表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

GP05 「身体」

人混みから抜け出して駐車場に出る。大きな声で会話する男の人達や、少し俯いてるおっさん。


手元には、Darlingに賭けたチケット。


見事12位で終わらせた時の配信の盛り上がりは最高だった。

何となく記念にしたくて、払戻金を受け取らずにチケットを持って帰る事にした。


「私も初めて当てた券は持ってたなぁ」


「今は?」


「多分ある。はず」


話しながら、ロギは端末を操作する。すっかり夕方の空は、少しずつ黒くなり始めていた。


あの場所に、いつか自分が降りる。そのワクワクが収まらない。


「知り合いに連絡付いたから、こっからフレーム見に行こっか」


「マジで!?」


「いいねぇ、乗り気じゃん」


「もちろん!」




さっきのスタジアムと同じくらい大きな建物にトラックが停まる。すっかり暗くなった外と反対に、中は明るくて鉄の匂いがした。


いつもの工場の数倍の広さのガレージの中に、沢山のGPフレームが並んでいる。


「そいつが新入りか」


話しかけてきた男は腰を下げて俺に目線を合わせてくる。


「ワイはナハト。ロギの先輩やと思ってくれてええわ」


目を細めて笑うナハトは、前髪を上げててっぺんで縛った。


「何系で行く?」


「近接仕様の2脚がいい」


「またロマン思考か?Darlingもそうやったやんけ」


ロギはなんて事ない顔で続ける。


「今度はちょっと違うよ」


「まぁポツポツ新型は出とるで、ゆっくり見てくれ。いや、朝までには終わってくれよ」


「旧世代型は流石に無い?」


「無くはないけど、どうせDarlingの予備やろ?こいつにまで同じの使ってたらすぐ底を尽きるで」


ナハトが歩き出す。後ろをロギと一緒に付いて行く。




1機目のフレームの前に立つ。がっしりとした体格で、Darlingよりも少しだけ背が低い。


「いっちゃん最新のはこれやな。一撃の重さに振ってるまさにロマンフレームや」


ロギが近寄って観察する。


「耐久性は微妙だね。可動域もそこまで無さそう」


「攻撃速度に寄せてあるからな。そもそも今どき格闘戦で可動域使う武器なんて使わんやろ?」


「いや、使うのはブレードだよ」


横にいるナハトがロギと俺を交互に見る。


「こいつが?そんな上手いんけ?」


「言ったでしょ?事情があるの」


ナハトがしゃがんで耳打ちしてくる。


「まぁ実際どうあれ、いちばんは見た目や。お前さんがカッチョイイと思えるもん乗った方がええ」


「それで勝てるの?」


「ピボットゲームは負け方の美学や。100人以上居る参加者から1位になるなんてのは、考えん方がええよ」


実際、トゥエルブは1位に拘ってなかった。それでもあれだけの人気になるのだから、1位になる事は必ずしも優位になる訳では無いのだろう。


ロギがこっちに戻ってくる。


「次、見して」




移動中に足が止まった。そのGPフレームを見上げる。


「…ロギ、ちょいまち」


ナハトが俺の横に立つ。今までの営業スマイルじゃなかった。


「これか?」


「…これは?」


スラッとした上半身に、少し太めの脚。何より頭がかっこよかった。Darlingに似た複眼で、睨みつけるようなデザインが目に焼き付いた。


「1個前の世代の近距離奇襲型やな」


ロギがフレームを見上げる。


「スレッジマンか」


「おもろい趣味しとるでこいつ」


「強いのか?」


「全然」


ナハトが肩をすくめる。


「積載量に物を言わせるタイプやな。前にこれ乗ってた奴は色んな武器転がしてハーフタイム突破してたけどな、万能型のOSは如何せん性能が悪い。器用貧乏ってとこやな」


その評価は、貶しと言うより期待だった。こいつの運用の仕方を模索している感じだ。


「目に止まった理由はなんや?」


「サイトウっぽいなって」


「サイトウ?」


ロギがナハトに質問する。


「胴体だけ旧世代にしたい。在庫はどれくらいある?」


「たんまり。トゥエルブちゃんが健気なおかげで手脚フレームだけ少ないで」


「だろうね」


「…なるほどな。そっちで調整するやろ?もちろん」


「仮のデータは出せる?」


「見学して待っとってくれ」


俺が立ち止まっただけで、勢い良く進む話に困惑する。

どこかに歩いていったナハトの背中を見送る。


「いいのか?」


「ま、別にこのフレームは高くないし。ナハトは安くしてくれるからね」


「なんで?」


「トゥエルブを推してるから」


ロギが指を指す壁に、Darlingの機体が描かれたポスターが貼ってある。右下にあるのはトゥエルブのエンブレムだ。


大きく描かれた12の後ろに、狸のイラストがある。


「あれ描いたのもナハト」


戻ってきたナハトが端末をロギに見せる。ロギはそれを見ながら唸る。


「これなら実体剣入れても、まだ武装は乗るで。武器も探すけ?」


「肘付けの機関銃とかある?」


「豆鉄砲やないか。もっと火力無いとキツいで?まじで剣だけで行くんか?」


「Darlingの対だから」


「デュオやったか。それなら腕よりもおもろいもんあるで」




デスクの上に置かれた契約書に目を落とす。俺の頭では文字は読めない。


「ここにお前さんの名前と、登録する機体名書いてくれ。ピボットゲームへの申請はこっちでやったるで」


ペンを受け取る。教えてもらった自分の名前と、機体名を書いた


パイロット シュリ

機体名 Insight


「ええ名前やな」


ナハトが笑う。意図は分からない。契約書を受け取る。


「ほなパーツは工場に郵送しとくわ。これ大事に持っときや」


「ありがとう」


「活躍期待しとるで、シュリ」


「…おう」


手続きが終わり、ロギのトラックに揺れる。支払いの半分はロギが持ってくれた。もう半分は後払いだ。


少しだけ不安になった。ゲームの事じゃない。金の事だ。

ハンバーガーすら贅沢だったはずが、ここ数日でとてつもない人と金の動きを見た。


家のない時代とは違う重荷が、たった今全身にのしかかった。それを分かりやすくしたのが金なんだ。


なんて不安も、深夜に届いたパーツの興奮にすっかり掻き消された。


バラされたフレームと武装を搬入して、胴体フレームを吊るす。

上から固定している鎖が微かに音を立てる。


フレームは黒くてスラッとしていてでもガッチリしている。


「…乗る?」


「乗る!」


まだ胴体しかないフレームに、リフトでコックピットに乗り込む。座席にはビニールがかかっていて、ほんのりゴムの匂いがした。


勢いよくビニールを剥がし、座席に座る。高さや位置を調整して、操縦桿を握った。


シミュレーションの時と同じなはずなのに、違う。

まだモニターも起動していないのに、脳が映像を想像した。


ロギがOSを持ってきた。教えて貰いながら、コックピットからOSを接続する。


メインシステムを起動する。サブモニターが付いて、OSの読み込みを開始した。


[ほう。これが]


「サイトウの身体。どう?」


[どうだろうな。やってみなければわからん]


モニターは正常に接続されたと表示する。その後はロギに色々教わりながら、フレームを組み上げていく。


仮接続が済んだ頃に入口から音がして、Darlingが帰ってきた。時計は深夜を指している。


ドッグに繋げたDarlingからトゥエルブが降りてくる。

半泣きのトゥエルブに、ロギは普通に接する。


「お疲れ、派手にやったね」


Darlingは左腕のフレームが無くなっていて、右腕の方はボロボロだ。

配信で見ていたけれど、最後まで目が離せなかった。Darlingを愛しているトゥエルブには悪いが、あの試合を面白かったと感じたのも事実だ。


半分吊られたInsightを見る。まだ新品のこいつも、これからDarlingのようになるんだ。

戦いの中で自分色に汚していく事を想像すると、楽しみで今夜は眠れそうにない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ