GP22 「獣」
人数 79名
座標 20° 28km
傾斜 5° 5 °
Scale Rainの射撃を避ける。分かってはいたが狙いは俺だ。PandaやDarlingの攻撃を受けても気にもとめず、俺の方に真っ直ぐ来る。
「シュリ、お前とその機体を軍に持ち帰るのが、俺の仕事だ」
「…その機体に人が入ってるって、マジなのか?」
「らしいな、俺は学がねぇから詳しくは知らねぇよ。俺が拾われた頃にはこの人はもう動けないらしくてな…お前の機体の技術を模倣したらしい。お前の機体に入ってるそれ、俺らがあの時盗んだあれだよ。名前は何だったっけか」
「…OSか?」
「違う違う、なんか名前があるらしいんだ。お前なら知ってるだろ?俺は拾われるまで、おーえすってのも知らなかったけどな」
[…構わん、名乗ってやれ]
名乗る気は無い。これは隠す物だと、ロギから教わってる。その為のもうひとつの顔がある。
「…ペクトゥスだよ」
「そんな名前だったかな?まぁいいか。俺は持ち帰るだけだから」
サイトウは小さく唸った。齋藤はこういう時名乗りたいタイプだが、今じゃない。
[はい!ペクトゥスはシュリさんのアシストをする高性能AIです!]
余計な時に喋りやがった。慌ててペクトゥスのマイクを切るが、普通に遅い。
「いや、違うな。AIじゃないって、そう言ってた気がする…」
ゆっくり歩きながら詰めてくるScale Rainと距離を取りながら、視界に捉え続ける。Pandaが隙を伺っているが、Pandaの装備じゃ難しいらしい。
「ヒュドラ君、早く決めた方がいい。他の機体が少し集まって来ているらしいよ。配信してないそうだ…例の亡霊だね」
「分かってます!でも…」
「なぁ、シュリ。俺はあんま詳しく聞かされてないんだ。だから今この状況が、どこまで酷いのか分かってないんだよ。俺はお前みたいに賢くないしさ。今じゃ大きな軍の1番下だしさ…あんまり居心地は良くないんだ」
俺の記憶のリーダーは、こんなにお喋りじゃない。でも声や話し方は、俺の知ってるリーダーそのものだ。
こいつは本当にリーダーか?そんな疑問が頭に浮かぶ。
「…Pandaさん。俺、こいつの中身を暴きます。手伝ってくれませんか?」
トゥエルブが反応する。
「暴いてどうするのさ?」
「…どうするとかは決めてないです。でも確かめたい。じゃなきゃ終われません」
「…Insightか。いいね、レイドボスって訳だ。楽しませてくれよ。ヒュドラ君」
「…はい」
「よーしじゃあ作戦会議と行こう。ギル君も是非」
「…は?」
トゥエルブの呆れ声がする。リーダーの方も一瞬立ち止まった。
「…俺も?」
「そそ、君を倒すための作戦会議。君は硬いしなぁ。僕1人では無理そうだ。やっぱり決め手は、格闘兵器を持つInsightになるかな?」
「ちょちょ、Pandaさん?」
「僕とDarlingが上手く足止めして、その隙にInsightが脚を潰す。そしたらあとは無力化して、中身を暴こう。Scale Rainはどう立ち回る予定かな?」
「俺は…」
全く意味が分からない。この人はやっぱりおかしいのでは無いか。
「あぁ、これが使えるんだった」
Scale Rainが右手に持っていた銃を俺に向けた。発砲とほぼ同時にPandaが銃に弾を当てて軌道を逸らしてくれた。
「銃を使えるんだね。了解」
このレベルなら、俺が冷静に対応すれば十分勝てる。それなのに心のどこかで、自分の決めたことに反発している。
PandaがScale Rainの周りを高速で動きながら、的確に射撃を入れて行く。Darlingの射撃でぐらついた隙を見て接近する。
攻撃の入力に、Insightが反応しない。相手に当てる少し前で止まった。
その銃剣の先に、Scale Rainの手が伸びる。後ろに引いて構え直す。
[なるほどな…あれが同類か]
サイトウが攻撃を辞めた理由は、遅れて俺にも分かった。あのGPの中のOSが、サイトウのような人間臭い動きをしたからだ。
「人の脳みそ入れたOSって、ちゃんと動くんやね」
Pandaが俺に聞いてくるが、残念ながら俺は知らない。
「皮肉な話だね。人より先に壊れる為の人型ロボットに、人を詰めようなんてね」
「Scale Rainは壊れないぜ」
「そんな訳は無いよ、ギル君。残念ながら、それを教えるのは僕じゃないけど」
そう言いながら攻撃するPandaの攻撃は、Scale Rainには効いている様子はない。
対してScale Rainの射撃は、Pandaには当たらない。
[シュリ、何時まで耽ているつもりだ。動くぞ]
「…あぁ」
[あちらの中身が起き始めた。お前も動きを見れば分かるだろう]
Scale Rainの動きが、機械的な動きから徐々に滑らかになっていっている。
最初こそギリギリで躱していたPandaは、今は十分に距離を取って行動している。
[果たし合いは久しいな。胸が踊る]
「…リーダー」
Scale Rainが俺を見つめる。その奥の人間がどんな人なのか、俺は全く知らない。サイトウが勝手に盾を捨てて銃剣を両手で構える。
[…いざ]
「行くぞ!」
思い切り前に詰める。装甲の僅かな隙間を狙ったInsightの突きに、初めてScale Rainが大きく避けた。続けて前に出る。
Scale Rainは腕に纏った装甲で銃剣を受け止める。Insightでは押し切れず弾かれた。相手の突進を軽く跳ねて避ける。
素早く旋回して振り下ろした銃剣を、相手は的確に腕で受け止めた。
「…お前」
「もうお前じゃねぇよ、俺はシュリだ」
「…なら俺も、もうお前のリーダーじゃねぇ」
Scale Rainの蹴りを受けて後ろに下がる。臆することなく前に出る。大きく振りかぶった時、新しい声を拾った。
[…辞めろ]
一瞬立ち止まったScale Rainの脇に、銃剣を構え直したInsightが突きを入れる。Scale Rainは止まらず、もう片方の手でInsightを掴んだ。
[子供同士で争うのは辞めろ]
Scale Rainの中身だ。銃剣から手を離し、Insightは相手の顔面を殴る。その腕を掴んでギルは小さく笑う。
「ガラさんごめん、それは無理だ」
Scale Rainが片腕でInsightを放り投げる。明らかに俺たちよりパワーが上だ。
「シュリ…これがお前の手に入れた幸福だったんだな。全く…羨ましいぜ」
銃剣を引き抜いたScale Rainが手を広げて構える。
「こんなに楽しいことを、大人達は俺らを捨ててやってたんだな!行くぜシュリ!」
「あぁ!来いよギル!」
俺とScale Rainの間にPandaが割り込んだ。
「ごめんね!盛り上がってる所。別の亡霊が接近しているらしいから、早く逃げ」
Pandaを踏み越えてScale Rainに殴りかかる。腕で防いだScale Rainに、腰に提げていた緊急用のGPナイフを1本取り出したInsightはScale Rainに投げた。それをScale Rainがキャッチする。
サイトウはやっぱり戦いが好きだ。気が合う。
「…いいね、そう来なくちゃ」
[…貴様、何のつもりだ]
乗り気なギルとそうでもないガラと違い、俺たちInsightは勢いよく詰める。
亡霊なんてどうでもいい。今この瞬間、目の前にいる友と遊べるのが何よりも楽しいんだ。戦争だとか、人の命とか、そんなことどうでも良くなるくらいに。




