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GP07 「産声」

人数 126名

座標 090° 15km

傾斜 0°  0°

薄暗く狭いコックピットの中で胸に手を当てる。サブモニターに映ったコメント欄は、トゥエルブの配信だ。


「分割画面だ」

「男か?」

「デュオは熱い…いや男なら冷める」

「オッズ上がってて草」

「今配信してない参加者誰だ?」


トゥエルブの声が配信から聞こえる。


「あ、あ、聞こえますかー?」


コメント欄が反応する。同接がどんどん伸びるにつれ、心臓の鼓動も大きくなる。


「今日はデュオでーす。挨拶どうぞ」


話題が振られる。唾を飲み込んで声を出す。


「えっと、シ、シュリです。機体名Insight。よろしくお願いします!」


コメント欄が更に加速する。


「よろしく!」

「若くね?」

「ショタならええか」

「ロリか?最高かよ」

「初心者じゃん」


「…緊張してる?」


「まぁ、はい」


「シュリなら大丈夫。Insightもよろしくね」


[…俺の事か]


耳に付けたイヤホンからサイトウが話すが、もちろん俺以外には聴こえてない。コメント欄がぬるい歓声を語り出した頃、目の前のランプが赤く点灯した。準備の合図だ。


トゥエルブの方からガチャリと音が鳴る。いつものらしいそのルーティンを聴きながら、操縦桿の握り具合や、足元のペダルの踏み心地を確認する。


[シュリ、戦の基本を教えてやろう]


返事はせずに、小さく頷く。


[最適よりも、最速だ。俺を上手く使え]


目を閉じて小さく息を吐くと、少し落ち着いてきた。抑揚の無い機械音声が聞こえる。


[登録コード確認。交戦申請を許可します]


「…やってやりますか」


ランプが青色に光り、床が抜けた。眩しさに目を細める。


何処までも続く青色の世界の真下に、巨大な灰色の天盤都市が浮かんでいる。

配信で見ていた時とはまるで違う気がした。


全天音声から、包み込むような風を切る音が響く。空には同じように降りる機体が彗星のように無数にあった。


その彗星のひとつが空中に留まり、他の機体を攻撃し始めた。


「…良かった、Aeriallagと近くなくて」


この前見た動画でトゥエルブと戦っていたランカー。燃費のいいブースターを使い空中から撃ち下ろす戦術を用いる好戦的なタイプだ。


地面が近づいてくる。近くに降りた相手機体は2機。横のトゥエルブのDarlingが先に地面に降りる。続けて俺のInsightも地面に着いた。


機体の周りに、離れてドローンが飛んでいる。撮影用の物だ。よく見たら、見渡せる場所のあらゆる所にドローンが居る。

カメラはこちらを見ているようで見ていない。索敵には使えなさそうだ。


機体のモニターにマップは無い。レーダーも無い。相手の位置を知るには、周囲の音や傾きと。

それから、公式配信を見ているコメントの善意だけだ。


「…来るよ」


足音がする、数は1。まだビルの裏だ。


Darlingは動かずにライフルを構えている。Darlingの射線とは別の影に、俺もカメラを向けた。


相手の機体が勢いよく飛び出してきた。横移動する相手機体に照準がブレる。格闘特化のロックオンは照準速度が遅い。


[動け]


推力を上げて加速する。相手の銃撃が横に逸れた。Darlingも動き出す。


Darlingの牽制射撃を、相手機体が躱していく。俺の役割はとにかく近づく事だ。


俺が距離を詰めようと少し前に進んだ瞬間、相手が一気にブーストを吹かして近付いてきた。思わず後ろに下がる。


タックルを避けて、すかさず格闘を入力する。右手の銃剣の突きが相手の頭を掠めた。


[…やはり胴以外は小さい。当てにくいな]


相手が距離を取るのに合わせて、Darlingの射撃が相手に命中する。不利と判断した相手機体がビルに隠れた。音が遠ざかっていく。


Insightの右手に装備しているのは、質量系の銃剣だ。重さで切り伏せる散弾銃内蔵のこの武器は、サイトウとは相性が悪い。


では何故持ってきたか。サイトウにブレーキを踏ませる為だ。


サイトウは強い。でもそれは殺しの強さだ。ピボットゲームは殺しをマナー違反としている。


視聴者の低下や、企業と契約している参加者は、故意の殺人は契約を切られる事も当然だと、ロギから教わった。


今はまだ相手のコックピットを避けてるけれど、数が増えた時、軽い武器ではサイトウは的確にコックピットを狙う。


色んな武器をシミュレーションで試した結果、コックピットを狙わずに1番撃破数の高いのがこれだった。


「武器のチョイスが尖ってる」

「動きが高性能過ぎる。武器代ケチった?」

「これは楽しみ」


遠ざかっていた音が、建物を周ってくる。トゥエルブは既に、音の方角に照準を合わせている。


少し跳んで、ビル壁を蹴り上げた。出来るだけブーストの音を出さないように、相手が出てくる場所に飛ぶ。


目の前角から、相手が顔を出した。コメント欄に短い言葉が並ぶ。相手の銃口が俺を向く。だが俺の目線は、常に相手の胴だ。


[…心得た]


慣性で落ちるInsightは、相手の弾を逸らす。大きく横に振りかぶった銃剣は、相手の腿を潰した。


金属が砕ける音と共に、相手の機体が横に回りながら地面に激突した。


コックピットのある胴体は、腕のフレームがクッションになり形を保っていた。Insightが着地する。


[やれやれ…慣れないな]


始まる前に、サイトウと決めていた。俺は殺す気で入力する。サイトウは殺さない位置を狙う。


「さすが」


「あ、ありがとうございます」


UIを見る。初めは126人だったのが、もう100人を切っていた。コメント欄の俺を称える言葉がこそばゆい。


落とした相手機体が微かに動いた。ハッチが開いて、中の人と目が合う。


年上の男性に恨みの感情は無かった。深呼吸をひとつした後、何事も無かったようにコックピットに戻っていく。


「…倒されたあとって、どうするんですか?」


「救助まで待機。まぁハーフタイムまですぐだよ」


壊れたGPのコックピットが閉じる。それと同じくして、地面が傾いた。


画面のUIが動く。傾斜は110° 10°


「近いね。乱戦になる前に動こっか」


「はい」


微かに地面が揺れる感覚があった。今しがた誰か壊れたんだ。傾斜の数値が1上がる。


遠くで、下に向かって飛んでいく機体が見えた。こちらに気づいている様子は無かった。


「今人が居ない座標ってどの辺り?」


トゥエルブが声をかけると、直ぐにコメントが反応した。ところどころに、下になった座標を書く人が居る。これが嘘な事は俺でも分かる。


「20°が1番少ない」

「20°かな?でも道のりには多い」

「100°だよ」

「まだどこいってもかち合いそう」

「ランカーが居ないのは真逆だね」


「ありがと、じゃあ行こっか」


Darlingが進み出したのは330°の方角だった。ランカーの居ない方を選んだ。俺もそれに続く。


流れるコメントの中に機体名らしい文字があった。Aeriallag。確かにそう書いてあった。


「…探しに来たね。ウザ」


「どうするんですか?やり合います?」


「まさか。バレない限り逃げるよ。跳ばないでね」


「はい」


最小限の音で傾斜を横に進む。周囲に機体の気配は無い。


「…ノマドが近付いたら教えてね」


「はーい」

「鳩行ってきます」

「もう結構近いよ」

「トゥエルブの事好きだよな」


「まぁ、負けたら握手くらいはしてあげよっか。嫌だけど」


「そいつは嬉しいな。前みたいに握る腕があるといいなぁ」


知らない声が入ってきた。アラート音。空中に居るのはAeriallagだ。


飛んできた弾丸を、左手に装備した実体盾で防ぐ。軽い衝撃が伝わってくる。

トゥエルブの舌打ちがブースト音で掻き消えた。

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