GP04 「熱」
朝起きて、顔を洗う。
ロギの仕事を手伝って昼食を取る。
昼過ぎに起きてきたトゥエルブの世話をする。
ロギと市場に買い出しに行って、夕方から掃除をした後にシミュレーション訓練をする。
その日のロギのメールボックスに、トゥエルブ宛のメールが入った。
件名は"ピボットゲーム参加について"
中身は、ランカーのトゥエルブへの優先参加権利だった。
「あんたが入る時は抽選だよ」
隣のロギが笑う。午前中の仕事を終わらせて、起きてきたトゥエルブにロギが尋ねる。
「今週のゲームはどうする?」
殆ど開いてない目を擦って、もごもごとトゥエルブは応える。
「んんー…出るよ」
「おっけー」
軽い会話をしながらロギは手元の端末を操作する。
その日の買い出し、ロギはトラックを持ち出していつもと違う所に入った。俺の腕の長さ程はある色んな種類の弾丸が並んでいる。
「いらっしゃい」
「いつもの頼むよ。弾丸は満タンの7割、ミサイルは4割でいいよ」
「あいよ」
店は物騒な物が並んでいる割に綺麗に整っている。ロギが渡された書類に書き込んで店員に渡した。
「待ってな」
そう言って紙を取って、店員は奥に消える。待ち時間になった。
「100%じゃないの?」
「前回の余りがあるからね」
前回とは、この前見た切り抜き動画だろうか。弾をどれだけ使ってたかなんて、気にした事が無かった。
しばらくして戻ってきた店員とロギが数口会話をして店を出る。戻った時のトラックには、大きな弾丸が無造作に積められていた。
「これ安全なん?」
「この規模の弾丸なら、この衝撃じゃ何ともないよ」
他に積んである箱は、大きさ的にミサイルだ。1個間違えば爆発するその危険性に唾を飲み込む。
トラックが揺れる度にチャラチャラと音を立てる荷台にビクビクするが、ロギの運転は変わらない。
工場に戻ってトラックを寄せる。先にミサイルを下ろして、弾丸をコンベアーに落としていく。
流れる弾丸が揃っていき、弾倉に詰められていく。
なんだか見ていて気持ちいい。満タンになった弾倉を取り出し、新しい空の弾倉をセットする。
俺が弾込めをしている間に、ロギとトゥエルブがDarlingの調整を終わらせていた。
「終わった?」
「はい」
「さすが」
明日のゲームの用意が整った深夜頃、工場に大型のトラックが来た。綺麗な作業着を着た大人が出てくる。
Darlingと俺が弾を込めた武器とトゥエルブをトラックに移す。
これから戦いに行くとは思えないほど、トゥエルブはケロッとしている。
「じゃーねー」
「はいはい。行ってら」
軽く手を振るトゥエルブを、ロギと見送る。静かになった郊外でロギが伸びをする。
「お疲れ様。ありがとね」
「別に」
そう言いつつ欠伸をする。夜まで働くのは今日が初めてだった。今日はもうトレーニングのやる気も起きない。
「明日は休んで、スタジアムに行こっか」
「スタジアム?」
「ピボットゲーム公式の観戦スタジアム」
ロギのトラックで長いこと走り、綺麗で大きな街に入る。その中でも一際大きな建物の駐車場にトラックを停めた。
既に沢山の人が集まっている。男も女も、老いも若いもごちゃ混ぜだった。
「すげぇ…」
「今日はちょっと少ないかな?」
「これで?」
ロギが歩きながら端末を操作する。
「今日の出場ランカーは6人だね。いつもの半分位かな」
スタジアムの中は、初めに長い通路に沢山の売店が並んでいる。食べ物飲み物を持った人達が入り乱れて、それぞれが語り合っている。
話題はもちろんピボットゲームだ。
大きなディスプレイに、今日の出場機体の一覧が出ていた。ランカーらしい機体には〇の印がある。
今日の参加人数は114人。
No.19 機体名 Darling オッズは2.11
「あれ?この前は2.08だったよな?」
「あれは総合基準値。今回は相性悪いっぽい」
売店はまだ人が多いから、先に券売機に向かった。色んな人が手元の端末を睨みながら、紙に丸を書いている。
「なんか賭ける?」
そう言いながらロギが用紙を持ってきた。無数の丸が書かれた紙に、ロギが鉛筆で丸を塗りつぶす。
「何に賭ければいいの?」
「好きなのでいいよ。この名前いいなとか、かっこいい機体だなとか、そんなもん。勝ちたいなら今からみっちり調べないと無理だよ」
言わんとする事は分かる。この114人の中から、誰が何位になるかなんて、途方もない確率だ。
受け取った紙と、参加一覧を見比べて、トゥエルブの番号の19番を塗る。
順位予想はもちろん12位だ。
ロギが通してくれた券売機から出たチケットを貰う。Darlingの文字が書かれたそのチケットがワクワク感を押し上げてくる。
紙を見て歩いてると、前から来る人にぶつかりそうになって慌てて避ける。
売店に行って、ハンバーガーを買う。ロギはポップコーンだ。
「席探すかぁ。空いてるといいけど」
ド真ん中に円柱のディスプレイがあり、その周りに四角いディスプレイが浮かんでいて、円柱の周りを回っている。
ちょうど2人分空いている席に座る。俺の隣は小太りのおじさんで、前にはベビーカーに乗った子供と家族が座っている。
通路を歩く人が少しずつ少なくなっていき、立ちながらの人も出てきた。男女が手を繋いで通路で立って、真ん中のディスプレイを見ている。
ロギが端末を前に置いてくれた。画面は黒く、横のコメント欄が目まぐるしく流れていく。
トゥエルブの配信だ。
「わくわく」
「今日は何位だろう」
「待機」
「ダーリンに2万賭けたわ」
「初見です」
天井からアナウンスが流れ出した。それと同時に中央ディスプレイが光だす。
参加者一覧と、円盤のマップが円柱をクルクルと回っている。
端末の配信の画面が着いて、プロペラの音が微かに聞こえる。コメント欄が加速する。
画面のトゥエルブが喋り出す。
「あ、あ、聞こえますか〜?」
コメント欄は半分が音声確認、もう半分がピンク色の声援だった。
「やっぱ今日は視聴者数多いね」
横のロギが乗り出す。右下の数は62万と出ている。
「…62万人?」
「世界規模だしね。こんなもん」
ここのスタジアム全員でも、その10分の1も行かないだろう。
画面から機械の起動音がして、ガチャリと接続する音がする。
トゥエルブがモゾモゾとして、ゆっくりと息を吐いた。
「いつもの」
「エロい」
「これを見に来た」
「まずいですよ」
流れるコメントを見てロギが呆れる。
「変態には変態が寄り付くんだね」
隣のおっさんの端末には、違う人の配信が流れている。トゥエルブと違ってその男性配信者は顔を出していた。
切り抜きで聞いた小粋なファンファーレが流れて、一斉にスタジアムに歓声が轟く。耳が痛い。
今からピボットゲームが始まる。
コメント欄の勢いも増してきた。メインモニターが付いてガレージが映る。
「じゃ、行きますか」
端末のトゥエルブがそう意気込む。目の前のガレージに赤色のランプが付いた。
スタジアム中央のモニターにカウントダウンがはいった。
3、2、1…
[登録コード確認。交戦申請を許可します]
ランプが青色になると同時に、トゥエルブの画面が明るくなる。
空から落ちるDarlingの視点は、真下にある巨大な灰色の丸い都市だ。
スタジアム中の人が声を上げた。俺は声こそ上げなかったけれど、その心意気はみんなと同じだった。
風を切って降下するDarlingが横で降りているGPを画面に捉えた。




