表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/26

GP23 「屋根」

母親の顔は覚えてない。少なくとも、立てる頃までは育てて貰っているはずだ。そうでなきゃ俺は、誰も助けてくれない町の隅では生きていけない。


何回目かの冬を越えた頃には、俺と同じ家無しの知り合いは50を超えていたと思う。文字や教養は無かったけど、数字は金だから覚えたし、言葉は仲間とのコミュニケーションで自然と身についた。


持ち金が多くて自分のテリトリーを持っている奴は、大抵大人に見つかるか、新しい盗みの候補に入った。

だから誰も、下手に稼ごうなんてしない。自然と仲間意識があった。


そんな状態では、人をまとめて状況を素早く判断出来るような天才は貴重だった。

そういう奴は大体自分の名前があって、それが頭の証みたいなものだった。


『俺の事はリーダーって呼んでくれて構わねぇ!』


路地裏で集まった俺含めた数人の前で、リーダーはそう高らかに言った。


『俺も頭は良くねぇからさ!お前らと一緒に盗みに行きたいんだ!人が多い方が成功しやすいからな!』


色んな頭を転々とするのが日常の俺たちにとって、名前を持たないリーダーは少し異色だった。

でもリーダーのその気さくな感じが喋りやすく、体の大きさもあまり変わらない俺たちはすぐに仲良くなった。


週に1回この路地裏に集まって、工場や商店に忍び込んでは、大笑いして逃げ出すリーダーの背中を追っかけているうちに、何だかみんなも笑ってしまった。


身近な話もしないし、大した夢も無い。それが俺たちの日常だった。


そんなある日、リーダーが路地裏で俺たちに食べ物を見せてきた。


『ハンバーガーって言うんだってよ!みんなで食べようぜ!』


4人で分割したハンバーガーは1口分だけだった。盗みの金は服や食い物に消える。別に毎日ゴミを漁っていた訳じゃない。


それでもその時のハンバーガーの味は、俺たちにとって特別だった。


―――


Scale Rainのナイフを腕を回してずらし、Insightは装甲の隙間を狙う。


俺たちの勝利条件は上手く隙間を狙った一撃を入れる事。あっちの条件は、機敏に動く俺たちを止めて連れ帰る事。


サイトウは剣が強いと思っていたが、どうやら体術も強いらしい。それでも入力は俺だ。俺がちゃんと判断出来なきゃ、サイトウの力は十分に出せない。


後ろの方で音がする。別のGP同士が戦っている音だ。DarlingとPandaの姿が見えない。


お互いのナイフは装甲で弾かれ、ギリギリで躱され、一向に当たる気配がない。

それでもどちらかが気を抜いたら、その時は一瞬で来る。


マイクを切ったままのペクトゥスのドローンを使う気は無い。それは面白くない。


「シュリ!覚えてるか?俺はこの前ハンバーガーを食ったんだ!あの時とは違くて、一人で全部だぜ!」


「俺も食ったよ!」


「あれはやっぱり美味いなぁ!どうやってあんなに美味いもん作れるんだろうな!」


「あれは作るの難しいんだぜ!知らないだろ!?」


「あぁ!知らないことばっかだよ!」


地面は殆ど傾かない。ゲームもこんなに楽しいのに、今みんなはそれどころじゃないらしい。


同接が上がっていく。コメントが加速していてまともに読めない。


ふと、言いたい事が出来た。それを言った時、ギルはなんて言うだろう。それが少しだけ楽しみだった。動揺するだろうか。そしたら俺はズルをしたことになるだろうか。


「ギル、俺好きな子が出来たんだ」


「なんだそれ?」


「大人曰く、触れたいとか離れたくないとか、そういう人なんだってよ」


「いいじゃん」


「でももう会えない」


「もったいねぇな」


俺やギルにとって、死ぬ事と会えなくなる事に大した差は無かった。

今はどうなんだろう。俺は今、死という物に興味が湧いた。


「なぁギル。これで俺が負けたら、コックピットを潰して見てくれないか?俺が勝ったら、お前のコックピットを潰す」


「いいぜ、面白そうじゃん」


少し距離を取って立て直す。良くない事なのは分かってる。でも今、このゲームそのものが果たして良いものなのかすら疑わしい。


[やっと本領発揮という訳だ]


「…行くよ」


「おう」


お互い一気に詰める。Insightの動きが良くなった。

こちらの攻撃に対して、Scale Rainは執拗に胴体を守った動きをしている。


[分かってはいるが、やはり保身的か。残念だな]


細かな移動操作で、相手のナイフを躱す。Insightの一撃が、Scale Rainの頭に入って潰れた。


「あー!負けちまったか…楽しいな、これ」


「あぁ…楽しかったぜ。リーダー」


「…リーダーか。上手くやれなかったけどな」


「そうか?俺はリーダーと一緒に盗みしてた時、楽しかったぜ」


「まじ?良かった」


倒れたScale Rain上に立つ。コメント欄が止めてくる。


「待て待て」

「本気で殺す気?」

「なんでそうなった。落ち着け」

「シュリ怖いよ」


「…シュリ?どうした?」


「いや…ギルはなんで、死んでもいいんだ?」


「さぁ?お前は?」


「周りが止める理由が気になった。って感じ?」


「周りって?」


「コメント欄とか?」


「あー…あれって、周りなのか?」


手が止まる。確かに、俺はこいつらの顔も名前も知らない。


「俺としては、お前が気になるのならやっちゃって構わねぇよ。リーダーだからな」


「なんだそれ。変なの」


「お互い様だよ」


[辞めろ!]


Scale Rainの中身から声がしたけど、もうどうでもいい。Insightがナイフを持ち上げる。


「ギル、俺さ。女の体らしいぜ」


「…まじ?」


「まじ」


「すげぇじゃん。分かんねぇけど」


[ダメだ!!シ]


ナイフを振り下ろした。装甲の隙間を突き刺したScale Rainは、もう二度と動かなかった。


うるさいコメント欄を閉じて、マイクを切った。


[気分はどうだ?]


「どうだろ。まだわかんないな」


[頭の矜恃としては、まぁ悪くないな。ギルとガラと言ったか。俺も覚えておこう]


どうして俺は悲しくないのだろう。ココの時はあんなに悔しかったのに、今はむしろ少し清々しい。


直接死体を見れば何か変わるだろうか。そう思って動こうとした時、Insightに強い衝撃があった。一瞬にしてカメラが消えた。頭を潰されたんだ。


すぐ近くで破壊音が響く。何も出来ない。


脱出レバーを引く気にはならなかった。ふわりと飛び上がった感覚があるが、何も見えない。


「サイトウ、状況分かる?」


[さぁな。俺は今、操縦室しか見えん]


エラーを吐いて固まってるペクトゥスを叩き起す。俺が人を殺したとはいえ、こいつはほとんど役に立ってない。


[…はい!なんでしょうか!?]


「今の状況分かる?」


[えーっと…メイン電源が切れてますね。ドローンの電源経由で、ドローンカメラを表示しますね]


小さな画面に映し出されたのは、小さく見える灰色のピボットテーブルだった。俺は今、何かに連れられて空を飛んでいるのか。


[テーブルから離れていますよ!どうしてですか!?]


「知らないよ」


椅子に座り直して、ペダルから足を離した。何だか疲れた。トゥエルブやロギには、もしもまた会えるなら謝らないといけないな。


ゲームを放棄して、俺は人を殺した。殺しはダメだと言われていたその理由を知りたかったけど、殺したところで分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ