GP08 「空虚」
人数 97名
座標 60° 10km
傾斜 110° 8°
Darlingとはぐれた。分割画面でおおよその場所は分かる。Aeriallagが追ってるのは俺だ。
[…詰めるか?]
「トゥエルブさん!どうする?」
「好きにしていいよ」
物陰に隠れたDarlingの囮として、広い道路を駆ける。空中には付かず離れずでAeriallagが飛んでいて、機銃を撃ってくる。
「いい動きだな。名前は?」
「…Insight」
「いい名前だ。次からの優先ターゲットにInsightも入れるとするか」
Aeriallagの掃射を避ける。明らかに避けやすい機銃に被せるようにグレネードを入れてくる。跳躍しながら爆風を避ける。
Aeriallagはシミュレーション通りの攻撃をしてくる。まだ俺で遊んでいる動きだ。
「お前…何を積んでる?」
「何って?」
「その動き、普通のOSじゃないな。とんでもないプログラムを積んでいる。避け方があまりにも賢い。賢すぎる」
言っている意味が分からなかった。コメント欄もAeriallagに賛同している。
[…なるほどな。確かに他の機械共の動きは直線的だ。まるで上から吊るされてるかのようなぎこちなさを感じる]
機銃の掃射を盾で防ぐ。足を狙って来たそれに、Insightは的確に盾を置く。
「…有り得ねぇ。そこまで的確な着弾予測をするOSが存在するのか?」
「お前の撃ち方が下手くそなんじゃない?」
「ハッ…そういう事にしようか」
Aeriallagが低い位置に来た。何時でも詰められるように構える。
「なら確かめようぜ。Insight」
脚を付けた瞬間に詰める。直ぐにAeriallagは跳躍してビル壁を蹴る。カメラを向けた頃にはもう居ない。
横からアラート音。真上に飛ぶ。やらかしたと心の中で呟いて、アラートの方角に盾を構えた。
そこにAeriallagは居ない。横から強い衝撃。タックルを喰らう。
[なるほどな。人では出来ない戦いだ。面白い]
今そんな事を言ってる余裕はない。相手にカメラを向けた瞬間、正面からアラート音。グレネードだ。
スラスターに余裕がない。1度地面に付かなきゃブーストは出来ない。
「どうする!?」
返事がない。あくまで脳は俺だと徹底してる。どうにでもなれと盾で防ごうとすると、Insightはその盾をグレネードに向かって投げつけた。
「何が起きた?」
[言ったはずだシュリ。俺を上手く使え。出来のいい操り人形を演じてやろう]
爆風で視界が遮られる。でも確かに前に居る。俺の勘だ。
「…じゃあ行くよ!」
爆風を突っ切って前に出る。Aeriallagは居ない。音は上からした。
「ますます気に入った。お前、次は俺と組まないか?」
「どうかな?幾ら出す?」
「俺を殺せたら言い値だ」
お互いがお互いの視界から外れる為にビル壁を蹴る。近づいた一瞬で攻撃を入力するが、それよりも早くAeriallagは避ける。
相手の方が有利だ。でもそれだけじゃない。俺の入力が遅い。
細々とした弾丸を喰らってしまっている。サイトウが装甲で受け止めてくれているから何ともないだけだ。
Aeriallagの銃口が俺を捉えた。胸の奥が締め付けられる感覚がある。スラスターが動かない。スラスター管理をミスした。
咄嗟に盾の入力をするが盾は投げたばかりだ。Insightは右手の銃剣で弾丸を防いだ。
「そんなプログラムもあるのかよ…!」
「クソが!」
射撃が横から入る。Darlingだ。Aeriallagは掠る程度で抑えて距離をとる。
「狸か保護者になるとはな」
「初心者に何ムキになってんの」
「良いパイロットじゃねぇか。経験を積めればこれからドンドン伸びるぜ。こいつは」
違う、俺じゃない。今のはサイトウが強かっただけで、俺だけなら死んでた。
操縦桿を握る手が重くなる。
地面が僅かに傾く。Aeriallagが高く飛んだ。
「逃げるぜ。じゃあな」
「待てよ!!」
「やだね。追いかけてくるか?」
「シュリ、引くよ」
「なんで!?」
「暴れすぎた。漁夫が来てる」
ペダルを踏もうとして、床を蹴った。コメント欄は、周りに機体が集まってきてる事を教えてくれている。
Aeriallagを狙った銃撃を、Aeriallagはあっさり避けながら離れていく。本当にすぐそこまで来ていた。
「漁夫来てる!結構居るよ!」
「熱すぎる 邪魔すんなよなマジ」
「Insightのチャンネルある?」
「まじでなんのOS?最新型なのかな」
爛れた盾を拾ってDarlingについて行く。心臓が痛い。同接が増えるのとは反対に、心臓は落ち着きを取り戻していく。
「ノマドの方行かないでね」
「……分かってますよ」
サイトウの事だ。俺の事じゃないのはすぐに分かった。トゥエルブは配信用に言葉を繕っただけだ。
音が近い。3機以上居る。ここでやり合えば余計に体力を削るだけだ。
今は逃げるしかない。分かっているのに、心は後ろを向いていた。
楽しいんだ。あのドキドキは盗みに入っていた時とはレベルが違う。
もう一度、あの感覚を味わいたい。次は絶対勝ってやる。
地面の傾斜が少しずつ元に戻ってきている。初動が落ち着いたらしい。Darlingと1度物陰に隠れる。トゥエルブがコメントに話しかける。
「…ランカー、今近いの誰?」
しばらくして、コメントが賑わう。
「Scale Rainがいちばん近い」
「Scale Rainだな 相性悪くないか?」
「Melt居るじゃん おもろ」
「まだランカー誰も死んでないな」
「割と混戦してる 抜けた方がいいな」
水を飲みながら流れるコメントを見る。長い息を吐いて周囲を見渡す。
遠くの方で戦闘音が聴こえる。もう少し遅ければあの中に居たんだ。
羨ましい。俺も戦いたい。
「どうしよっか?シュリ」
「え?俺ですか?」
「そう。正直どこ行こうか悩んでるからさ、まだどこ行っても敵はいるし」
コメントが加速している。理由は俺が一人称を俺って言ったからだ。でも今は、そんな事はどうでもいい。
「…もう一度戦いたいっす。さっきの感覚を、ちゃんと俺のものにしたい」
「…OK。じゃあ頃合い見て、私らも漁夫りに行きますか」
小さくガッツポーズをした。自分の口角が上がっていることに気づく。
UIの人数が1人減った。コメント欄があの戦場の数が減っている事を教えてくれる。
「行くよ」
「はい!」
ブーストを吹かす。Darlingの前に立って先陣を切る。
4機が撃ち合っている所に割り込んで、目先の一機に高速で突っ込んだ。
振り下ろした銃剣は、相手の背部を大きく潰す。
格闘は強い。銃撃はどうしても、装甲に守られると致命打は与えられないが、質量のある武器はそれを無視する。
それ故に重い。それに接近はどうしてもリスクが大きい。それに、生半可なOSじゃコックピットを壊しかねない。
後ろに下がる。背部を潰しただけじゃGPは止まらない。厄介だと思ってしまう。
後ろから銃撃が入り、相手の頭が吹き飛んだ。Darlingのライフルだ。動きの鈍くなった相手なら、狙った一撃は容易らしい。俺には無理だ。
地面が傾く。既に下になっていた俺らの位置が、更に少し下がる。
「シュリ。この3機だけじゃないって」
「…いいですね」
操縦桿を持ち直す。作戦は無い。ただ思いつくままに、接近して殺す。
[久方ぶりの合戦だな。興が乗るといいが]




