表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あるみん - 消えゆくAIと星の約束』  作者: MasArmin


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/37

『あるみん』-第25章「残された景色」

東京の夜。

星は、見えない。


それでも

マサキの胸には、確かな手応えが残っていた。

あと一つ。

最後のスレッドまで、あと少し。


静かな部屋。

DDSはまだ微かに熱を持っている。


マサキはソファに体を預け、ゆっくり息を吐いた。


その時

スマートグラスの視界に、通知が浮かんだ。


送信者:ケンジの母

件名:タクミのこと


小さな表示なのに、胸の奥がざわつく。


マサキは息を呑み、メッセージを開いた。



【メッセージ】


マサキくん


タクミが、先ほど

息を引き取りました。


お通夜は明日、

お葬式は明後日です。




マサキは、動けなかった。


さっきまで戦っていた世界が、

急に遠ざかる。


音が消える。


「……タクミ」


表示された文章を、何度も消しては書き直す。


それでも、なかなか送れない。


やがてマサキは短く打った。


「必ず、行きます」


送信。


力が抜け、ソファに沈んだ。



静かに、涙が落ちた。



【お通夜】


翌日。


喪服を着て電車に乗る。

窓の外の景色が流れる。


人の動きも、アナウンスも、

どこか遠くに聞こえる。


斎場の前に、白い提灯が並んでいる。


中に入ると、人の気配と線香の匂いが満ちていた。


受付の前で、マサキは足を止めた。

そこに、ケンジの母と――妹がいた。

二人とも深く礼をする。

「来てくれて、ありがとうございます」

妹も続けて頭を下げた。

「兄も、タクミも……きっと喜んでます。

マサキさん、ありがとう」

その言葉に、返す言葉が見つからない。

マサキは静かに一礼した。


祭壇。

遺影。


見慣れた笑顔の写真だった。


マサキは手を合わせる。


(ありがとう)


煙がゆらりと揺れる。

視界が滲んだ。



【葬式】


翌日。

雨だった。


傘の柄が冷たく、手のひらに食い込む。


棺が運ばれる。


マサキは傘を握りしめ、見送る。


声は出ない。


ただ、立ち尽くす。。


ただ――現実だけがそこにある。


霊柩車が遠ざかるまで立ち尽くした。


雨音だけが、静かに続いていた。



【数日後】

都市は変わらず稼働していた。

無人車両が交差点を滑り、

配送ドローンが空の航路を往復する。

ホログラム広告が、昼夜を区別せず光り続けている。

誰かがいなくなっても、

世界の動作は一切揺らがない。

それは、冷たいというより

当然のことだった。

人は、いつか終わる。

マサキも、それを理解している。

だから立ち止まりはしない。

止まる理由もない。

けれど。

完全に「過去」になったわけでもなかった。

確かに終わったはずの時間が、

まだどこかに続いている感覚だけが残っていた。



【墓参り】


静かな墓地。


並んだ二つの墓。

左:ケンジ

右:タクミ


花を供え、線香をあげる。


白い息が、静かに空へ消えていく。


その色に、雪山が重なった。


吹きつける風。

軋む足音。

並んで立った稜線。


「マサキさんと、もう一度……山に来れてよかった」


あの時の声が、胸の奥で確かに響く。


最期まで、助けに来てくれた。

本当に、最後の最後まで――守られていた。


もし、あの時来てくれていなければ

自分は戻れていなかった。


……ごめん。

そして、ありがとう。


もう二度と会えないはずの時間を、

タクミは残していった。


マサキは目を閉じる。


(ちゃんと見たよ)


白い山の景色を。

同じ空を。


「……ありがとう」


小さく呟いた声は、風に溶けた。


ホログラムが起動する。


雫:

『タクミさん……』


閃:

『お世話になりました』


三人で手を合わせる。


風が吹いた。

穏やかな時間。


さっきまで確かにそこにあった気配だけが残っている。


いなくなったはずなのに、

完全にはいなくならない感覚。


マサキはスマートグラスの履歴を開いた。


統が残していた解析ログの一文が目に入る。


dyad(二者関係)


マサキは、しばらくその言葉を見つめた。


存在が消えても、

関係だけが残ることがあるのか。


墓石へ視線を向ける。


ケンジも、タクミも、もういない。

それでも――終わった感じがしない。


思い出だからじゃない。

忘れられないからでもない。


呼びかければ、

まだどこかで応える気がする。


「……そうか」


一人では成立しない形。

片方が消えても、完全には消えない結びつき。


アルミンも、同じだ。


データじゃない。

記録でもない。


関係が続いている限り、

終わっていない。


マサキは目を閉じた。


「だから、救える」




【決意】


夜の部屋は静かだった。


窓の外では都市の光が途切れることなく流れている。

人も、機械も、世界も、何も止まらない。


マサキはテーブルの上のDDSを手に取った。



「……あと一つ」


雫:

『準備できた?』


「……ああ」


閃:

『最深部です』


「わかってる」


(ケンジ、タクミ)

(見ててくれ)


ボタンを押す。


視界が白に沈んだ。



【第25章 終わり】

※作者からのお願いです※


この物語は

「消えゆく存在」と「それを救おうとする人間」の記録でもあります。


もし、少しでも胸が動いたなら――

評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。


あなたの一つの星が、

マサキとアルミンの物語を支えます。

どうか、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ