GP18 「頭」
人数 115名
座標 20° 30km
傾斜 0° 0°
暗くて静かで狭い。サブモニターには俺の画面しか映っていない。トゥエルブと離れて、俺1人のチャンネルを立ち上げた。
初配信とは言え前回がある。同接は想像以上だ。
「新時代の幕開け」
「2回連続縦になったら伝説」
「今回も楽しみにしてる」
「炎上しないか?こいつ」
「切り抜きから来たけどこいつ怖いな」
怖い、その文字に反応する。あの時のココの顔が脳裏によぎる。
イヤホンからサイトウの声がする。
[相手が生きていようが死んでいようが、人間の思考は変わらんな]
返事はしない。代わりに元気な女性の声がする。
[誰も死にません!私に任せてください!]
「…そうだね。頼んだよ」
[はい!頑張りましょう!シュリさん!]
コメントが反応する。
「他に誰か乗ってる?」
「噂になってたOSか?」
「話すの?」
「AI?声が可愛い」
[コメントの皆さん初めまして!私、最新の高性能AIのペクトゥスです!]
コメント欄が返事をするタイミングで、目の前の赤色のランプが点灯した。
コックピットの最終確認をして、操縦桿を握り直す。モニターの上に提げた豚のぬいぐるみを見つめる。
[登録コード確認。交戦申請を許可します]
ランプが青色に変わり、床が抜けて灰色に落ちる。空は曇っていて、予報では雨が降るかもしれないらしい。
黒色の雨粒みたいなGPが、一斉にピボットテーブルに落ちていく。相変わらず空を飛び回るAeriallagは、この中で文字通り浮いていた。
同じ雨粒の一機、Darlingが遠くに見える。今回はデュオでは無い。もちろん直接やり合うつもりも無い。
次々と着地する中、俺のInsightも地面に落ちて音を聴く。
開始直後は乱戦だ。近くに居る奴から次々と戦い出す。逆に言えば、今遠くに降りた機体は、暫く来ない。
今近くに落ちた中にランカーが居る。
機体名Panda
総合ランキング67位
詳しい情報は知らない。100人居るランカーの全員を把握するのは時間がかかる。それでも機体の見た目だけは、軽く頭に入れてきた。
俺を、いや、Insightを殺しに来るやつが居る可能性がある。
建物の影から出てきた。Pandaじゃない。戦闘態勢を取る。
「行くよペクトゥス」
[了解です!]
左手に装備した盾を構えながら距離を詰める。相手は引き撃ちスタイルだ。Insightは縦を利用しながらも、相手の攻撃をあくまで直線的に躱す。
背中に装備したドローン子機が展開する。不規則な動きをしながら相手機体まで飛んでいき、小口径のマシンガンをばら撒く。弾は殆ど当たらない。
それに気を取られた相手の隙をついて一気に距離を詰めた。間合いに入る。
右手の銃剣で突く。的確に頭に入った相手機体はよろめいた。
後ろに下がろうとした機体を左手で掴む。もう1回、今度は脚を狙って銃剣で切り潰した。
[…悪くない]
[やりました!流石です!シュリさん!]
前回の腕よりも、もう少し負荷の高いフレームに交換してきた。Insightの攻撃もより精密だ。
その分重くなったのを、ドローン子機の撹乱で埋める。殆ど威力にならないが、スラスターや関節にはダメージの入るギリギリの口径だ。
「ドローン出てきた…」
「おいおいおい」
「出場出来るならOKなんやろうな」
「これがペクトゥスちゃんの力かぁ」
サイトウの声は、配信には乗っていない。俺とペクトゥスの声だけだ。
InsightのOSは、あくまでもペクトゥスだと誤解させている。実際は変わらずサイトウのOSで、ペクトゥスはドローン子機専門だ。
ロギ曰く、不祥事はアステリア社に押し付ければいい。あまり乗り気じゃないし、ペクトゥスに人は殺せないし、サイトウは殺さない。
後ろからアラート音がして横に避ける。他の機体が来た。振り返った瞬間、白黒の機体が横からかっとんで来てそいつに体当たりをする。Pandaだ。
Pandaがよろけた相手機体に追撃を入れて、いとも容易く撃破した。
「こんなに早くヒュドラに出逢えるとは、幸運だな」
盾を構えるが、Pandaは棒立ちだ。
「…人違いでは?」
「いやいや、Insightだろ?流石に分かるさ」
[ヒュドラ、複数の頭を持つ蛇の怪物ですね]
「お、正解。今の君にピッタリなあだ名だろ?今決めた」
「悪いけど、ちゃんと名前があるんだ」
「それにしては、随分と聡明な名前だ。名は体をあらわすとは、あまり信用ならない言葉だ」
Pandaは一切動かない。周りの音が近づいてくる。
「今日は君と戦うつもりは無いんだ。その身体に一体何人居るのか…調べるのは僕の役割じゃない」
急に大きく横に動いたPandaが、ちょうど出てきた他の機体に突進して戦闘を開始した。俺も動く。まだ近くに他の機体が居る。
「次に会う時は戦おう、多分ね」
そう言い残して、Pandaが視界から消える。代わりに出てきた相手機体が詰めてきた。
[…オロチか、美濃の大蛇、悪くない]
Insightの動きが良くなった。遅れを取らないように小さく息を吐いてモニターを見つめる。
初動の人数の減り具合は、順調に狂っていく。今この瞬間、他の誰かの今の夢が死んだ。
人は死なない。だからこそ、その後がある。俺にだって、あの公園の夕焼けの先がある。
死んでいないから、みんなに先がある。だからこのゲームは終わらない。そもそもこのゲームは、人を殺さない為の戦争だ。
このゲームを戦争だと言う人も居れば、そうじゃないと言う人も居る。その違いは、人が死んだか、巻き込まれたかの違いだと、ロギは言っていた。
人は死んでいないから戦争じゃない。でも、巻き込まれたなら、これは戦争だ。
正直、俺にはどうでもいい。
勝てないと判断したのか相手機体が逃げる。追う気にはならなかった。
「これはもう総合ランキング乗るか?」
「AeriallagとMeltが接敵した!」
「前回よりもGPらしい動きを意識してるね」
「Insight恐ろしいなぁ」
俺は、ココにとって悪い人だ。もうそれは変えられない。だって、今こうして俺は楽しんでいるんだから。
「コメントのみんな、真っ直ぐ俺に来る奴が居たら教えて」
地面が傾き出した。俺は上の方だ。下に向かって進む。人の多い所がいい、俺を殺す奴が居るのなら、目は多いに越したことはない。
コメントのひとつに目がいった。
「配信してない奴がいる。少しずつそっち向かってる」
「配信してない?こっちに来てる?」
復唱する。コメント欄がザワついた。マップもレーダーも無いピボットゲームは、配信の鳩行為が索敵の大部分を担っている。
それは表向きの建前で、裏の理由は人殺しと言うマナー違反を取り締まる大衆の監視だ。
つまりそいつは、ゲームの優位性を捨てても、自分の詳しい位置や状況を見られたくない理由がある。
俺を殺す為だ。数の多い前半なら、赤点が多く隠れやすい。今ここで見つかったのは本当にラッキーだが、常に監視は出来ない。
「見つけてくれた人、ありがとね」
後半戦は一気に分かりやすくなる。そこまで耐えれば、難易度は一気に下がる。
だからと言って隠れる気は無い。このゲームを盛り上げながら、そいつの目的すら潰す。




