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【エッセイ1話完結】彼氏はブランド品

作者: ワトソン
掲載日:2026/01/03

地球上に存在する多くの美女。


多くの容姿端麗女性の理想の彼氏像を語ろう。


それは。


イケメン、高収入、高身長。


優しい、面白い、浮気しない、浮気許してくれる。


都合のいい最強彼氏。


このように、世に存在するはずもない、彼氏こそが、世の中に求められた彼氏なのである。


そんな彼氏像に。


俺は、なれるのだろうか。


今あげた条件に一体どれだけ自分は当てはまっているのだろうか?


2016年。


夏。


俺は、急激に痩せて、劇的美フォーアフターな自分の姿があった。


正直最初にあげた、


「イケメン」


の条件をもしかしたら、勘違いながらクリアしているのではないだろうか?


と思っていた。


だが、高身長、高収入。


これは、クリア出来ていないと現状思っていた。


身長は164センチしかないため、これは、もうどうにもならない。


でも、収入面は、どうにかなるだろう。


そんな事を無職で、なんの実績もない中、思っていた。


当時、脳内が妄想で支配されるものの、体は絶好調。


運動はバッチリ出来て、人生で経験したことのないくらい体が動いた。


自分は、このままいけば、もしかしたら、本当にもしかしたら。


プロ野球選手になれるんじゃないだろうか?


と。


俺は、そこで、ちょうどプロ野球のとある球団の入団テストの要項をみた。


当時の俺は、


身長164センチ。


26歳。


統合失調症。


こんなスペックだったと思う。


入団テストの要項は、


身長170センチ以上。


25歳未満。


健康な男子。


俺、どれも当てはまってないやん、と。


ツイッターで、そんな事実をまとめて書いたお笑いツイートをしてみると。


当時好きだった、リスナーさんの一人が、


「テストに合格したら、抱いてください♡」


と書いてきた。


まぁ、今にして思えば、あざとい冗談なのだが、


俺も、


「二軍の控え選手でもいいですか?」


とリプを送ると、


「合格してから言ってください」


と言われてしまった。


俺は、思った。


人間に不可能はない。


不可能な事なんてないんだ。


もし。


もし。


もしプロ野球選手になったら。


それはもう人気者で。


それはもうアイドル扱いで。


それはもう大スターで。


スーパースターの英雄で。


そんなイメージが、俺にとってのプロ野球選手である。


どんなブ男でも。


やはりユニフォームを着こなし、バットを振る、グラブをはめる、ボールを投じると、


戦場のスペシャリストとしての、戦う凛々しき戦士となる。


俺は、なりたいと思った。


俺は、なれるんじゃないかと思った。


よもや、現在26歳。


何の背景も持たない。


何の後ろ盾も、コネもない。


この無名の、いなかの古びたバッティングセンターで。


どこかで、見てるであろう、カープのスカウトに。


俺は、自分のバッティングを敢然とアピールしてやろうではないかと。


そんな妄想にかられていた。


俺は、自分の中でコスモを感じる。


ありもしない力。


それがあると自分に信じ込む。


プロの人間はみなそうしている。


どんなスポーツの選手でも。


そこで俺は、力を纏う。


俺は、全てを見下している。


俺は、最強のスペシャリストだ。


そんじょそこらの奴とは一味も二味も違う。


いつものバッティングセンターへ行く。


坂本モデルのバットを長くもつ。


化粧している俺。


ホームランモードになる。


最高だぜ!


俺。


そう思いながら、全身全霊の力を込めて、スイングする。


ボールに対して、自分の全ての力を叩きこむ。


すると。


あり得ない力が出る。


あり得ない打球が飛ぶ。


普段の自分では出せないような角度の打球が飛ぶ。


これだ。


これなんだ。


見てるか?


見てますか?


スカウトの方々。


盗聴、盗撮している方々。


俺は、そこで、また勝手な妄想をする。


俺の後ろ。


後ろに綺麗な女性がいる。


それは、俺の彼女だ。


この彼女にはいろんなケースの彼女がいる。


俺は、俺にとって最もカッコいい彼氏でいるケースを勝手に妄想する。


彼女が友達に俺と言う彼氏を最もブランド感覚で鼻高く出来るケースはいかなるものか。


例えば、俺の華麗なバッティングを、彼女と彼女の友達が同時に見ているとしよう。


俺にとって迷惑なケースで、周波数を大きく間違っているケースは、まず。


彼女が、友達に、


「わたしの彼氏ねっ! もうプロ野球選手ばりのすごいバッティングするのよー! ちょっと今度みせたいから一緒に、バッティングセンターいこうっ!」


といい、


一緒にバッティングセンターへ来て、俺が華麗な強打を放つたびに、


「ねぇ! ねぇ! すごいでしょ! どうどうっ!」


と騒ぎ立てるパターンだ。


これは、打っている俺の方からしても気が散るし、むしろ、なんだか恥ずかしくて、ふざけて、ファールを打ちたくなってくるような気持ちになる。


だが、最もカッコよく、集中して、彼女の友達に見せつけるパターン。


いや、よもやもう、彼女が必然的に、友達を呼んで打ってるところを見せつけるのは、もうそれは、狙いすぎているからだめである。


偶発的に、友達が偶然通りかかったところで、後ろにいる彼女が、


俺のバッティングを見て、、、、、


結果、何も言わない。


そう。


快心、快打、快音。


これらが鳴り響く中、


彼女は何も言わない。


普通ではないバッティングのそれが、いたって普通である、といったように、振る舞う。


これが、最も彼女の友達に、恐怖を与え、震えるような、驚きを与えるのではないだろうか。


おれは、それが好きだなぁ。


一番カッコいいと思う。


その光景が。


そんな妄想をしている中。


バッティングセンターで黙々とバットを振る俺の隣で。


もう一人、良いバッティングをする若僧がいた。


そいつは、俺にとってはどうでもいいはずだったが。


そいつは、彼女もちで、


彼女もそいつも俺を意識しているようで。


いや、本当は、意識をしているのは、俺なのかもしれなくて。


俺も、そいつも、黙々とバットを振り、快音を響かせる。


鋭くバットを振り抜く。


お互い、競いあっている訳ではないが、まるで競いあっているかのように、バッティングをする。


よもや、相手の人間も勝手に競わせて勘弁してくれよと思っているのか。


それは、もうわからないが。


ひとしきり、15球の対決を終え、終わった後に、


相手の彼女が、


「こっちの方が速いもんねぇ!」


なんて事を言ってる。


こっちの方が速いもんねという言葉。


俺が打っているバッティングゲージでの球速は110キロ。


隣の若僧が打っている球速は120キロ。


10キロほど、若僧の方が速かった。


まぁ、だからどうしたという話なんだ。


この場合、ほぼ互角の打撃を披露していた場合の勝者を決めるとしたら、10キロほど速い球を打っていた、若僧に軍配が上がるのか。


いや、そうじゃないだろう。


そもそも、ここで、こうして、バッティングセンターで黙々とボールを打つ意味。


誰かに何かをみせるとか。


誰かに何かを期待するとか。


誰かの期待に応えるとか。


そういうことじゃない。


目の前の白球。


ただただこれを打つのが楽しい。


楽しいからこそ、こうして足を運んでいるのではないのか?


いろんなことに、自問自答の声なげかけてみた。


俺に彼女が出来たら。


もし、綺麗な女の子の彼女が出来たら。


そんなの子を、あのダイハツの小さな小汚いオンボロ車の助手席に乗せて、ドライブするのか?


アイドルばりの綺麗な彼女の隣を俺なんかが歩いていいのか。


いや、きっと周囲は羨み、俺もきっと高い高揚感と優越感に浸って……


そんな事をしたら、周囲の奴らに、嫉妬されてしまうのではないのか……


いや……そうじゃないだろ。


間違っているよ。


俺は、バッティングセンターの打席の中で、次々と投じられるボールを見た。


次々とボールは、投げられるが。


俺は、バットを持ったまま打とうとしない。


ただただ見送るだけで。


そこで考えた。


男と女。


俺と彼女。


もし彼女が出来たとして、それはどうして出来て、どうして一緒にいるのか。


高い価値のある彼女がいる自分に価値がある。


そうじゃない。


周囲に羨ましく思われる自分に価値がある。


そうじゃない。


好きだと思える彼女がいるんだという事実。


それこそに価値がある。


そうじゃないのか。


周囲にどうこうとか。


そんなのはとてもくだらないもので。


ただただ目の前の好きな彼女が、好きなんだ。


ここにこそ大きな価値があるんだと思う。


本当の愛情。


本当の感情。


本当の誠実。


それを大好きな彼女に向けるのなら、周りのことなんてどうでもいい。


お互いがお互いを、好きもの同士でいるという事実、真実こそに。


そこに間違いのない、愛があるんだと思う。


俺は思った。


愛すべき存在が出来て。


守りたい存在が出来て。


その守りたい存在を、身を呈して、守り立ち向かってくる困難を俺は今後打ち返していけるのか。


困難には、痛みがある。


困難には、苦痛が生じる。


それらを覚悟して、俺は、今後出来るかもしれないであろう彼女を守ることが出来るのか?


それを考えた瞬間。


俺は、バッティングゲージを出た。


俺は、俺に戻ろう。


本当の自分の姿に。


化粧室へいった。


洗面所で顔を洗う。


していた化粧を一気に落とした。


鏡を見る。


自分の顔を。


そこに。


少年にもどったような、あどけない真実の自分の顔がある。


俺は、プロ野球選手ではない。


俺は、ブランド品ではない。


今後出来るかもしれない彼女も、ブランド品ではない。


木製バットから、金属バットへ、俺は、チェンジする。


金属バットは、高校野球や少年野球で使われる懐かしきバット。


これを持って打つと、なんだか、少年時代の真実の自分に立ち帰れる気がする。


金属バットを握り、再び、バッターボックスへ。


守りたい者を守るなら。


自分のこの身をかけて、困難を打ち返せ。


そんな声を感じる。


そこで俺は、100円を入れ、バット構える。


しかし、構えるその姿はいつもとはなんだか違う。


構えが違うというより、立ち位置がいつもと違う。


そう。


俺は、バッターボックスの右も左もどちらもどちらも使うように、バッターボックスを跨ぐようにバットを構えた。


この場合、投げられるボールに対して、正対するような感じになる。


即ち俺の体目がけてボールがくることになる。


困難というボールが。


困難という球が、俺目がけて、飛んでくる。


俺は、それを、落合博光ばりに、バッターボックスを跨いで、両足を屈伸させながら。


打ち返そうとする。


そこで、俺は、幾分の恐怖を感じるが。


しかし。


既にもうそこは男の目になっている。


バッターボックスを跨ぎながら、俺は、その球を怖がりつつもボールをなんとか当ててみる。


というか。


当たらなかった場合は、自分の体のどこかにボールがあたってしまう。


だから、必死にボールにバットを当てる必要がある。


自分の身を守るため。


この身をかけて。


大切な人を守るため。


彼女を守るため。


家族を守るため。


ボールへの恐怖心は少しずつなくなっていく。


1球目、2球目、3球目と、徐々に真正面から来る球を上手に俺は、打ち返してみる。


そうだ。


これだ。


これなんだ。


自分の身をかけて、痛みを恐れず、逃げないで、ボールに立ち向かっていく気持ちや思い。


この気持ち。


この感覚こそが。


きっと大切なんだ。


15球全ての球を俺は、正対した状態で無事打ち終えようやくわかったことがある。


人は物じゃない。


人は心をもった人間だ。


痛みも伴うし、恐怖だってある。


だけど、それらに対して、しっかりとした自分を。


確かな自分という意思を持って。


守りたい存在のために立ち向かえば。


たとえ奇跡は叶わなくても。


自分が手に入れたかった、本当の愛や。


本当の姿に。


なれるんじゃないかって。


そう考えながら、帰り際。


バッティングセンターの出入り口で、管理人さんに、危ない打ち方したらあかんよって。


注意を受けましたとさ。


おしまい。

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