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GP25「潔白」

真っ白な部屋に着いたどデカい窓の向こうには、同じように白い建物と、あまりにも綺麗な青空があった。


上昇し続ける景色に少しずつ意識が遠のき、目が覚めたらここに居た。床に置かれた雑な布団から身体を起こす。


[おはようございます!シュリさん]


呼ばれて驚く。部屋の隅の机に、ふたつの機械が置かれていた。サイトウとペクトゥスだ。


「ここは?」


[シュリさんが気絶した後、高度1500mまで上昇した後、私達はここに来ましたよ!]


[昔説法にあった死後の世界が、こんなだったな]


「死後に世界なんてあるの?」


[人は死後極楽に往く為に、現世で善行を積むのだ]


[変わった考え方ですね!私のデータベースにはそのような情報はありませんが]


[お前のデータベースは信用ならん]


[そんな事はありません!常にネットワークで情報を更新しているんですから!あなたの考え方が稀有なだけですよぉ]


俺もそういう話は聞いた事がない。少なくともロギやトゥエルブはそんな話はしないし、街に出た時もそんな話は見なかった。


音がしてそちらを向く。真っ白な壁があったところがドアみたいに開いて、サングラスをかけた男が入ってきた。


「身体は大丈夫かい?どこか変なとこは無いかい?」


「…誰だよ」


サングラスを外した男の顔は、ショッピングモールで俺に警告をしてきた男と同じ顔だった。


「私はヨシダ。まぁMeltと言えば分かるかな?」


[…ほう、吉田か。お前日ノ本の人間か?]


「君には振り回されてばかりだ」


「ちょっと待ってくれ!…Meltは女だろ?」


「変声機を使えば、声はいくらでも変えられる」


言葉が出てこない。質問する事が多すぎて何から聞けばいいか分からない。


「まぁ…長い話は嫌いじゃないが、今は時間がない。さっさと本題に行こうか」


ヨシダが床を触ると、下からふたつ椅子が出てきた。そこに座るように促されるので従う。


「…君、あの時なんで人を殺した」


「気になったんだ。殺すなとは言われてきたけど、殺したら俺はどう思うんだろうって」


「で?その答えは?」


「別に、他の別れと対して違わない…いや、話せたから、俺的には良かったよ。でも、殺しがダメな理由の本質はよく分からないな」


「そうだろうね。そんなものは無いから」


ヨシダは足を組んで俺の目を見た。


「人々は別れを惜しむんじゃない。自分の不完全燃焼を惜しむんだ。もっと話せば良かった。もっとしてやれた事があった。そういう気持ちが無尽蔵に湧く限り、普通の人は死を嫌う」


「俺が普通じゃないと?」


「もちろん。ただそれは、君に始まった事じゃない。そういう人たちは相応に居る」


確かに俺は、ギルに対して今後悔は無かった。それなのに、ココの事を思い出すと、頭にノイズが走る感覚がある。


そこに死があったかどうかで、もう会えない事に変わりはない。

もしもココに会ったところで、俺の望む未来は無い。


「世間の普通の生活をしていると、どうにもそこが麻痺する。彼らは自身の能力を高く見すぎて居るんだよ。もっとこう出来た、なんて言って、本当に出来た奴なんて極わずかさ」


「じゃあ、俺は正しいのか?」


「いいや、正しさは多数派だ。君は間違ってる」


返事をしようと口を開けた時、ヨシダが続けた。


「だがそれも、間違いじゃなくなる未来が近い。あのゲームでその価値観が壊れつつあるからね」


「戦争ってやつか」


ため息を着いたヨシダが窓の方を見た。空の向こうの青空に見える雲が流れていく。雲は、一体何で出来ているんだろう。そんな事を考える。


「俺の何がおかしいんだ?」


「人は向上心の生き物だ。技術も、後悔も、そこから生まれる。ただ…君を見ていると、人への後悔が薄いように見える」


「…そんな事は無い。俺は、好きな人とちゃんと話せなくて、今も悶々としてる」


「なるほど。つまり君は、自分が納得できれば、そこに死があっても構わないんだ」


言葉に詰まる。理解できると思うのが嫌だった。でもどこか、表層を撫でるだけな気がして、反論を考えようとする。


何も言えない俺を見て、ヨシダが立ち上がる。


「…少し歩こうか」


サイトウとペクトゥスを置いて廊下に出た。相変わらずバカでかい窓の向こうは綺麗な青空と、同じように真っ白で歪な建物が並んでいる。


汚いはずの俺の靴の跡が床につかない。平然と歩くヨシダに追いつく。


「ここ何?」


「どこから説明すれば、君に伝わるかな?まぁ端的に言えば、旧文明の高高度爆撃用ステルス都市だね」


「…爆撃?」


「昔の戦争の遺物さ。君の思う戦争がどうかは知らないけど、空の上から爆弾を延々と撒き散らして、顔も知らない人を見下ろして殺し続けたのさ」


「…空の上?昔の戦争?」


「あぁ、人類は数百年前、超技術で世界を焼け野原にした。これはその時からある兵器で、あのピボットテーブルはその技術の応用だ」


歩いていた通路が曲がり角に来た。その角に付いた窓の向こうは、上に広がる青と、下に広がる雲の更に下に、微かに青が見えた。


初めてピボットテーブルに降りた時の事を思い出す。


「…なぁ、ずっと昔の戦争だって言ったよな」


「そうだね」


「なんであんたは詳しいんだ?」


「それは、直接ここで見たからね」


ヨシダがチラリと俺を見て、口角だけを吊り上げた。


雲が流れて、海が見えなくなると、ヨシダはまた歩き出した。


「さっき、数百年前って言ったよな?」


「あぁ、そうだね」


「ずっと生きてるのか?」


「そうだよ」


「…なんの為に?」


「そこは普通、どうやって生きてるのとかでしょ」


「…いや、こんな建物があるんだ。どうせ俺の知らない話だろ。それでも生きて、ゲームに参加して、性別を偽った理由はなんだ?」


「戦争を止める為さ、嘘じゃない」


「まだなんも言ってない」


「正直、僕も疲れたんだ。何百年も火種を消して回ってきた。世界を良くするまで死ねないと、そう言い聞かせてきたんだ」


「…あんたがあのゲームを?」


「いいや、同じように死ねない人は、まだこの世界に潜んでる。みんな目的は同じだけど、それぞれやり方が違う。あれは最高の成功だと、みんな思ってたんだけどね」


どこまでも続いているように見える白い建物を、目的も無く歩く。


「…俺か」


「君は引き金に過ぎない。僕らは、理由が無ければ戦争は起きないと思っていた。戦う別の理由さえそこにあれば、皆は戦争をしないと」


階段を登る。足音は俺とヨシダの二人しか無い。


「でも今、理由も無いのに、人々は戦争を見据えている。戦う準備だけが進みすぎたんだ」


広い空間に出た。壁に飾られた緑と青の絵を眺める。


「…これは?」


「世界地図さ、昔のね。今じゃ爆撃で陸が減り、国境も無い」


「国境?」


「昔は国って言う土地を分けたシステムがあって、その国同士が戦争をしてた。今じゃ国連という名前だけが、形骸化して残ったけど」


「じゃあ、もう戦争はしないのか?」


「そうだと思ってるんだけど、分からなくなった」


ヨシダは絵に触れる。何も起きない。緑と青の絵は他とは浮いていて、これだけが古い。


「…俺をここに連れてきた理由は?」


「トゥエルブを救って欲しい」


「…は?」


「近いうち、ピボットゲームは終わる。数百年ぶりにこの都市本来の使い方をする。広大な海の上で、君たちは取り残される運命にある。そうする。だからトゥエルブが参加するのを止めてくれ」

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