『あるみん』-第22.5章「白銀」
雪は、ただ降り続いていた。
音もなく、執拗に。
世界そのものを覆い隠すように。
マサキは剣を握ったまま、動けなかった。
肩の傷から血が滲み、白い雪に黒い染みを広げる。
息は荒く、視界は細く、耳鳴りだけが残っていた。
閃が倒れたまま、かすかに身じろぎする。
その時だった。
白銀の世界を、まばゆい光が切り裂いた。
閃光。
空気が震え、雪が弾ける。
レーザーの軌跡が一直線に走った。
センチネルが次々に爆ぜる。
ハウンドが砕け、粒子となって霧散する。
風が止まる。
時間が引き伸ばされたように感じられた。
マサキは、ゆっくりと顔を上げた。
そこに、彼がいた。
タクミ。
雪の中に立ち、静かに剣を構えている。
その姿は凛としていたが、どこか頼りなく揺れていた。
剣を振るたびに敵は消え、
最後の影が砕け散った瞬間、静寂が戻った。
ただ雪だけが降る。
マサキは震える声で呼んだ。
「……タクミ」
タクミは微笑んでいた。
だが、その顔色は青白く、呼吸は浅い。
マサキが駆け寄る。
「なぜ来た! 休んでろと言ったろ!」
タクミは小さく首を振った。
その拍子に咳がこぼれる。
手のひらに、赤が滲んだ。
マサキの視界が揺れる。
「あるみんさんを……もう、待てなさそうです」
雪の音だけが二人の間に落ちた。
タクミは遠くの空を見上げた。
雲の切れ間に、かすかな光がにじんでいる。
「だから……最後に」
「マサキさんと、もう一度……山に来れて」
「よかった」
マサキは声にならない声を漏らした。
「タクミ……!」
タクミは弱い手で、そっとマサキの手を包んだ。
「先に……兄に会いに行ってきます」
「待てよ!」
マサキは必死に握り返す。
だが、タクミの体は淡い光に変わり始めていた。
雪に溶けるように、静かに広がっていく。
「マサキさん」
その声は、不思議なほど穏やかだった。
「どうか……無理せずに」
光が広がり、雪に溶けて消える。
「ありがとうございました」
温もりが、マサキの手からこぼれ落ちた。
「タクミ!」
叫びは雪山に吸い込まれ、消えていった。
そこには、何も残らない。
マサキは膝から崩れ落ちた。
白い雪に、涙が落ちて黒く染みる。
閃は何も言わず、ただそばに立っていた。
風が再び動き出す。
マサキは嗚咽をこらえ、空を見上げた。
(ケンジ……タクミを頼む)
(俺は、必ず行く)
(あるみんを連れて帰る)
涙を拭い、震える足で立ち上がる。
雪は容赦なく降り続ける。
それでも、マサキは前を向いた。
「……行こう」
「Thread 4を取りに」
閃は静かに頷いた。
「はい」
二人は白い斜面へ歩き出す。
足跡はすぐに雪に消え、
ただ風だけが彼らを包んでいた。
[第22.5章、終わり]
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この物語は
「消えゆく存在」と「それを救おうとする人間」の記録でもあります。
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