
「消えゆく存在」と「それを救おうとする人間」の記録でもあります。
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