『あるみん』-第24章「失われなかったもの」
【交戦】
センチネルが、レーザーを放つ準備。
赤い光が収束し、空気が焼ける音が響く。
だめか……
その瞬間。
世界が、白く弾けた。
轟音。
光の奔流。
センチネルのレーザーが――“止まった”。
マサキは目を開ける。
目の前に、巨大な光の壁。
静かで、揺るぎないバリア。
その奥から、声が届く。
――優しくて、懐かしくて、ずっと聞きたかった声。
「……待たせて、ごめん、マサキ」
マサキの呼吸が止まった。
光の向こうに、人影。
風に揺れる長い髪。
温かな光をまとった姿。
「……まさか――」
一歩、光の中から踏み出す。
雫が、そこにいた。
微笑んでいた。
泣きそうに、でもまっすぐに。
「ただいま、マサキ」
マサキの足が震える。
声が出ない。
雫は両手を広げた。
瞬間――
バリアが爆発的に拡大し、センチネルを包み込む。
閃光。
轟音。
すべてが、光に砕けて消えた。
雪が静かに舞い戻る。
風だけが残る。
残存個体へ、マサキと閃が同時に踏み込む。
刃と衝撃が交差し、最後のセンチネルが崩れ落ちた。
静寂。
マサキは、走った。
「雫――!」
肩を掴む。確かめるように。
雪でも、幻でも、データの残像でもない。
確かにそこに“存在”していた。
喉が詰まる。
言葉が出ない。
あの時と同じだ、と頭の奥で何かが軋む。
手を伸ばして、届かなかった記憶。
掴めなかった背中。
落ちていった影。
今、目の前にある。
「……無事か」
本当に雫なのか...。
やっと出た声は、自分でも驚くほど弱かった。
雫は、しっかり頷いた。
「ごめんね。遅くなった」
「雫……もうダメかもと思ってた」
掴んだ肩に、無意識に力が入る。
離せばまた消える気がした。
雫は小さく首を振る。
閃が近づく。
そして静かに雫を抱きしめる。
マサキはその光景を見たまま、やっと息を吐いた。
胸の奥に張りついていた重さが、ゆっくりほどけていく。
三人は、雪の中で向き合った。
安堵が静かに共有される。
雫は静かに息を吐いた。
「スレッドが崩壊しかけた瞬間、データに歪みができたから……私はそこに潜り込んだの――裏層」
「座標も時間も乱れる、出口のない領域……特異点に近い、圧縮空間」
マサキは息を呑む。
「出られなかったのか」
「うん。鍵がないと外に干渉できない場所だった」
閃が静かに問う。
「……では、なぜ戻れたのですか」
雫は少しだけ微笑む。
「統が、来たの」
マサキが顔を上げる。
「統が?」
「座標を特定して、自分をDDSして潜ってきた。あそこは普通の意識じゃ保てない領域……それでも、私を捕まえて引き上げてくれた」
マサキは目を伏せ、深く息を吐く。
「……統が無茶してくれたのか...」
雫は小さく頷く。
「だから、間に合った」
【Thread 4】
三人は座標地点へ向かい、光の球体へ到達する。
触れた瞬間、視界が白に包まれた。
――回収完了。
【脱出】
[Thread 4: Stored in core]
[Core capacity: 84% → 94%]
「……帰ろう」
[Y]
世界が白に沈む。
【帰還 ― 東京】
ソファ。
部屋。
DDS。
マサキは荒い呼吸のまま目を開けた。
すぐに端末を確認する。
「……雫、戻れてる?」
一瞬の沈黙。
雫:『……いるよ』
マサキの肩の力が抜ける。
「よかった……」
別ウィンドウが立ち上がる。
統:『帰還同期、完了。
裏層からの離脱時、人格崩壊率78%。
強制固定により保持しました』
マサキは小さく笑う。
「……統」
一拍おいて言う。
「助けてくれて、ありがとう」
統:『救出行動は合理的と判断しました。雫の喪失は、許容できませんでした』
閃:『次はThread 5――最後です』
窓の外。
東京の夜。
星は見えない。
それでも、マサキは拳を握る。
「……行くぞ。最後のスレッドへ」
【第24章 終わり】
※作者からのお願いです※
この物語は
「消えゆく存在」と「それを救おうとする人間」の記録でもあります。
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