GP21 「白黒」
人数 81名
座標 20° 25km
傾斜 5° 2°
速い。照準速度が全く追いつかない。
「目と体は別人か?完全なチートでは無いようだね」
「やっぱり俺、ズルいよな」
「いいや、楽しめるから僕は構わないよ」
こっちからしてみれば、そのぶっ飛んだ加速をされる方が余程チートだ。でもPandaの言い分も理解出来る。
「僕の方がズルいかな?まぁこのゲームは自分の理不尽の押し付け合いさ。気にする事はない」
Panda隠れていたDarlingの射撃を余裕を持って避ける。
GPのセンサーは、相手の攻撃の殆どにアラートが出る。音の鳴る攻撃もあれば、画面にマークが出るだけの物まで、その段階は脅威度で変わる。
完全な遠距離狙撃が有利にならない為の処置だ。だからDarlingの射撃は当たり前に避けられる。
その避けた一瞬をどう使うかが、俺の役目だ。だがPandaはそれを超加速でかき消してくる。
「俺は今回のゲームはリタイアする。見逃してくれない?」
「それなら、僕の為にここで負ける手もある。君は早々にゲームを降りれて、僕はポイントを稼げる」
「嫌だよ、修理費は誰が払うと思ってるのさ?」
「そのもうひとつの頭、恐らく企業のまわし者だろ?そこに請求すればいい」
勘がいいのか、前例があるのか。
「…君がその後、海まで運んでくれるなら良いよ」
「え?まじ?」
Pandaの動きが止まった。隙を見たDarlingの射撃を躱して地面に降りる。
「…いいよ、乗った。そうしよう」
「は?」
「僕が君を海まで護衛する。その代わり、君は僕に端で負ける。そうしたら、Darlingに担いで貰えばいい」
「どこまで正気だ?」
「大マジだよ。なにか証明出来るものは…無いか。はは」
トゥエルブが反応する。
「証明しな。それが出来ないなら受けない」
「僕は君と話してるつもりは無いんだけど」
「私にInsightを海まで運ばせるんだろ?」
「Darlingの方が信用できるかなと思ったけど、ヒュドラが良いなら、僕がInsightを海に投げよう。君は好きに自分の矜恃をやるといい」
[…ほう]
サイトウが小さく声を漏らす。
「分かった、お願いするよ」
「ありがとう。悪いようにはしないさ。僕とてピボットゲームのランカーだ。ゲームのルールの範囲で、君を海まで導くことを約束しよう」
Pandaが外縁を向く。コメント欄はこの状況に何故か盛り上がっている。
「Pandaが味方に着いたぞ 全く嬉しくない!」
「これどうなる?」
「初めての展開すぎてやばい」
「運営止めないの?人死んだのに?」
「…Pandaはなんで、俺の提案に乗ったんだ?」
「面白い方に着くのは当然さ。ここは軍も企業も関係ない。ある意味では最も平和だろ?」
「…どうかな?今は違うかも」
「Darling、君は?」
ビルの隙間からDarlingが顔を出す。
「…分かった。Insightが行くなら私も行く」
「いいね。冒険は多い方が楽しい」
今はおおよそ真ん中の半径25km。ここから外縁まで一直線に行けるだろうか。
「外側もそれなりに居るね」
「ランカーはScale Rainが居るね」
「割と落ち着いてる。みんな疑心暗鬼だ」
「みんなあんまり動いてないね」
Pandaが唸る。恐らく俺のコメント欄と、話している内容は同じだろう。
「Scale Rainかぁ…僕はあいつ苦手なんだよなぁ」
「どんな人?」
「軍人さん。まぁ会えばわかるよ」
周辺は気味が悪いほど静かだ。遠くの方で激突音がかすかに聞こえる。
灰色の人口都市はただそこにあるだけで、生活の痕跡すら何も無い。こんなにじっくり観察する時が来るとは思ってなかった。
ひび割れた壁は今にも壊れそうで、他に実際に破壊されたビルがいくつもある。すぐそこに見える建物は一体どんな用途の建物を模して造ったのだろうか。
コックピットでは匂いや風は分からないが、きっと鉄と油と火薬の匂いしかしないのだろう。ここは初めから、それをする為の街だから。
Pandaは鼻歌を歌いながら機体を静かに動かしている。通信機越しから聴こえてくるメロディは聞いた事がない。
コメント欄が歌の題名を教えてくれてるらしい。そもそも音楽なんて殆ど知らないけど。
「…音楽、好きなんですか?」
「好きさ。リズムは人との繋がりには欠かせないと思ってる。Meltは知ってる?あいつとは歌の趣味が合うからね。仲良くしてるよ」
「…あの人変わってますよね?」
「今はそこのDarlingにゾッコンだから。良くも悪くも好きになると真っ直ぐだからね」
「付き合い長いんですね」
「ゲームをやる前からの仲だからね、君とDarlingは違うのかい?」
「そうですね。俺は拾われた感じです」
「へぇ、あのDarlingが?」
トゥエルブは何も言わず、静かに後ろを付いてくる。Pandaにロギの名前を出そうか悩んで辞めた。
ふと思い出す。あのショッピングモールでMeltの名前を出した男は、もしかしたらこいつなのかもしれない。
「俺と会ったことあります?」
「無いんじゃないかな?それに…いや、その話は後にしよう」
目の前に居るGPに、俺も立ち止まった。重装備で堅苦しい、如何にも軍隊の兵器みたいな見た目をしている。
「やぁ軍人さん。調子はどうかな?」
Pandaの挨拶に、相手GPは返事をしない。
「無口なのはガラ君の方だっけかな?」
「…なぁ、Insight。お前か?」
聞き覚えのある声だった。
「…リーダー?」
「…あぁ、やっぱりお前だったんだな」
「…ヒュドラ君、ガラ君の知り合い?」
Pandaが俺に質問する。その返しを、目の前のGPがする。
「ガラさんは、以前の縦で滑落して半身不随になったんだ。それで今は、このScale Rainに」
Pandaが口笛を吹く。追いつく理解とは反対に、気持ちがどこかに飛んでいきそうな感覚があった。
Darlingが1歩前に出る。
「軍隊までそんなことしだしたら、とうとう終わりだよ?分かってんの?」
「分かってないのはあんたらだろ?って、俺は別に、拾われた恩を返すだけなんだけどな」
飛び込んできたScale RainからPandaは器用に避ける。俺のInsightは状況が飲み込めなくてモロにタックルをくらって倒れた。
「なぁ、お前。シュリって名前なんだな。名前があったなんて知らなかったよ」
「これは拾ってくれた人が付けてくれたんだ」
「俺もあるぜ、ギルだ。お前、女みたいな名前なんだな」
「…うるさい!」
Darlingの射撃でよろめいたScale Rainを推し飛ばして立ち上がる。固い装甲を纏ったScale Rainに目立った外傷は無かった。
「人を積んでる割に、反応はイマイチじゃん」
「あぁ…まだ俺が慣れてな」
Pandaのキックが更にScale Rainに当たる。軽いPandaの攻撃は、鈍重なScale Rainにはあまり効果が無さそうだった。
「うーん…僕は役に立てないかも。ヒュドラ君、逃げよっか」
Pandaの提案にトゥエルブが反対する。
「いや、これを放置したら手がつけられなくなる。ここで終わらせよう」
「…Darling、それって殺すってこと?」
「もちろん。これはルールの外の化け物だ」
トゥエルブの声は、いつもより怖い。リーダーを殺すと、ハッキリそう言った。
「ヒュドラ君。君はどうしたい?」




