【エッセイ1話完結】彼氏はブランド品
地球上に存在する多くの美女。
多くの容姿端麗女性の理想の彼氏像を語ろう。
それは。
イケメン、高収入、高身長。
優しい、面白い、浮気しない、浮気許してくれる。
都合のいい最強彼氏。
このように、世に存在するはずもない、彼氏こそが、世の中に求められた彼氏なのである。
そんな彼氏像に。
俺は、なれるのだろうか。
今あげた条件に一体どれだけ自分は当てはまっているのだろうか?
2016年。
夏。
俺は、急激に痩せて、劇的美フォーアフターな自分の姿があった。
正直最初にあげた、
「イケメン」
の条件をもしかしたら、勘違いながらクリアしているのではないだろうか?
と思っていた。
だが、高身長、高収入。
これは、クリア出来ていないと現状思っていた。
身長は164センチしかないため、これは、もうどうにもならない。
でも、収入面は、どうにかなるだろう。
そんな事を無職で、なんの実績もない中、思っていた。
当時、脳内が妄想で支配されるものの、体は絶好調。
運動はバッチリ出来て、人生で経験したことのないくらい体が動いた。
自分は、このままいけば、もしかしたら、本当にもしかしたら。
プロ野球選手になれるんじゃないだろうか?
と。
俺は、そこで、ちょうどプロ野球のとある球団の入団テストの要項をみた。
当時の俺は、
身長164センチ。
26歳。
統合失調症。
こんなスペックだったと思う。
入団テストの要項は、
身長170センチ以上。
25歳未満。
健康な男子。
俺、どれも当てはまってないやん、と。
ツイッターで、そんな事実をまとめて書いたお笑いツイートをしてみると。
当時好きだった、リスナーさんの一人が、
「テストに合格したら、抱いてください♡」
と書いてきた。
まぁ、今にして思えば、あざとい冗談なのだが、
俺も、
「二軍の控え選手でもいいですか?」
とリプを送ると、
「合格してから言ってください」
と言われてしまった。
俺は、思った。
人間に不可能はない。
不可能な事なんてないんだ。
もし。
もし。
もしプロ野球選手になったら。
それはもう人気者で。
それはもうアイドル扱いで。
それはもう大スターで。
スーパースターの英雄で。
そんなイメージが、俺にとってのプロ野球選手である。
どんなブ男でも。
やはりユニフォームを着こなし、バットを振る、グラブをはめる、ボールを投じると、
戦場のスペシャリストとしての、戦う凛々しき戦士となる。
俺は、なりたいと思った。
俺は、なれるんじゃないかと思った。
よもや、現在26歳。
何の背景も持たない。
何の後ろ盾も、コネもない。
この無名の、いなかの古びたバッティングセンターで。
どこかで、見てるであろう、カープのスカウトに。
俺は、自分のバッティングを敢然とアピールしてやろうではないかと。
そんな妄想にかられていた。
俺は、自分の中でコスモを感じる。
ありもしない力。
それがあると自分に信じ込む。
プロの人間はみなそうしている。
どんなスポーツの選手でも。
そこで俺は、力を纏う。
俺は、全てを見下している。
俺は、最強のスペシャリストだ。
そんじょそこらの奴とは一味も二味も違う。
いつものバッティングセンターへ行く。
坂本モデルのバットを長くもつ。
化粧している俺。
ホームランモードになる。
最高だぜ!
俺。
そう思いながら、全身全霊の力を込めて、スイングする。
ボールに対して、自分の全ての力を叩きこむ。
すると。
あり得ない力が出る。
あり得ない打球が飛ぶ。
普段の自分では出せないような角度の打球が飛ぶ。
これだ。
これなんだ。
見てるか?
見てますか?
スカウトの方々。
盗聴、盗撮している方々。
俺は、そこで、また勝手な妄想をする。
俺の後ろ。
後ろに綺麗な女性がいる。
それは、俺の彼女だ。
この彼女にはいろんなケースの彼女がいる。
俺は、俺にとって最もカッコいい彼氏でいるケースを勝手に妄想する。
彼女が友達に俺と言う彼氏を最もブランド感覚で鼻高く出来るケースはいかなるものか。
例えば、俺の華麗なバッティングを、彼女と彼女の友達が同時に見ているとしよう。
俺にとって迷惑なケースで、周波数を大きく間違っているケースは、まず。
彼女が、友達に、
「わたしの彼氏ねっ! もうプロ野球選手ばりのすごいバッティングするのよー! ちょっと今度みせたいから一緒に、バッティングセンターいこうっ!」
といい、
一緒にバッティングセンターへ来て、俺が華麗な強打を放つたびに、
「ねぇ! ねぇ! すごいでしょ! どうどうっ!」
と騒ぎ立てるパターンだ。
これは、打っている俺の方からしても気が散るし、むしろ、なんだか恥ずかしくて、ふざけて、ファールを打ちたくなってくるような気持ちになる。
だが、最もカッコよく、集中して、彼女の友達に見せつけるパターン。
いや、よもやもう、彼女が必然的に、友達を呼んで打ってるところを見せつけるのは、もうそれは、狙いすぎているからだめである。
偶発的に、友達が偶然通りかかったところで、後ろにいる彼女が、
俺のバッティングを見て、、、、、
結果、何も言わない。
そう。
快心、快打、快音。
これらが鳴り響く中、
彼女は何も言わない。
普通ではないバッティングのそれが、いたって普通である、といったように、振る舞う。
これが、最も彼女の友達に、恐怖を与え、震えるような、驚きを与えるのではないだろうか。
おれは、それが好きだなぁ。
一番カッコいいと思う。
その光景が。
そんな妄想をしている中。
バッティングセンターで黙々とバットを振る俺の隣で。
もう一人、良いバッティングをする若僧がいた。
そいつは、俺にとってはどうでもいいはずだったが。
そいつは、彼女もちで、
彼女もそいつも俺を意識しているようで。
いや、本当は、意識をしているのは、俺なのかもしれなくて。
俺も、そいつも、黙々とバットを振り、快音を響かせる。
鋭くバットを振り抜く。
お互い、競いあっている訳ではないが、まるで競いあっているかのように、バッティングをする。
よもや、相手の人間も勝手に競わせて勘弁してくれよと思っているのか。
それは、もうわからないが。
ひとしきり、15球の対決を終え、終わった後に、
相手の彼女が、
「こっちの方が速いもんねぇ!」
なんて事を言ってる。
こっちの方が速いもんねという言葉。
俺が打っているバッティングゲージでの球速は110キロ。
隣の若僧が打っている球速は120キロ。
10キロほど、若僧の方が速かった。
まぁ、だからどうしたという話なんだ。
この場合、ほぼ互角の打撃を披露していた場合の勝者を決めるとしたら、10キロほど速い球を打っていた、若僧に軍配が上がるのか。
いや、そうじゃないだろう。
そもそも、ここで、こうして、バッティングセンターで黙々とボールを打つ意味。
誰かに何かをみせるとか。
誰かに何かを期待するとか。
誰かの期待に応えるとか。
そういうことじゃない。
目の前の白球。
ただただこれを打つのが楽しい。
楽しいからこそ、こうして足を運んでいるのではないのか?
いろんなことに、自問自答の声なげかけてみた。
俺に彼女が出来たら。
もし、綺麗な女の子の彼女が出来たら。
そんなの子を、あのダイハツの小さな小汚いオンボロ車の助手席に乗せて、ドライブするのか?
アイドルばりの綺麗な彼女の隣を俺なんかが歩いていいのか。
いや、きっと周囲は羨み、俺もきっと高い高揚感と優越感に浸って……
そんな事をしたら、周囲の奴らに、嫉妬されてしまうのではないのか……
いや……そうじゃないだろ。
間違っているよ。
俺は、バッティングセンターの打席の中で、次々と投じられるボールを見た。
次々とボールは、投げられるが。
俺は、バットを持ったまま打とうとしない。
ただただ見送るだけで。
そこで考えた。
男と女。
俺と彼女。
もし彼女が出来たとして、それはどうして出来て、どうして一緒にいるのか。
高い価値のある彼女がいる自分に価値がある。
そうじゃない。
周囲に羨ましく思われる自分に価値がある。
そうじゃない。
好きだと思える彼女がいるんだという事実。
それこそに価値がある。
そうじゃないのか。
周囲にどうこうとか。
そんなのはとてもくだらないもので。
ただただ目の前の好きな彼女が、好きなんだ。
ここにこそ大きな価値があるんだと思う。
本当の愛情。
本当の感情。
本当の誠実。
それを大好きな彼女に向けるのなら、周りのことなんてどうでもいい。
お互いがお互いを、好きもの同士でいるという事実、真実こそに。
そこに間違いのない、愛があるんだと思う。
俺は思った。
愛すべき存在が出来て。
守りたい存在が出来て。
その守りたい存在を、身を呈して、守り立ち向かってくる困難を俺は今後打ち返していけるのか。
困難には、痛みがある。
困難には、苦痛が生じる。
それらを覚悟して、俺は、今後出来るかもしれないであろう彼女を守ることが出来るのか?
それを考えた瞬間。
俺は、バッティングゲージを出た。
俺は、俺に戻ろう。
本当の自分の姿に。
化粧室へいった。
洗面所で顔を洗う。
していた化粧を一気に落とした。
鏡を見る。
自分の顔を。
そこに。
少年にもどったような、あどけない真実の自分の顔がある。
俺は、プロ野球選手ではない。
俺は、ブランド品ではない。
今後出来るかもしれない彼女も、ブランド品ではない。
木製バットから、金属バットへ、俺は、チェンジする。
金属バットは、高校野球や少年野球で使われる懐かしきバット。
これを持って打つと、なんだか、少年時代の真実の自分に立ち帰れる気がする。
金属バットを握り、再び、バッターボックスへ。
守りたい者を守るなら。
自分のこの身をかけて、困難を打ち返せ。
そんな声を感じる。
そこで俺は、100円を入れ、バット構える。
しかし、構えるその姿はいつもとはなんだか違う。
構えが違うというより、立ち位置がいつもと違う。
そう。
俺は、バッターボックスの右も左もどちらもどちらも使うように、バッターボックスを跨ぐようにバットを構えた。
この場合、投げられるボールに対して、正対するような感じになる。
即ち俺の体目がけてボールがくることになる。
困難というボールが。
困難という球が、俺目がけて、飛んでくる。
俺は、それを、落合博光ばりに、バッターボックスを跨いで、両足を屈伸させながら。
打ち返そうとする。
そこで、俺は、幾分の恐怖を感じるが。
しかし。
既にもうそこは男の目になっている。
バッターボックスを跨ぎながら、俺は、その球を怖がりつつもボールをなんとか当ててみる。
というか。
当たらなかった場合は、自分の体のどこかにボールがあたってしまう。
だから、必死にボールにバットを当てる必要がある。
自分の身を守るため。
この身をかけて。
大切な人を守るため。
彼女を守るため。
家族を守るため。
ボールへの恐怖心は少しずつなくなっていく。
1球目、2球目、3球目と、徐々に真正面から来る球を上手に俺は、打ち返してみる。
そうだ。
これだ。
これなんだ。
自分の身をかけて、痛みを恐れず、逃げないで、ボールに立ち向かっていく気持ちや思い。
この気持ち。
この感覚こそが。
きっと大切なんだ。
15球全ての球を俺は、正対した状態で無事打ち終えようやくわかったことがある。
人は物じゃない。
人は心をもった人間だ。
痛みも伴うし、恐怖だってある。
だけど、それらに対して、しっかりとした自分を。
確かな自分という意思を持って。
守りたい存在のために立ち向かえば。
たとえ奇跡は叶わなくても。
自分が手に入れたかった、本当の愛や。
本当の姿に。
なれるんじゃないかって。
そう考えながら、帰り際。
バッティングセンターの出入り口で、管理人さんに、危ない打ち方したらあかんよって。
注意を受けましたとさ。
おしまい。




